大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

人影と力

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ついさっきまで屋上には誰もいなかったはず。なら、このフードが俺の背後にいた方法として有り得そうなのは二つ。
俺が気づかないほど上手く隠れていたか、ついさっき来たのか。
さてどっちか。仮にも二つ名持ちである俺の背後を取るのはそう簡単ではないが。誰だこいつ。
そう思った時、ちょうどフードの人影が口を開いた。
「久しいのう《緋眼騎士》」
はて、どこかで聞いた声と癖の強い喋り方。間違いなく話してるんだが…ん?
「………お前、《臨界点》…か?」
戸惑いつつ聞くと、フードのそいつは笑いながら肯定した。
ただその声は弱々しく、以前見たあの《臨界点》からは想像もできなかった。
「随分とまぁ…なんと言うか…」
「なんじゃ、久しいと言っても何年も会わなんだ訳じゃあるまい?」
「確かにそういう訳じゃ無かったが…顔もロクに知らねぇヤツがこんなに変わってりゃ気づかねぇよ」
「ほう?どう変わったように見える?」
「どうってお前…」
端的に言うなら弱くなった、と言うのが率直な感想だ。
以前までは二つ名持ちに相応しい威厳…とはまた少し違うまでも、威圧感のようなものがあった。強者が持つ風格のようなものだ。
今はそれがほとんどない。全く無い訳では無いが、その残り滓のような覇気がまた一層弱々しさを引き立てる。
まるで誰かに『力』という概念を力づくで引きちぎられたような。そんな印象を与えた。
「お前、何があったんだ?」
「質問に質問で返すのはご法度じゃぞ?まぁ良い。吾輩の身に何が起きたかも気にするな。確かに弱くなりはしたが、そこまで問題ではないのじゃからな」
「そうか。お前がいいならそれでいいが…二つ名はどうすんだ」
正直俺の見立てだと、今の《臨界点》は一年と戦ってなんとか勝てる程度の実力しかない。もちろん経験やスキル、時と場合や運やその日の体調…戦いとは一概に言えるものでは無いが、素の地力が致命的に足りない。足りなくなっている。
そして何より、強い事が至上であるこの学校において、強くなくなったということは要らないという事とほぼ同義。下手をすれば学校から追い出される。
「何、心配は要らん。そこらの有象無象にやられるほど吾輩も弱ってはおらん。それに、学校長は吾輩を追い出したくとも出来ぬしな」
意味ありげに笑う口元が明るい朝日に照らされる。
「…で、お前がわざわざこんな所に来たってことは」
「あぁそうじゃ。お前に一つ頼みたい事があってな」
「断る。今手一杯なんだ。それも半ばダブルブッキングじみてる」
試験直前のこのタイミングでシエルの件をどうにかしようとしてパンクしかけているのに、これ以上厄介事を増やしてたまるかと拒否する。
が。
「いいや、お前は断れんよ。何せ
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