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ダークエルフの誘惑編
翻弄される者
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シリウスは雨の中を足早に歩きながら心の中で渦巻く不安と嫌悪感に苛まれていた。ヴェラとの会話を思い出すたび気持ち悪さが込み上げてくる。彼女が提案したことは単なる無礼を超えて彼の心の奥深くに触れるものであった。アステル以外の女性を抱くなど考えるだけで吐き気がする。
自分の中にあるアステルへの思いを再確認する。彼女は温かく、理解のある存在で、心の支えだった。彼女以外の誰かと結びつくなんて考えられない。その心の中で渦巻く想像はまるで自分の意志とは無関係に動き回る悪夢のようだ。
(こんなことを思い描く必要はない。アステルがいる限り、他の誰も必要ないのに)
その思考がシリウスをさらに苦しめる。アステルと過ごす日々、彼女の笑顔、優しい言葉、そして何よりも彼女との愛娘。その全てを失うことを想像するだけで、頭がおかしくなりそうだ。
足を速め、雨の中を進む。家族の元へ戻ることが彼にとっての唯一の道だと心に誓った。
◆
シリウスは冷たい雨に打たれながら家の扉を開けた。湿った空気が室内に入り込み、香りが漂ってくる。薬草の香り。それはアステルが調合したもので、彼に安心感をもたらした。
「お帰りなさい」
濡れたコートを脱いだシリウスが家の中に入るや否や、アステルは静かに歩み寄ってきた。彼女の表情には安堵が浮かんでおり、心底ホッとした様子だった。その表情を見てシリウスはアステルを不安にさせていたことに申し訳なく感じた。
「ただいま……ステラは?」
いつもならシリウスが帰って来ると真っ先に出迎えるはずのステラの姿が見えない。シリウスはアステルに問いかけると、彼女は悲しげな微笑みを浮かべて答えた。
「寝ちゃった。もう夜だし」
雨が降って空が暗かったせいでもう夜だったことにシリウスは気付かなかった。
アステルはシリウスを見上げ、柔らかい微笑みを浮かべると、手に持っていたタオルで優しくシリウスの顔や髪を拭いてくれた。その気遣いが外の冷たさを忘れさせてくれる。
「シャワーを浴びてきてね。温かい飲み物を用意して待っているから」
アステルが優しく見つめ、微笑みながらそう言うとシリウスは素直に頷き、彼女の思いやりに感謝をして、そのまま浴室へと向かった。
シリウスは衣服を脱ぎ捨て、鏡に映る自分を見つめた。筋肉質な体つきは長年の訓練によって鍛え上げられたもので腕や胸の筋肉がしっかりとしたラインを描いている。褐色した肌はダークエルフの特徴であり、白い肌のエルフとの違いを際立たせている。
この身体はアステルの為に鍛え上げたものだ。アステルを守る為、そして彼女に相応しい男になる為にずっと身体を鍛え続けた結果、今のシリウスの肉体が出来上がった。
(アステルと出会わなければ)
アステルと出会う前にヴェラ達、ダークエルフと出会っていればシリウスはそのままダークエルフの里へ行っていたかもしれない。そう考えると辛い気持ちになった。そんな未来だとアステルは別の男と結ばれて、ステラは生まれなかった。
シリウスは鏡に映る自分の顔を手で触れる。この褐色の肌は今寝ているステラと同じ色。今だけは何故か恐怖の色に見える。
その考えを頭から振り払うようにシリウスはシャワーを浴び、濡れた身体を乾かしてアステルの元へと向かった。
ダイニングに行くとアステルがキッチンで飲み物の準備をしていた。彼女の後ろ姿を見るとシリウスは気持ちが少し和らぐのを感じる。
アステルは手際よくホットミルクを温めていた。彼女の動きには、普段の穏やかな日常が戻ったかのような安心感が漂っている。ミルクが温かくなったところで彼女は優雅に蜂蜜を加え、その甘い香りが部屋に広がった。
「はい、ホットミルク。今日は特別に蜂蜜を多めにね」
アステルは微笑みながら、白い陶器のカップにミルクを注いだ。彼女の指先からは愛情がにじみ出るように感じられる。シリウスはその様子を見て心まで温まった。
「ありがとう」
アステルがカップをシリウスの前に置き、優しく目を見つめるとシリウスは感謝の気持ちを込めてカップを手に取り、一口飲んでみた。温かいミルクと蜂蜜の甘さが口の中に広がり、心地よい温もりが体全体に広がっていく。
「帰りが遅かったから、少しだけ心配したかも」
アステルもシリウスの迎えの席に座るとそう言った。彼を見つめる瞳の奥に、深い不安が潜んでいるように感じられる。
「話し合いはどうだったの?」
「……断ってきたが納得はしてもらえなかった」
「そうなの……」
「…………」
シリウスは言うべきなのか悩んだ。ヴェラが仲間を連れてきてシリウスに抱いてもらおうとするおぞましい計画を練っていることをアステルに伝えるべきか。ガレットやアルムならともかくそんなことを言えばアステルの気分を害してしまわないだろうか?
「どうかしたの?」
黙り込むシリウスを心配するアステルに打ち明けるべきかどうか迷ったが、ここで嘘をつく事はできなかった。逆の立場ならそれは嫌だからだ。
「奴は他の仲間を連れてまた来ると言っていた」
「……それで?」
アステルは不安げな表情を浮かべていたが、シリウスの話に耳を傾けようとしている。その真摯な態度が嬉しい反面、シリウスはアステルを悲しませることに気が引けてしまう。
「里に行かなくてもいいから子種だけくれと」
「…………」
シリウスの話を聞いて、アステルは黙り込んでしまった。彼女もこの内容は予想外だったようだ。二人の間に重苦しい沈黙が流れる。先に口を開いたのはアステルの方だった。
「シリウスは……するの?」
彼女の声は震えている。その声から感情が読み取れるほどに、彼女は動揺していた。
「しない」
「そう……よね……」
アステルは安堵の溜息を漏らすと、少し落ち着きを取り戻したようだった。だがその表情にはまだ不安の色が見える。
「俺のことを信じていないのか?」
「そ、そんなこと、ない、けど……」
シリウスはふとその言葉が口を突いて出た。アステルは少し驚いた表情を見せた後、視線を逸らして口ごもった。
彼女の思いは痛いほど伝わってくる。不安で仕方ないのだろう。彼女と一緒になる前だったなら、シリウスも他の女を抱くことに抵抗はなかった。だが今は違うことを伝えなければならない。
「俺はアステル以外の女とは交わりたくない」
そう言うとアステルは複雑な表情を浮かべた。不安と喜びとが入り混じった表情だ。
「もし俺が他の女を抱いたらどうする?」
「え……それは……ちょっと嫌かな……」
アステルは驚いたような、困ったような表情になる。そして少し考えた後、口を開いた。その口調には迷いが感じられた。
「俺はアステルが他の男と会話をするのでも嫌だぞ。抱かれるとなればその男を殺してやりたいのに「ちょっと」なのか」
「違うの、ごめんなさい。ちょっとっていうか……だいぶ、嫌」
アステルは困惑したように付け加える。彼女は突然のシリウスの独占欲の強さに戸惑っているようだ。
一方でシリウスはアステルが信用をせずに独占欲を感じなかったことに対して自分勝手だが少し怒りも覚えていた。シリウスは我ながら大人気ないと思いながらも、彼女に本音をぶつけずにはいられなかった。
「俺はアステルが他の男に抱かれるなんて……絶対に嫌だ」
その表情は真剣そのもので、その中にはアステルへの揺るぎない愛と独占欲が宿っている。
自分の中にあるアステルへの思いを再確認する。彼女は温かく、理解のある存在で、心の支えだった。彼女以外の誰かと結びつくなんて考えられない。その心の中で渦巻く想像はまるで自分の意志とは無関係に動き回る悪夢のようだ。
(こんなことを思い描く必要はない。アステルがいる限り、他の誰も必要ないのに)
その思考がシリウスをさらに苦しめる。アステルと過ごす日々、彼女の笑顔、優しい言葉、そして何よりも彼女との愛娘。その全てを失うことを想像するだけで、頭がおかしくなりそうだ。
足を速め、雨の中を進む。家族の元へ戻ることが彼にとっての唯一の道だと心に誓った。
◆
シリウスは冷たい雨に打たれながら家の扉を開けた。湿った空気が室内に入り込み、香りが漂ってくる。薬草の香り。それはアステルが調合したもので、彼に安心感をもたらした。
「お帰りなさい」
濡れたコートを脱いだシリウスが家の中に入るや否や、アステルは静かに歩み寄ってきた。彼女の表情には安堵が浮かんでおり、心底ホッとした様子だった。その表情を見てシリウスはアステルを不安にさせていたことに申し訳なく感じた。
「ただいま……ステラは?」
いつもならシリウスが帰って来ると真っ先に出迎えるはずのステラの姿が見えない。シリウスはアステルに問いかけると、彼女は悲しげな微笑みを浮かべて答えた。
「寝ちゃった。もう夜だし」
雨が降って空が暗かったせいでもう夜だったことにシリウスは気付かなかった。
アステルはシリウスを見上げ、柔らかい微笑みを浮かべると、手に持っていたタオルで優しくシリウスの顔や髪を拭いてくれた。その気遣いが外の冷たさを忘れさせてくれる。
「シャワーを浴びてきてね。温かい飲み物を用意して待っているから」
アステルが優しく見つめ、微笑みながらそう言うとシリウスは素直に頷き、彼女の思いやりに感謝をして、そのまま浴室へと向かった。
シリウスは衣服を脱ぎ捨て、鏡に映る自分を見つめた。筋肉質な体つきは長年の訓練によって鍛え上げられたもので腕や胸の筋肉がしっかりとしたラインを描いている。褐色した肌はダークエルフの特徴であり、白い肌のエルフとの違いを際立たせている。
この身体はアステルの為に鍛え上げたものだ。アステルを守る為、そして彼女に相応しい男になる為にずっと身体を鍛え続けた結果、今のシリウスの肉体が出来上がった。
(アステルと出会わなければ)
アステルと出会う前にヴェラ達、ダークエルフと出会っていればシリウスはそのままダークエルフの里へ行っていたかもしれない。そう考えると辛い気持ちになった。そんな未来だとアステルは別の男と結ばれて、ステラは生まれなかった。
シリウスは鏡に映る自分の顔を手で触れる。この褐色の肌は今寝ているステラと同じ色。今だけは何故か恐怖の色に見える。
その考えを頭から振り払うようにシリウスはシャワーを浴び、濡れた身体を乾かしてアステルの元へと向かった。
ダイニングに行くとアステルがキッチンで飲み物の準備をしていた。彼女の後ろ姿を見るとシリウスは気持ちが少し和らぐのを感じる。
アステルは手際よくホットミルクを温めていた。彼女の動きには、普段の穏やかな日常が戻ったかのような安心感が漂っている。ミルクが温かくなったところで彼女は優雅に蜂蜜を加え、その甘い香りが部屋に広がった。
「はい、ホットミルク。今日は特別に蜂蜜を多めにね」
アステルは微笑みながら、白い陶器のカップにミルクを注いだ。彼女の指先からは愛情がにじみ出るように感じられる。シリウスはその様子を見て心まで温まった。
「ありがとう」
アステルがカップをシリウスの前に置き、優しく目を見つめるとシリウスは感謝の気持ちを込めてカップを手に取り、一口飲んでみた。温かいミルクと蜂蜜の甘さが口の中に広がり、心地よい温もりが体全体に広がっていく。
「帰りが遅かったから、少しだけ心配したかも」
アステルもシリウスの迎えの席に座るとそう言った。彼を見つめる瞳の奥に、深い不安が潜んでいるように感じられる。
「話し合いはどうだったの?」
「……断ってきたが納得はしてもらえなかった」
「そうなの……」
「…………」
シリウスは言うべきなのか悩んだ。ヴェラが仲間を連れてきてシリウスに抱いてもらおうとするおぞましい計画を練っていることをアステルに伝えるべきか。ガレットやアルムならともかくそんなことを言えばアステルの気分を害してしまわないだろうか?
「どうかしたの?」
黙り込むシリウスを心配するアステルに打ち明けるべきかどうか迷ったが、ここで嘘をつく事はできなかった。逆の立場ならそれは嫌だからだ。
「奴は他の仲間を連れてまた来ると言っていた」
「……それで?」
アステルは不安げな表情を浮かべていたが、シリウスの話に耳を傾けようとしている。その真摯な態度が嬉しい反面、シリウスはアステルを悲しませることに気が引けてしまう。
「里に行かなくてもいいから子種だけくれと」
「…………」
シリウスの話を聞いて、アステルは黙り込んでしまった。彼女もこの内容は予想外だったようだ。二人の間に重苦しい沈黙が流れる。先に口を開いたのはアステルの方だった。
「シリウスは……するの?」
彼女の声は震えている。その声から感情が読み取れるほどに、彼女は動揺していた。
「しない」
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「俺のことを信じていないのか?」
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シリウスはふとその言葉が口を突いて出た。アステルは少し驚いた表情を見せた後、視線を逸らして口ごもった。
彼女の思いは痛いほど伝わってくる。不安で仕方ないのだろう。彼女と一緒になる前だったなら、シリウスも他の女を抱くことに抵抗はなかった。だが今は違うことを伝えなければならない。
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そう言うとアステルは複雑な表情を浮かべた。不安と喜びとが入り混じった表情だ。
「もし俺が他の女を抱いたらどうする?」
「え……それは……ちょっと嫌かな……」
アステルは驚いたような、困ったような表情になる。そして少し考えた後、口を開いた。その口調には迷いが感じられた。
「俺はアステルが他の男と会話をするのでも嫌だぞ。抱かれるとなればその男を殺してやりたいのに「ちょっと」なのか」
「違うの、ごめんなさい。ちょっとっていうか……だいぶ、嫌」
アステルは困惑したように付け加える。彼女は突然のシリウスの独占欲の強さに戸惑っているようだ。
一方でシリウスはアステルが信用をせずに独占欲を感じなかったことに対して自分勝手だが少し怒りも覚えていた。シリウスは我ながら大人気ないと思いながらも、彼女に本音をぶつけずにはいられなかった。
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