大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

案内と質問

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「さて、それじゃあそろそろ良い頃合でしょう。イーノ、彼の拘束を解いてあげてくれる?」
「はい」
と言って、あっさりと俺の手枷と足枷を外す。
「なるほど、意図は分かった。で?俺の剣や鎧は?」
「あなたがこっちに運ばれてから約二時間。本当はもっと研究したかったんだけど…とっとと帰りたいでしょう?すぐに返してあげる。ついていらっしゃい」
そう言って、盲目であるはずの彼女はしっかりとした足取りで部屋を出る。
「………。」
ついていらっしゃいと言われても…はて、俺は薬で自分を気絶させて武器を取り上げた相手にほいほいとついて行っていいものなのだろうか。
「どうかしたかしら?」
「いや、何でもない」
どうせついて行くしかないか。と結論が出るまでにそう時間はかからなかった。だってイーノの視線が怖ぇんだもん。
細い通路をラピュセ、俺、イーノの順で進み、その間にいくつか聞きたいことを聞いてみる。
「しかし…なんでまたスキルの研究で俺の装備を?」
「あら?まさか誰がどんな装備をしているか、なんてのはスキルとあまり関係ないと思ってるの?」
「いや?それこそまさか」
確かにその人の武器や防具はスキルによって傾向が偏る。数は少ないが分かりやすいのが、肉体が直接変化するようなスキル持ちの場合だ。
獣に変化するなら尾や爪が邪魔にならないような鎧や武器を身につける必要がある。
他人にとっては歪な武器も、本人からすると最適なものだったりする。
「けど俺のスキルを知ってるだろ?なら武器や防具より、俺の身体の方を調べた方がいいんじゃないか?」
「レィア君自身は確か《超器用》って言ってたかしら?身体を意のままに操ることの出来るスキルだとか。羨ましいわねぇ、私もそんなスキル欲しかったわ」
「個人的にゃもっと分かりやすく強いスキルが欲しかったと、少しばかり高望みをしちまうモンだがな」
「アーネちゃんの《圧縮》やシオンちゃんの《雷体化》のような?あの子達も強いわよね。特にシオンちゃんのは卑怯って言ってもいいぐらい。知ってる?《雷体化》を使ってる時、身につけているもの全部も雷になってるのよ、あれ。あの系統のスキルでその場に服だけ残ったりしないのは本当に珍しいのよ?」
「そう言や、そんな事考えたこともなかったな。本当、羨ましい能力だ」
「けれどね?だからこそ、あの子達のスキルは参考にならないのよ」
はぁ、と悩ましげにため息をつくラピュセ。
「さっき、スキルについて研究してるって言ったでしょう?様々なスキルがあるというのはよく分かるのだけど、ああいった子達のスキルは強すぎるのよねぇ…はっきり言って面白味がないの。能力の余裕と言ってもいいわ。その能力に対して遊びが少ないの。言い換えれば可能性ね」
「はぁ。もうちょい具体的に?」
「能力ひとつで完結しているのは強く過ぎて面白くないのよ。工夫のしどころがないでしょう?そう言う意味で、装備を見るというのは重要よ。その人のスキルを伸ばしたり、逆にスキルでできる隙を埋めたり、足りないところを補ったり。どうにかこらした知恵が光るものって、とっても素晴らしいと思わない?」
「…あぁ、だから俺の装備なのか」
やっと得心がいった。
髪で補っているとはいえ、俺の能力は基本的に誰でも出来ることばかりしか出来ない。髪で補うのも基本的に筋力なので、仮に力の強い人が技術を身につけることが出来たなら俺と同じことが出来るはずだ。
「そう、究極的に言ってしまえば特殊な能力が限りなく少ない上に、魔法まで使わないというのはあなたぐらいしかいないのよ」
「まぁ…確かに俺の使ってる武器やら防具は結構変わってるが…」
「技術を突き詰めた能力を持つあなたの持つ物だから、きっと装備も相応の物なんでしょうね…みんなの研究結果が楽しみだわ」
「…で?どこまで歩きゃいいんだ?」
「あら、丁度ここよ」
と言ってラピュセが脇の扉のノブをひょいと掴む。
「さ、いらっしゃい。返してあげるから」
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