大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

勇者と飛竜

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「シャル」
『構わねぇ。思う存分使え。コイツはヒトの…いや、《勇者》の敵だ』
「シャル?誰かの名前かね?」
「コルドー。俺は今の今まで尊敬に値すべき人物だと思っていた。何がしかの才があるという事、それを磨き上げることが出来るというのは、並大抵の事じゃないと思っている」
「そうか。賛辞として受け取っておこう」
そう言って、嫌味たらしくコルドーが一礼をする。半魔の方はもう行きたいらしいが、コルドーはまだ俺をコケにしたいらしい。なるほど、ニケが苦手な訳だ。
「だからこそ、才能が無いなりに、ただただ無数に積んだ経験からなる無名の技を出した。俺に出来る唯一の返答がそれだけだったからだ。お前に出来うる限りの敬意を払った結果だった」
「わからんな。何が言いたい?」
「回りくどいのは俺らしく無かったな。簡潔に言おう」
血の総量はもうそんなに多くない。使える血界は残り二、三…使う量を絞ればもう一回使ってもギリギリ倒れないか。それ以上は俺が倒れる。
起動する血界は──
「お前が分かればいいのは、もうお前に払う敬意なんぞ無いという事だけだ。レィア・シィルでは無く、レィア・フィーネの名前を刻んで死ね」
「…どういう──」「ッ!!フィーネ!!」
反応はそれぞれ真逆のもの。
余裕の表情で小首を傾げるコルドーと、決死の表情で手のひらを俺に向ける半魔族。
だが、俺の準備は既に終わっている。
他者には見えない位置、心臓に浮かぶ血の紋様。加速の血界だ。
半魔族が俺に狙いを定めようと手のひらを向けた時点で、俺は既に跳んでいた。
黒剣二閃。手応えは限りなく無いが、経験が斬ったと確信させた。
俺と一緒に落下が始まるワイバーン。当然、乗っていた二人も一緒だ。
「なっ、何が起き──」
絶句したコルドーと目が合った。
彼の目に映ったのは、今の今まで塔の上にいた俺が目の前にいて、さらにワイバーンと半魔族の腕が斬り飛ばされ、血が吹き上がっているという異常事態。
舞い上がった血をさらに纏い、血海を発動。ワイバーンの血はあまり相性が良くないが、少し多めに俺の血を混ぜれば問題は無いだろう。
「っく!」
「貴様、一体どうやって…」
その問いには答えない。マキナを伸ばし、血瞬の尋常ではない速度で地面へ投擲、さらにそのまま自身を地面へと引き寄せ、ワイバーンの落下より早く着地、その真下へと陣取る。
「───。」
銀鞘の中で黒剣の刃を薄く、長く形成する。
何かがワイバーンの影から見えた瞬間、俺は剣を抜いた。
「ッ」
剣が鞘から迸る瞬間、俺は鞘に当てた親指と人差し指が剣の刃に当たるよう調整。
稲妻の如き速度で振り抜かれた黒刃に血刃を重ね、絶刃となる一撃を放った。
風を斬り、音を斬り、視界にすらまともには映らないその刃は、間違いなくワイバーンを輪切りにし、その勢いを殺さぬままに翻る。
ただの黒剣ならば折れていた。しかし、血刃を纏えば辛うじて耐えきる。そう読んでの判断。
黒剣は風に煽られ、慣性に引かれ、それでもなお全てを断ち斬り──
ワイバーンを首から尾まで、一気に斬り抜いた。
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