大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

白と隙間

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チリチリとした余韻のような痛みが、左のこめかみより少し上あたりで存在を主張していることに気づいて、意識が戻っていることに気づく。
がばりと起き上がり、自分にかかっていた掛け布団が床に落ちる。そこは恐ろしく殺風景な部屋。
真っ白な壁、真っ白な扉、真っ白な床、真っ白な天井、真っ白なベッドに真っ白の照明。
頭がくらくらする程の白の部屋。当然見覚えなどある訳が無い。
待て、一度落ち着け。何があったのか確認しよう。
えーっと、シエルがどこかに行って姿を消して、カイル先生が怪しいとなって、カイル先生が(多分)シエルの血を誰かに渡すから、その誰かを捕まえようとしてた訳だ。で、来たのが赤いヒールのピィ。
あぁそうだ、あいつに一発貰って気絶したんだった。
で、起きたらここか。職員室にいたはずなのだが…学校のどこかの教室って訳でもなさそうだし、はてここはどこか。
気味が悪い程に白い床に恐る恐る足を下ろす。当然特に何か起きることも無いが、ここまで真っ白な部屋だと何かあるのかもしれないと警戒してしまった。
そのまま歩き、扉に手をかける。
鍵はかかっていない。そのままドアノブを捻り、ゆっくり押し開く。
部屋の外は真逆に黒い。いや違う。暗いだけだ。ただただ暗い廊下がずっと遠くまで伸びている。
どこだここ。研究所もこんな感じだった気がするが、あそこはそれなりに明るかった。
「マキナ、索敵…ん?」
言ってから気づいた。マキナが無ぇ。
と言うか喉の穴を塞いでいたマキナも無い。傷跡すらなく綺麗に消えて…いや、感覚を鋭くしたらわかった。首の穴を縫ってある。
それもアーネがよくやる、傷口を縫って治癒魔法をかけるの方法ではなく、ただただ傷口を綺麗に、丁寧に縫い合わせただけ。その上から薄い何かが貼ってあるようだが、鏡がないので分からない。
誰がこんなことを?あの場には俺とピィしかいなかったはず。ピィが俺を拾ってこの部屋に連れてきた?でもなんで。
身体を触って確認してみるが、異常は他に無い。頭が少し痛いのは多分、気絶させられた時に頭を強か打ったからだろう。
金剣と銀剣は…ある。この二つさえあれば最悪なんとかなる。
一度振り返り、部屋を見渡して誰もいない事を確認してそっと部屋を出る。
「何してんダ」
「うぉえあっ!?」
今しがた部屋を確認して誰もいないと思ったのに、部屋を出た瞬間後ろから独特の発音で声をかけられた。
「てめぇいつの間に俺の後ろにいやがった」
敵意はない。雰囲気ですぐにわかった。そもそも今はあの赤いヒールをはいていない。丸腰相手に剣を構える気は無いし、相手も敵意がないことを示しているのだろう。
「いつの間にと言われてもナァ。ずっといたゾ。そこら辺の隙間から見てタ」
言われて見てみれば、扉の蝶番辺りに僅かな隙間がある。さらに覗き込むと、穴が空いているのだろうか。なんとなく空間に余裕がありそうだ。
「ここに潜んでたのか…」
「まぁナ。こんな気持ち悪い部屋よリ、狭い部屋の方が落ち着くしナ」
厚さ五センチの壁の内側を部屋と呼んでいいのだろうか。多分そこに欠片になったピィが詰っているのだろうが…
「じゃねぇ。おいピィ、お前が俺をここに運んだのか?」
「アァ。楽にしてやると言っただロ?傷の手当は慣れているんダ」
いやあの場面で楽にしてやるは意味合いが逆に…まぁいい。
「マキナは」
「マキな?…あぁ、お前の銀の鎧の事カ?今、少しばかり調べさせてもらってル。じきに終わると思うガ…」
あれ?割と答えてくれる。
「ここどこよ」
「研究所の隅の方の区画ダ。人がかなり減った古い所だナ」
「なんで答えてくれんの」
「敵対する理由が無いからナ」
ほー、なるほど。
「じゃあシエルの行方は?」
「知らン」
…ん?
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