シークレットベイビー~エルフとダークエルフの狭間の子~【完結】

白滝春菊

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反抗期編

幸せな家族

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 ステラを寝かしつけるが、アステルは眠れなかったので一人でリビングに向かい、窓の外を見ると星が輝いていた。

「アステル」

 背後から声をかけられたので振り返るとそこにはシリウスがいた。彼は隣に立つとアステルと同じように夜空を眺める。

「シリウス、ありがとう。今日は本当に幸せな日だった」
「そうか」

 シリウスは短く返事をするがその表情は穏やかである。

「ステラみたいに好きな人を取らないでって素直に言えるのは今の内よね」
「大人になれば言えなくなるな……」

 だが子供がみんな、素直にそれが言えたわけではないのは二人は知っている。二人はそれを言えない立場の子供時代を過ごしていたからだ。
 だからこそ自分達の娘にはどんな些細なことでも自分の気持ちを正直に伝えて欲しいと思う。

「……アステル」

 シリウスが懐から何かを取り出し、アステルの手を取ると手のひらに乗せる。それは小さな箱だった。
 アステルは小刻みに震えながらゆっくりと蓋を開けると、中には指輪が入っていた。小さな青い宝石が埋め込まれているシルバーリングで、シリウスは照れくさそうに口を開く。

「書類上では夫婦だが、まだ指輪を渡せていなかった……それに式も挙げていない。今更かもしれないが、ちゃんとした式を挙げよう」
「……ありがとう」

 婚姻の証が無くても平気だとは思っていたが実際にこうして形にされると、とても嬉しいものだった。
 アステルは泣きそうになるのを堪えながら笑顔で答えるとシリウスはアステルの左手を優しく掴み、薬指に指輪を嵌めるがサイズが合わないのか少しゆるかった。

「あ……すまない、サイズを間違えてしまったようだ。買い直して……」
「ううん、これでいいの。これがいい」

 アステルは外そうとするシリウスを止めると、愛おしそうに指輪を撫でてた。
 彼が初めて指輪を買ってくれた。誰にも相談をせずに選んだのでサイズのことは忘れてしまい、失敗をしたのかもしれない。それでもアステルは自分のために一生懸命選んでくれたことが何よりも嬉しかった。
 シリウスは自分の失態に顔をしかめていると今度はアステルがシリウスの手を握り締めて彼の目を真っ直ぐに見つめる。

「ずっと一緒にいてくれる?」
「ああ」

 シリウスが力強く言うとアステルは安心したように笑みを浮かべた。

「絶対に置いていかないでね」
「約束する。絶対に離れたりはしない」

 二人は見詰め合いながら誓い合うとどちらからともなく唇を重ね、月明かりだけが二人を照らして一つの影を作り出していた。

 甘いひとときを感じている最中に遠くから部屋のドアが開く音と小さな足音がしたので二人は距離を離すと、ステラが眠そうな顔をしながら歩いてきた。

「お母さん……」
「ステラ。ごめんねすぐに寝るから」

 アステルがステラの側に行こうとすると彼女は首を横に振った。

「ステラ?」
「一緒に寝よ……お父さんも一緒」

 ステラはシリウスの足に抱きつくと甘えるような声でお願いをした。シリウスは困った表情を浮かべたが、アステルが笑顔で頷くとステラを連れて寝室に向かっていった。

 アステルが寝るためのベッドは大人二人でギリギリの広さなので、三人ではさすがに狭いのだが、それでもいいとステラはベッドの上に自分から上がった。

「お母さんが真ん中になった方がいい?」
「えっと、ステラが真ん中でいいよ」

 ステラがそう答えると二人はステラを挟むようにベッドの中に入り、横になる。

「お父さん、お母さん、おやすみなさい」

 ステラが両親に挨拶をすると二人は「お休み」と言ってステラの頭や頬を撫でる。ステラは嬉しそうな笑みを浮かべて、そのまま静かに眠りについた。
 愛娘が寝息を立てる姿を見て、アステルとシリウスは目を合わせ、自然と笑いが込み上げてきた。

 窓の外ではフクロウのヴァンが羽を休めて星空を見上げて鳴いている。
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