大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
133 / 2,022
本編

遺された物とカタチ

しおりを挟む
さて、オードラル先生から制服も回収した。日も落ちた。飯も食った。アーネに事を伝えて渋られたものの、なんとか同意を貰った。そして時間もそろそろ。
そういう訳で、学校の裏手、昼間にナナキの遺体が置いてあった場所に三人が集まった。
今回するのは火葬。アーネは最大火力で焼いてくれればいいので、今回はリハビリの一環と言うことにもなるだろう。
「シィルさん、いいですか?」
先生が確認をとる。
ちなみに服装だが、先生は中々見られないような正装で、アーネもそれなりにキチンとした服装。が、俺は何時もの真っ黒なコートに少し上質な服を着込んだだけ。
普通に考えて、あの森に住んでて正装も糞もなかったからな。
「あぁ、頼んだ」
その答えを聞いて、先生とアーネが手をかざし、呪文を紡ぎ、魔法を編む。
先生とアーネには、骨も残さずに焼いてくれ、と言ってある。
骨ってのは基本灰にならないからな。とんでもない火力が必要となるため、詠唱もそこそこ長いのになりそうだな。
その間、少し考え事をしていた。
これでナナキとは、本当にお別れだ。
俺に残った…遺された物は一体なんだろうか?
ナナキから貰ったものは…全部だな。命、技術、名前、この服はナナキが苦労して自作したって事も記憶から知ったし、いつも着ている真っ黒なこのコートなんかは、昔ナナキに無理言って貰ったものだっけ。…ほんと、何から何まで。
考えれば考えるほど、俺が持っているもの、そのすべてがナナキから譲られた、遺されたものばかりだ。
なら、少しは恩を返さなきゃな。
ナナキの目標、願いは、いつか聖女が必要ないような、平和な世界だった。
「「『――眠レ、ねむレ、永久ニ』」」
ついに詠唱が終わりを迎えたようだ。
「「《送リ火ノ炎》」」
俺ですら知っているような、有名な魔法。それは、青く、蒼く、彼女の瞳の色を思い出すような、そんな青い炎。火葬とかにはこの魔法がよく使われるらしい。
そんな美しくも哀しい色の炎が、ナナキの入った箱ごと焼いていく。
俺が知りうる限り、この魔法はかなり大きくなり、五、六人で行うと遺体がほぼ灰だけになるらしい。
けど、今回はアーネが『圧縮』を使っているらしく、炎は箱に籠るようにして焼く。
時間にして約五分、先生は魔力枯渇寸前まで行ったらしく、炎が消えると同時に先生が崩れ落ちた。
「…ありがとう。これでナナキも…」
その先は声にならなかった。
喉がひくつき、目が熱い。
「貴女…なんて顔をしてるんですの」
さぁ、知らねぇ。けど、自分でも酷いツラをしてるんだろうとは予測がつく。
目の前には、灰、灰、灰。
あの姿はどこにもない。
「…はぁ」
アーネがため息をつき、灰の前に立つ。
すると、まだ焼けたばかりで尋常じゃない温度のそれがどんどん小さくなっていく。
「おい、お前何を…?」
「黙っててくださいまし」
拳ほどの大きさになり、さらにまだ小さくなっていく。
そうか、アーネは『圧縮』で灰を圧縮しているのか。
けど、何のために?
やがて、その大きさは…いや、まどろっこしい言い方はやめよう。
アーネの手のひらの上にあったのは、指輪だった。
数は二個。灰色とも鈍い銀とも取れる色の上に、どちらもほんの一箇所だけ、白く透き通る宝石が乗っている。
「…これで、いいですの?」
リンケージリング。そうアーネは言った。エンゲージではなく、リンケージ。
白い宝石は、どうしても燃やしきれなかった骨を圧縮し続けたらそうなったらしい。
「…ありがとう。本当に、ありがとう…!」
そうとしか言えなかった。
アーネが見ていると言うことを気にせず、その指輪を受け取ると、みっともなく、ボロボロと泣いた。
まだ充分すぎるほど熱いその熱は、まだ彼女が生きているような、そう思えた。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...