大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

竜と銀剣4

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すっ──と。
意識が闇に呑まれかけたが。
『踏ん張れよ、今代』
「あぁ」
歯ァ食いしばって堪える。
ググ、ズズズ、ッ。
音を立てて身体中が蠕動する。
『気持ち悪ぃか?堪えろ。そのうち慣れるさ』
何か得体の知れないものが俺の身体の中と外、その境界線上で蠢く。
奇怪で不快で醜悪で最悪。
形容し難い感覚が身体を這い回る。
身体中に赤黒い線が踊り、意味不明、複雑怪奇な文様が俺の身体の至るところに刻まれる。
見た限り、手や足、腕や破れた脇腹からもそれは覗いており、恐らく顔などにも刻まれているのだろう。
非常に気持ち悪く、何となく見ているだけで嫌悪感が湧き上がる。
だが────。
身体から溢れる万能感がある。
第二血界《血呪》、その効果は。
『《勇者》の身体能力の飛躍的向上。…まぁもっとも、どこぞの高潔な女とは違って個人専用、躰への代償血液の消費は激しい、その癖持続時間は短いって言う不完全なもんだ』
だが。シャルは続ける。
『その強化度合い、あるいは強化倍率とでも言うか?その大きさは新型個体である聖女の。鬼だろうと悪魔だろうと──竜だろうと屠れるさ』
そのセリフを聞き終えたかどうか、自分でも分からないうちに俺は地面を蹴った。
ルトが剣を振り下ろした時に鳴った轟音、その数倍の音が足元から炸裂する。
本来、そんな爆発が起きれば足の骨は砕け、筋肉繊維はひしゃげただろう。
しかし、そうはならない。血界とは──血呪とは、そこまでの力なのだ。
これなら、何度か剣を振れるだろう。
あぁ今の俺なら。
例え、誰だって。
何があったって。
この身一つで終わらせれそうな──。
『馬鹿、調子に乗るな』
シャルか。
『血呪は持続時間が短い。もってあと』
跳ねた身体がルトの腹、その真下に入り、そのまま駆け抜ける。
『二十秒』
「上等だ」
馬鹿デカい巨体だ。一目で見るには流石に一度跳んだだけでは見渡しきれない。
即座に尻尾を踏み、そのまま背中を駆け上がる。
その時になってルトも俺が背中を登ろうとしていると気づいたらしい。
ぐるりと背後を向いて俺を睨むが、俺は気にしない。
「シャル、あったか!?」
俺が探しているのは逆鱗。
先輩の二つ名の元にもなったその弱点ウィークポイントかつ力の源パワーポイント
『いや、まだ見つからねぇ。…あと十七秒』
ぎしっ、と身体のどこかが軋んだ。
どうやら、血呪が切れると同時に身体も限界を迎えそうだ。
「オオオオオォッッッ!!」
そのまま、暴れるルトの背中を駆け上がりきり、頭の上に到達。
「どうだっ!?」
『…ダメだ。一体どこに?』
「っ、糞!」
残り十三秒。
金剣と白剣を真上から振り下ろし、ルトの鼻っ面を全力で叩く。
戦技アーツで放ちたかったが、体力がない。
ぶち込める戦技アーツは一撃のみ。
それでもかなりのダメージが抜けたらしく、ルトも身体を大きく揺らす。
鱗を砕き、鼻の肉を裂き、骨を見せたその一撃は、しかしその巨体からしたらかすり傷。
やはり、残り時間からしても逆鱗を砕くしかない!!
『残り十秒──見つけたッ!!』
シャルがそう叫ぶと同時に。
「『遺された一握りで泡沫うたかたの夢を見る』」
さぁ、十秒のクライマックスだ。
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