大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

一息と魔力

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戦闘開始からさらに一時間。魔呼びの媚薬の効果が切れたのか、はたまた効果範囲内の魔獣が全てやられたのか、ひとまずひと段落着いた。
周りには魔獣達の死体、もげた手足、血、内臓、抉れた大地、くすぶる煙、むせるような濃い殺し合いの臭いが残っていた。
「疲れた………何んんんんんんだあれ。密度が尋常じゃねぇんだけど」
魂が抜けるんじゃないかってぐらい長い溜息をして、馬車に背中を預けてずるずるとへたりこんだ。
『最終的に剣が振れてなかったもんな。お前』
銀剣の形状は大剣型。序盤はそれを振り回して蹴散らしていたが、中盤以降は俺達の処理速度よりも相手の物量が多く、剣を振る前に肉壁で振り抜けないという異常事態が発生した。
黒剣を抜いてしまえと思う頃にはもう遅く、煌覇のモーションに入る事すら出来なくなっていた。結果的に途中から剣は放棄、髪で拳を保護し、髪で足を強化し、尾のように伸ばした髪で第三の足として時にトリッキーな動きで敵を倒した。我ながらよくやったもんだ。
で。
「お前は何やってんだ?」
お前と言うのはもちろんアーネ。
もうちょい補足するなら、バチバチと魔力を余分に跳ねさせながら、ふんすふんすと鼻息荒く…もとい元気一杯なアーネ。ギラギラとした目は興奮状態であることを如実に表していた。
「戦闘はもう終わったぞ。魔力の無駄遣いはやめとけ。つか……」
「どうしましたの?」
………。
アーネからは疲労の雰囲気すら感じられない。むしろこのまま一時間追加です、って言っても何とかしそうな勢いだ。
異常…だよな?
『異常だな。普通ならタンクが空になってもおかしくない…と言うか枯渇で倒れそうなもんだが』
「その、なんだ?体調は大丈夫なのか?」
「大丈夫ですわ!むしろ万全を通り越して常にフルスロットル状態ですの!」
ならいいか。…いいのか?
とりあえず、やたらとハッスルしているアーネはどうにもならんので、中の二人に戦闘がひと段落したという事を伝えに行く。
「おーい、ちょっと入るぞー、いいかー?」
ノックしてそう言うが、返事がない。
「おーい?…大丈夫か?」
まさか。
気づかないうちに突破されて中が襲われたか?
「おい、開けろ。三秒待つ」
三、二、一。
ドアノブに手をかけた瞬間、ガチャリと扉が内から開いた。
「なんだ、いるじゃねぇか。中は大丈夫か?魔獣の確保については…悪い。ンな余裕無かったわ」
「大丈夫ですぅ…魔獣も…仕方ないですね。ところでレィアさん、私に近距離メッセージを繋いでくれますか?」
「あ?無理」
「なんでですか!?」
「俺、魔法全般が出来ないから。才能ってか体質の問題だからどうしようもなくってな。メッセージぐらいなら知り合いに頼んで作ってもらった魔導具でどうにか出来てたけど、今ちょいと修理中でな。今は魔法系が完全に出来ないと思っててくれ」
そう言うと、先生は口元に手を当て、少し考え事をした後、
「聞き取ることも出来ないんですよね?体調に異変は?」
と聞いてきた。
「受信も出来ねぇな。あと体調に異変ってのは?」
「過度な興奮や酩酊、支離滅裂な言動…端的に言ってしまえば魔力の過補給による暴走状態ですね。魔呼びの媚薬で大量の魔力が撒き散らされている状況ですし、魔力を常に抜き続けなくてはいけないんですよ」
………過度な興奮?
「先生、それって放っておいたらどうなる?」
「もちろん倒れますよー?魔力が過補給されると、常に身体の内側から『私は元気ですー!』って言う信号が出続けるんですけど、身体は持たないですからね。体内の魔力回路も強すぎる魔力を流し込まれ続けると、劣化や摩耗が始まってボロボロに──」
これって完全に今のアーネだよな?
「対処法は?」
「へっ、あっ、持続的に緩やかに魔力を抜き続けること、ですかね?人によってはそれでも足りなかったりしますけど……」
その時、ちょうど俺達の真上辺りで、ドシャアッ、と倒れる音がした。
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