大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

鉄の部屋と小さな影

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俺とアーネが中に入ると同時に、扉が閉まり、一切のあかりが無くなった。
その瞬間、俺が感じたものは。
──濃密な血の臭いと、鼻が曲がりそうな程の腐臭。
「ッ」
一瞬後、アーネが火を灯し、辺りが炎で照らされる。爆発しないかどうか少し不安だったが、大丈夫だった。
広さはそこそこあるが、天井がやや低め。全て鉄で出来ているらしく、まさに監禁するためだけに作られたような部屋だ。
いや、ような、じゃねぇのか。
『胸糞悪ィな』
同感だ。
炎で赤く照らされた床はまだ乾ききっていない血と、元は何だったか分からない程腐食した何かの残骸。
何か分からないが、俺にはわかった。
「…魔獣の死骸、か」
間違いない。恐らく、ここが夢で出て来たあの場所だろう。
「うっ……!」
臭いからして分かっていたであろうアーネが、死骸を見てどうやら限界に達したらしい。あまり愉快じゃない音と、びちゃびちゃと言う音をなるべく聞かないようにして、炎の灯りが届かない奥へと足を進める。
『…おい、見えるのか?』
緋眼を使えばいいんだろ?ただの暗闇だから、及第点にすら及ばないような緋眼でも何とかなる。
『正解。わかってて何よりだ』
薄ボンヤリと見える視界の中、にちゃり、べちゃりと靴裏に粘つく血の音を聞きながら奥へ。
この血、一体誰の血なんだろうか。明らかに血の量が異常だ。
そう思いながら、大して歩かないうちに。
『……今代の。気をつけろよ』
いた。
「……」
ボロボロ、ズタズタ。酷い人が見れば雑巾や、あるいはゴミ。あるいはもっとストレートに、こう形容するかもしれない。
死体、と。
それ程までにソレはくたびれきり、死にきっていた。
見下ろして見ると、うつ伏せに転がり、顔は見えない。長く伸びた髪を衣のように纏っているが、それは死んだ者に着せる白い衣にも見えた。
その白い髪の端から覗く細い枯れ枝のような腕が、やけに生々しかった。
しかし。
そんな姿でも。
まだ死んでいない。
こんなにも酷く、惨めな姿になってもソレは──彼女は生きている。
間違いない。じゃなきゃシャルが警告を飛ばす訳もないし、
その警報を無視し、そっと手を伸ばす。
『おい!剣を構えて手を引け!』
シャルも無視し左手で彼女を少し揺さぶってみる。
変化は劇的だった。
俺の左手を、その枯れたような手のどこにこんな力があったのかと聞きたくなるような力で握り返してきた。
その力は万力のようで。
「ッッ!!」
とっさに振り払ったが、未だに握られた手首が痛む。
「お、おい。俺達は話があってここに来たんだ。別に闘おうって訳」
『足元!即座に上に!』
シャルの言葉に反応して、全力で上にジャンプ。
途端に、足元がバクン、と閉じた。
「…話し合いは…無理か」
『むしろ、理解してるかどうかすら分からんな』
着地したが、今度は攻撃は無かった。
シャル、仕組みは?
『わからん。鉄を操るスキルって可能性か?けど、そうするとこんな部屋に閉じ込める理由が分からんしな』
同意しよう。あとは暗闇そのものを操るスキル?
『考察は後だ!相手が突っ込んでくるぞ!』
小さな影が、俺に向かって跳ねた。
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