大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

説得と咆哮

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相手は囚われている。だから武器なんて持ってない。
なんて思っていたが、無手の奴が魔獣なんてまず倒せないってことを忘れてた。
相手の手に握られているのは大振りのナイフ二本。
赤黒く、それこそ血のような色合いは、嫌な予感しかさせない。
「くっ!」
ギィン!ガァン!と派手な音を立て、暗闇の中に火花を散らせる。
俺が今持っているのは銀剣。大振りで、隙が大きいが一撃が大きい。そんな武器だ。
対して相手はいくら大振りと言ってもナイフ。俺の武器より小さく、速い。
相手の一撃に威力はない。剣から伝わる衝撃から、そう判断した。
たとえば、魔獣に振るうなんて、問題外の威力。しかし、その程度の威力でも、何故か当たってはいけない。そんな勘が働いていた。
アレはヤバい。絶対に。
『今代の!《煌覇》だ!黒剣を抜け!』
シャルも同じく嫌な予感があったらしい。
けど、《煌覇》は使えない。
『何故!?』
もし相手に《煌覇》が当たれば確実に死んじまうからな。だからって適当な所に《煌覇》を撃てばその隙にやられる。
「アーネ!体調は大丈夫か!?」
しかし、返事はない。本格的に体調を崩したか?炎が灯ったままなので、多分意識はあるはずだが。
返事はなくとも、聞こえていると信じ、声を張り上げる。
「もし参加出来るなら、少しでいいから援護頼む!」
ガィィン!と一際大きな音を立てて距離が出来、一瞬だけ隙が生まれる。
「『この身にあるは不屈の信念』」
《煌覇》が撃てない以上、こうしてロックを外すしかない。
「『この手にあるはその証』」
相手が再接近。心なしか、枯れ枝の様だった腕に、人らしい色がついてきた気がする。
「『望むは証の姿なり』」
必死に相手の連撃を弾く。剣先、剣腹、柄。複数の攻撃を、一撃で全て弾く。
「『その姿は彼の者のつるぎ、盾である』」
がこん、と言う音が鉄の部屋の中にこだまする。
「ふッ!!」
真下から真上に銀剣を振り抜き、相手を弾きながら黒剣を銀盾から引き抜く。
やや低めの天井に銀盾がぶつかり、跳ね、俺の髪がキャッチする。
「『彼の者の盾となりて』、起動」
銀盾が開き、面積を増やす。これで準備は整った。
「俺達は別に、お前と戦いたい訳でもないし、ましてや殺そうとだってしてないんだよ。どうだ?お前さん」
先程までと比べ、より苛烈な攻撃。
しかしそれを、俺は難なく黒剣と銀盾を駆使して捌いていく。
「外の世界に出たくはない?」
その言葉に、ほんの僅かに彼女は反応したように見せたが──。
「アァッ!!」
返ってきたのは獣のような咆哮だった。
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