大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

時間潰しと着替え

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今は忙しいから、また後で話をしよう。そう言ってマルセラに挨拶を済ませて部屋に戻る。
その途中、ふとユーリアが口を開いた。
「なぁレィア、君は今日暇か?」
「あ?あーまぁ。元々王都の方に来る予定もなかったし。お前に頼んだ調べ物が終わるまで適当に観光すっかなぁ、ぐらいだった」
幸いにも金はある。手持ちの金は結構減っているのだが、王都ならどこか適当な所へ行けばナナキの残した宝石が売れるだろう。
「そうか。ならずっとこの家にいるというのも身体に毒だ。少し出かけないか?」
「そうだな…どうせ訓練所も使えないしな」
あの熱の入りようは中々…なんというか、直球で言うなら、やらなきゃ死ぬような気迫を感じた。随分と長引きそうな気配もした。
「だったら着替えてくる。終わったらそっちに呼びに行くから待っててくれ」
というやり取りがおよそ一時間前。
もう忘れてんじゃねぇのかと思って一回ユーリアの所へ行こうかとも思ったが、シャルに「女の着替えってのは時間がかかるもんなんだ」と言われたので黙って待つ事に。
いやお前女だったけど、そんな身だしなみに気を使うような生まれか?と思ったが、決して口にはしない。したら最後、少なくとも三日は口を利いてくれないのは間違いない。
そういやこんな事、去年もあったようなと思い出す。確かあれは炎天下の中三十分だっけか…あれも長かったし苦しかったなぁ。
そこでふと思い出す。
「そうか、じきに星祭りか…」
呟いた所で、部屋の扉がノックされる。
「おーい、レィア。待たせたな。やっと終わったぞ」
「やっとか。今開ける」
立ち上がって扉を開くと、黒い髪を短髪にした、髪と同じ色をした目を持つやや幼い顔立ちをした男がそこにいた。
一瞬誰か分からなかったが、目元をよく見ると何となくユーリアと似ている気がする。そう思った直後、彼の全身に漣が広がる。
一秒程でそれが収まると、ユーリアが姿を現す。
「どうだ、びっくりしたか?」
くるりと回ってポーズをとるユーリア。ただ、その声だけは若干低くなっている気がする。
「ユーリア…悪いが、変装系の魔導具は俺にほとんど効かねぇんだ。今も発動してんだよな?」
「………もしかして、その反応からすると君には私が見えているのか?」
ん、声も戻ったか。そっちも魔導具だったようだ。
「声も元通りだな。昔、似たような事をされた時に分かったんだが、一度会った奴の変装はスキルがなんやかんやして元の顔とかを復元して見えたりするらしい」
「なんだつまらん。この容姿を作るのに一時間かかったと言うのに」
おいシャル、目の前の女は俺やお前が思ってるような着替えや準備をしてた訳じゃないらしいぞ。
「わざわざそれの為に待たされてた訳か。しかし変装ねぇ…する必要あるのか?」
「生憎と私は結構な有名人なのでな。それなりに変装しないと面倒なのだ」
そう言ってユーリアは優雅に一礼し、手をすっと差し出す。
「それではお嬢さん、僕にエスコートさせて頂けますか?」
妙に慣れた仕草と様になっている言葉に一瞬騙されて手を取りそうになったが、発言を思い返してそっと拳を握り、ユーリアの頭に落とす。
「痛ッ!?」
「次やったらマキナつけてぶん殴るからな?」
まぁ冗談はこれぐらいにして。
行きますか。
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