大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

捕縛と問答

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十字に斬られたワイバーンが、物となって落ちてくる。
黒剣を折り、手頃な長さにしてから鞘にしまい、じっと降ってくる死体を見上げる。
生臭い臓物、赤黒い血、それらに紛れて逃げようとする何者か。
物陰から飛び出したはいいものの、どうも身体のバランスが悪いらしく、明らかに動きが悪い。
「血海から繋ぎ──第一血界《血鎖》」
降ってきた血が、一滴残らず形を変える。
それは長大な血の鎖となって、逃げようとする人影を後ろから貫く。貫通したことを確認してから鎖の先を肥大化させ、抜けないようにしてからこちらへと引っ張り、併せて血を抜き始める。手足からは力が抜け、対抗する体重も減り、視界は薄暗くなって思考は靄がかかるだろう。
それでも逃げようとする姿勢は生への執着か、それとも任務遂行のためか。
いずれにしろ、どうやってでも俺から逃げようとしたのは間違いない。
ただ、そうまでしても逃げる事は不可能だった訳だが。
鎖を引きつつ、俺自身もゆっくりと寄り、距離はすぐに零となった。
貫いたのは二人分。魔力を使い果たした魔法使いと、利き腕を切り落とされた半魔族。
半魔族の左肩、男の左腕を貫いた鎖は、さらに逃がすまいと二人を拘束する。
「き、貴様、一体何者──」
男の問いには答えない。今すぐ殺してもいいが、抵抗手段のない男より、反撃の切り札を持ちうる半魔族の方が優先すべきだろう。
血鎖を操作する左手で鎖をさらに締めつつ、女の方を向く。
「どこに連れ去る気だった?」
「………。」
返事はない。
「誰に命令された?」
「………。」
目も合わせない。
「どうしてこの石が要る?」
「………。」
半魔族は黙り続けるだけ。黙られていてはどうしようもない。
『レィア、こいつは無理だ。聞くほうを変えろ』
だな。まだ喋りやすそうな方に聞くしかないか。
「おいコルドー、お前はどこに行くつもりだった?」
「っ、貴様なんぞに教えるか!」
「………。」
しまったな、聞く順番を間違えた。コルドーから聞いときゃまだ可能性はあったかな。
「仕方ないな、こうなりゃ口を割るまで吊るすか」
「吊るっ…!?」
丁度いい事に壁も近い。適当にマキナを分けて突き刺しときゃいいか。
「五分だ、きっかり五分で喋れなくなるように血を抜く。それまでに喋れる事を全部吐けば下ろしてやるからな」
ずるずるとそのまま引きずり、壁際まで行く。
「ちょうどいい感じに肩やら腕に穴が空いてるな。んじゃここに杭でも──」
そう言いながら、血鎖を解いた瞬間だった。
コルドーが懐から何かを取り出し、短剣のように構えて俺の方をキッと睨んだ。
「死ね!!」
短く、端的な言葉が俺を捉えた。
なにかするかも、とは思っていたが、魔力が切れたコルドーに何が出来る。せいぜいがナイフ一本持っているかどうかだろう。そう思ってほぼ注意を半魔族に向けていた。
そして、それが致命的となった。
鈍色に光るそれは短剣と呼ぶにはあまりに丸っこく、殴る程度にしか殺傷能力はないように見える。
しかし、その見た目とは裏腹に、ヒトを一人殺すには充分すぎる殺意が込められた武器。
そして勇者ですら、扱い方を弁えているのなら容易く殺す武器。
「銃ッ…!?」
その先が火を噴いた。
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