大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,546 / 2,022
本編

神と信仰

しおりを挟む
最悪の寝覚めを味わいつつ翌日。というか朝。夢は見たっけ。まぁいい。
聖女サマはもう屋敷を出て、朝一番に王都へ向けて出た後だそうな。余談だが、北へ出向いていた英雄と丁度屋敷を出たタイミングで合流出来たらしく、その英雄のスキルであるアイテムボックスに放り込まれて超速で帰っていく事になったらしい。
「………。」
欠伸をひとつ。昨日聞いた話を咀嚼する。
《聖女》ことフライナ・シグナリムが一年以内に死ぬ。
正直に言うと、俺もシャルも予想していたことではあった。
理由は単純、そもそも《聖女》というシステム…というか作りが強引にも程があるからだ。
《勇者》や《王》とは違い、元はただのヒトが、神の力を身体に受け入れて、耐えられる訳がない。
加えて、初代の《聖女》からどんどん結界を支える期間が短くなっていたのも分かりやすかった。
ご丁寧にも半分ずつ減っているのだから、次がどのぐらいで終わるのかも目安がつく。
正直な話、いつ限界が来ていてもおかしくはなかったのだ。むしろここまでよく耐えていた。
民衆もそれを理解しているはずだが口には出さない。理由は分からない。まるで口裏を合わせたように、何も言わないのは少々不気味でもある。
「一年、か…」
長くても、という言葉がつくが。
「シャル、いるか?」
『なんだ』
「機人を滅ぼした時、どうやったら滅ぼした扱いになったんだ?」
既に勢力がひとつ欠けたが、元はと言えば三竦みの戦争。種族ひとつを根絶やしにすることも考えていたが、ハーフは残った機人とヒトを神が混ぜて作った存在。
つまり、敵対勢力であった機人が三神の管理下に入ったからこそ出来た存在だ。順序的には機人が敗北し、三神が機人を利用し、ハーフが生まれる。機人は全滅した訳では無いのだ。
『方法はひとつ。神を殺す事だ』
「…は?」
『神を、殺す事だ』
「いや聞こえてる。無理だろ」
俺が会った神は世界神だけだが、本能的に絶対に勝てないと知っていた。感じたのでも理解したのでもない。手から離れたリンゴが地に落ちるのと同じように、ただただ当然のごとく知っていた。
あれには勝てない。
だが、シャルは勝てると言う。
『神というのは信仰によって力を得る。信者の数が多く、信心が深ければ、それに応じて力が増す。神だって、何も不死身じゃないし無敵じゃない。信者の数を減らせば衰えるし、信心が浅ければ弱る。そうなった神は下界に叩き落とされ、死ぬようにもなる』
「…システナは?弱って下界に落ちてきたけど、神じゃないと殺せないつって生き返ってたけど」
『多分《聖女》が信仰を集めてるからだな。お前の…なんだっけ、二年になってからの聖書の授業を少し聞いた感じだと、内容はほとんどグルーマルを信仰する形になってる。そのせいで力の大半はグルーマルが独占してる訳だが、一方で《聖女》自身を深く信仰してる輩もいる訳だ。そのおかげで、システナは首の皮一枚、不死身という最後のラインを保てているんだろう』
《聖女》は元々システナの力から生み出された存在。なら、《聖女》を信仰する力の行き先がシステナであってもおかしくはないか。
「要約すると、魔族の数を減らして、神を天界から引きずり下ろして、力を削いだ状態で殺せと」
『そうなる。補足をすると、最終的にはただのヒトでも殺せるようになるが、神の力を持った特殊ユニットなら、その力を使う事でもっと早い段階で殺せる。分かりやすく、システナを今殺せるかどうかという話と同じだな』
「ふむ…どのぐらい機人を殺した?」
『さぁ。都市を三つか四つか…俺だけでもそんだけ殺した。機人は数が多かったのもあるが。逆に、魔族は数が少ないから、都市をひとつ潰すだけで大打撃になるだろうな』
「都市…ね」
思い浮かぶのは空を泳ぐ魔族の都市。あれを落とすことが出来れば…
いや、今はどうしようもないか。
とりあえずはシエルの様子を見てみるか…
しおりを挟む

処理中です...