大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

容態と魔法

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「完全に魔力のオーバーフローが原因ですねー。さらに膨大な魔力を長時間流し続けた結果のオーバーヒート…魔力回路が半分以上壊れてますね」
「すまん先生、魔法が一切分からん俺によく分かるように教えてくれ」
《雷光》と一緒に馬車の中で寝かされたアーネの傍らで、意味のわからない言葉を連発した先生にそう聞くと、先生は一度顎に人差し指を当てて考えると、俺に説明を始めた。
「えっ…と、ですね。魔法と言うのは魔力を燃料に現象を起こす技術の事です。で、その魔力を溜め込む《魔力タンク》が人それぞれあるんですね。魔力タンクは本当に人それぞれ、様々なんですけど、そこにどれだけ魔力を溜め込んでも、溜め込んでいるだけでは意味がありません」
そこで先生は一度言葉を区切り、どこからともなく取り出したのは長さ三十センチ程の細長い棒。
「これが一般的な魔法使いが使う杖、魔杖ですね。他にも本の形をした魔本、レアな所では指輪や腕輪の形をしたものもありますが、その手の物はまとめて魔導具の一部扱いですね。どんな形でも構いませんが、これらがないと魔法使いは絶対に魔法を扱えません」
「ん?必須なのか?」
「はい、必須ですね」
「でもアーネは…」
「彼女は例外です。と言うのも、この魔杖や魔本の目的が『魔力を体外に収束させること』ですから」
そう言うと、先生は何か一言呟いて杖の先に光を灯した。
そしてそのまま空中にスラスラと絵を描き込んで行く。
描かれたのはデフォルメされた人。伸ばした手の先には細い棒が握られており、その先端にわかりやすく炎が描かれたそれは、今までの話の流れを考えると炎を魔法で作っているのだろう。
「このように魔法を扱う場合、身体の中央に魔力タンクがあるとして──」身体の中央に大きく円が描かれる「魔力を杖の先に収束させ、魔法を生み出します。…この時に魔法陣や呪文も絡んでくるのですが、今回の話には関係ないので割愛します」
なるほど、アーネが杖や本を使わない理由がようやく分かった。あいつにはスキル《圧縮》があるから、自前で全部解決出来るってわけだな。
再び先生の杖の先が動き、絵の魔力タンクから線が伸びる。
「魔力はある程度収束させないと魔法として使用出来ません。ですが、ヒトには本来その能力が備わっていないため、杖などで補う必要があるわけですね。しかしそれだけでは魔法は使えません。魔力をため込んでいるタンクと、魔力を体外で収束させるための杖を繋ぐための道…つまり《魔力回路》が必要になってくる訳です」
線が杖の先端とタンクを結び、より強く炎の絵が輝く。
「あらためてアーネさんの容態ですが、この魔力タンクが本人の許容量を超えて魔力が注がれ続けたことによる過補給、さらに溢れた魔力や長時間にわたって膨大な魔力を魔法につぎ込むために魔力回路を酷使したことによる魔力回路の過剰反応状態。しばらくは絶対安静ですね」
「なるほど、わかった」
となると、戦力的に少なくとも今日一日は俺一人でどうにかしなくちゃならん訳だが…腑に落ちん。
「だが先生、少なくとも俺が見ている限りではアーネが何か魔獣にされた、なんてことはなかったぞ。一体何が原因でこうなったんだ?」
「ゔっ」
ん、なんか先生が気まずそうな顔をして顔をそらせたぞ。
「そ……それはですね、魔呼びの媚薬の副作用というか、本来の用途としての役割でして……」
「………。」
本来の用途?
「つまりなんだ、魔呼びの媚薬ってのは元々魔力を回復するためのアイテムだってことか?」
となると魔獣を呼び寄せる事の方がむしろ副作用って事か。
「粉末状の物の方には魔力回復はほとんどありませんけどねー。けれど、液体の方の用途は主にそちらです」
なるほど…な。
「わかった先生。撤退しよう」
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