大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

黒手と剣

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柵の内側に降り立った瞬間、再び黒い手が襲いかかって来た。
その数三つ。先程より少ないが、こちらとしては助かる。
「っしゃ来い!!」
まず敢えて黒い手の初撃を銀剣で受け、その攻撃をぐるりと回転しながら受け流し、回転の初速を得る。
「おぉ?」
思った以上に重い一撃にやや困惑するが、受け流せないほどでは無い。むしろこれぐらいなら加速に丁度いい。
続く二本目の手も受け流して加速。そして三本目が来る前に切り返して後ろから襲ってきた一本目を思い切り回し蹴りで蹴飛ばす。ずっしりとした質量と鎧のような硬さをした手。
普通ならこちらの蹴りなど微塵も痛手にならないであろうが、加速が乗った今の蹴りなら充分蹴飛ばせる。咄嗟に反動ダメージが不味いと判断したのか、足全体が一瞬で鎧に覆われ、俺が受け持つ反動も鎧へ波及するだけで済み、俺へのダメージは無くなった。
『援護します』
直後、俺の全身を覆うマキナ。
次いで時間差をつけて正面から来た手に銀剣の縦振りを二連続で叩き込み、二つに斬る。若干弾かれもするが、俺の持ちうる攻撃手段の中で、銀剣は恐らく一番攻撃力が高い。この程度はなんの問題にもならない。
黒剣?ありゃそういう枠組みの外側だ。ただただ斬る事に特化した…そう、まるで「斬る」という現象そのもののような…
いかん、話がズレた。
『後方・黒手接近・二本です』
早い。さてどうするか。
穴の入口は黒い手がギュウギュウに詰まっていて突破するのは困難、か。少なくともアレをどうにかしないと中には入れそうもない。
銀剣を仕舞い、マキナを鎖のように伸ばして後方から来る手に伸ばし、思い切り引いてすれ違うように回避。そのまま上へ上へと飛び、真上から手を、というかこの土地を見下ろす形になる。
そして上空の俺は身動きができない。回避はまず無理だ。
それを手達が理解しているのかどうかわからないが、猛然と俺へと襲ってくる…あれ?数増えてね?五本ぐらいに…まぁいいか。
もう決着はつく。
「──《聖弾》」
あらかじめしておいた詠唱を上空で完成。直後、金剣の刃が消し飛び、四つの魔法が発生する。
装填するのは水と土の魔法。その威力はたとえるなら空を切る銀剣。
そして俺が上空へ来た理由は単純明快。
「全部まとめて消し飛ばしてやる!!」
黒く圧縮された大剣を肩に背負い、とる構えは《破断》
赤い燐光が俺の身体を包み込み、何千何万と繰り返した戦技アーツを放つ。
振り下ろされた水刃が周りを巻き込み、砕きながら真下へと落ちていく。
硬く重い黒い手達ですら触れる端から砕け、あるいはそれでも残った物は切り捨てられ、刃に追い縋ろうとも全く歯が立たずに散って行く。
腹の底から響くような音と共に水刃が地面に食いついた。
そのまま刃が埋まっていくが…
『ダメか…』
穴を二つに割るような尋常ではない一撃だったが、しかし足りない。
追い縋った手達のせいか、この距離のせいか、それとも俺の手加減のせいか。
中の何かは完全破壊には至らなかったらしく、まだ手が生えてくる。
だから…万が一に備えてもう一撃。
「第二刃──炎刃」
炎と風の複合聖弾。水、土、風の三色複合聖弾が俺の出せる最大火力。しかし、敢えてそうしなかったのは中の状況を出来るだけ残したかったのと、万が一それでも反撃してきた時の為。
二色複合なら、これが一番火力が高い。
振り下ろした刃は誰にも遮られず、自由落下で減衰も減った。
何者かがいるのなら、きっとこのぐらいの威力でも、なんとか辛うじてギリギリ瀬戸際で耐えきってくれるだろう。そう思いたい。
「喰らえ!」
燃え盛る刃が地を穿った。
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