大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
301 / 2,022
本編

先輩と竜気

しおりを挟む
ヤバい。
何がどう相手の逆鱗に触れたのかはよく分からない。だが、この人が怒るという意味は何がかはよくわからないが、非常に不味いと、本能が告げていた。
故に。
「!!」
急に横にふり抜かれた左手の一撃を避けられたのは完全に運と勘の賜物だ。
しかし、それでも完璧では無かったようで、少しかすっていたらしい。
つぅ、と頬を血が伝い、見ればいつの間にか鋭く尖った爪が生えていた。
「貴様が我がゼヴァルナアーク家の宝剣を隠し持っていたのは間違いない!今、現物も確認した!貴様に私が返す物など、何一つない!!」
あー…ヤバい。

俺が一番当たって欲しくなかったシナリオを、ものの見事に引いてしまった。
ひとまず、追撃が来ないように、少し手荒な真似になるが……。
「ッ、ラァッ!!」
銀腕を纏い、右手で手刀を作り左手を掴む手を打ち、左手を解放。即座に距離を取る。
『おい、今代の』
なんだ?シャル。説明はまた後で──。
『違う!マヌケ!見て──視てわからねぇのか!!』
一瞬、シャルが何言ってるか分からなかったが、即座に理解。
目を開き、ルト先輩の魔力を視る。
「なん…だ、ありゃ」
思わずそんな声が洩れた。
禍々しく荒れ狂い、それでいてどこか統率の取れた魔力の奔流。
そのド真ん中にいるルト先輩は、気が狂ってもおかしくはない。
『竜気だ』
シャルの端的な返事が、やけに響く。
竜気?竜気ってなんだ?
『知らねぇのかよ!?…竜や龍が持つ、独特の魔力の事だ。濃度が高く、クセが強いのが特徴だな』
解説どうも、シャル。
「貴様がどこであのアバズレと知り合い、宝剣を手に入れたのかは知らん。ひょっとしたらどうにかしてアバズレから勝ち取ったのかも知れん。しかし、それは我が家に絶対に必要な物なのだ!譲るわけにはいかん!!」
ルト先輩が竜気をダダ漏れにしながら叫ぶ。
俺から奪った銀剣は今、ルト先輩を挟んで向こう側に大切そうに置いてある。いつの間に…。
「そっちもそっちで大変だったんだな」
けどさ。
「そいつは俺が大切な人から貰った俺の命より大切な剣だ。たとえ本当の持ち主が現れようと、俺が生きてる間は絶対に渡さねぇ。だからその剣──返してもらうぜ」
奪われていなかった金剣を取り出し、ルト先輩に突きつける。
明らかに交渉なんて出来やしないのは分かってるからな。
「貴様…!剣の一族の宝剣までも手にした盗っ人が何を言うか!どうしてもと言うのなら、私から奪ってみせろ!」
轟、と空気を裂く音がしたと思うと、ルト先輩の手に握られていたのは全長十メートル近い大きさを誇る鉄の塊のようなバケモノ剣。
「オオオオオオオオオオオオオオオ!!」
ルト先輩が叫びながら、その剣を縦に振り下ろした。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...