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反抗期編
【番外編】ずっと先の未来
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これはずっと先の未来の話である。
「ステラさーん、手紙が来たみたいだよ」
とある町のベンチに座っていた休憩中の冒険パーティ。そしてその中でも一番幼い茶髪少女が空を見上げながら仲間に声を掛けた。
陽の光に照らされた美しい金髪を三つ編みにしたステラと呼ばれた十代後半ぐらいの外見の少女が空を見上げると一羽のフクロウが飛んでくる姿が見えた。ステラはゆっくりと手を伸ばせばそこに止まり木のように止まるフクロウから筒状に巻かれた紙を受け取るとその中身を確認し、ため息を吐く。
「またお母様が帰ってこいって?」
「ううん、お父さんが」
彼女の隣に長い黒髪の剣士の少女が座ると興味深そうにその手元の手紙を見る。それに気づいたのか少し困ったような表情でステラは答えると封筒の中に手紙を戻しながら隣にいる少女を見た。彼女は旅の途中で出会った人間の仲間。
ステラがエルフとダークエルフの子供だと知れば避ける人と受け入れてくれる人がいる。旅をするのは当然後者。夜になれば髪と肌と目の色が変化し、嫌でもバレてしまうので事前に説明してあるのだがやはり最初は戸惑っていたようだ。今では慣れて普通に接してくれている。
ステラは学校を卒業し、世界を見てみたくなって旅に出た。その時は猛反対されたが彼女の決意はとても固かったようで最終的には折れてくれた両親に感謝している。
「そろそろ帰らないと連れ戻されちゃう、過保護なんだから」
ステラの父は手紙を三通出しても帰ってこないなら自力で探しに行くと言い出しかねない人なのだ。そろそろ早く帰るように促す内容が書かれているだろうなと思いつつ封を開けると案の定である。
「過保護ね」
黒髪の少女は肩をすくめ呆れた声を出すがその顔には優しい微笑を浮かべている。
「ステラさんと同じですよね過保護なの」
「え、私が過保護!?」
クスクスと茶髪の少女が笑いながら黒髪の少女の反対側のステラの隣に座るとステラは顔を赤くして否定する。
「だってステラさん、仲間が怪我したら軽いかすり傷でもすぐに治そうとするじゃないですか。酷い時は服を脱いでって脱がせようとするし」
冒険者のステラの役職は風と闇の魔法を扱う魔法使いだが、仲間が怪我をすれば作った薬を使って治療もする。かすり傷でも化膿してしまう可能性があれば無理矢理剥ぎ取る事もしばしばあるのだ。それを見て仲間は過保護だと笑う。
「もう、大人をからかわないの」
そう言いつつもステラは内心、少し寂しく思っていたりする。この二人は一年前に知り合った仲間でとても気が合うのだ。一緒にいて楽しいし、これから先も同じ時を過ごせたらいいのにと何度も思った。
だがステラは寿命の長いハーフエルフだ。少女の姿をしているが、本当は百歳を超えている立派な大人の女性。あと数年もしないうちに彼女達はあっという間に大人になると思うと悲しかった。
旅に出た理由は外の世界を見たかったのもあるが、故郷の友人達がステラを置いてどんどん大人になっていく姿に耐えられなかったのが本命だ。見たくないなら見えない所に行けばいいと思った結果でもある。
そして、たまに心配している両親に顔を見せるために故郷に帰ってもステラは家からは出ずに家族と過ごして、その生活に飽きたらまた旅に出るのだ。
(私はいつもこう……自分勝手)
自分がわがままなのはわかっているが、どうしても止めることができないでいる。そんな悩ましい生い立ちが不幸なのか?と問われればそんなことはなかった。
ステラにはいつでも帰る場所がある。温かい家族がいる。そして何より信頼できる今まで出会った、たくさんの仲間達もいる。悲しいことよりも楽しい経験の方が多かった。
「あ、みんなも来る?寝る所はいっぱいあるし、ご馳走もあるよ」
「ご実家は宿屋でもしているの?」
「ううん、家が大きいだけ。ご飯は近くに美味しい食堂があって、異世界の料理も食べれるんだ」
異世界の料理と聞いてパーティの仲間達は嬉しそうな笑顔を見せながら立ち上がると荷物をまとめて馬車に向かい。ステラは返事の手紙をフクロウのヴァンに持たせて空へと放った。そのまま真っ直ぐに飛び立ち見えなくなるまで見送るとステラは仲間達の後を追いかけて歩き出した。
「ステラさーん、手紙が来たみたいだよ」
とある町のベンチに座っていた休憩中の冒険パーティ。そしてその中でも一番幼い茶髪少女が空を見上げながら仲間に声を掛けた。
陽の光に照らされた美しい金髪を三つ編みにしたステラと呼ばれた十代後半ぐらいの外見の少女が空を見上げると一羽のフクロウが飛んでくる姿が見えた。ステラはゆっくりと手を伸ばせばそこに止まり木のように止まるフクロウから筒状に巻かれた紙を受け取るとその中身を確認し、ため息を吐く。
「またお母様が帰ってこいって?」
「ううん、お父さんが」
彼女の隣に長い黒髪の剣士の少女が座ると興味深そうにその手元の手紙を見る。それに気づいたのか少し困ったような表情でステラは答えると封筒の中に手紙を戻しながら隣にいる少女を見た。彼女は旅の途中で出会った人間の仲間。
ステラがエルフとダークエルフの子供だと知れば避ける人と受け入れてくれる人がいる。旅をするのは当然後者。夜になれば髪と肌と目の色が変化し、嫌でもバレてしまうので事前に説明してあるのだがやはり最初は戸惑っていたようだ。今では慣れて普通に接してくれている。
ステラは学校を卒業し、世界を見てみたくなって旅に出た。その時は猛反対されたが彼女の決意はとても固かったようで最終的には折れてくれた両親に感謝している。
「そろそろ帰らないと連れ戻されちゃう、過保護なんだから」
ステラの父は手紙を三通出しても帰ってこないなら自力で探しに行くと言い出しかねない人なのだ。そろそろ早く帰るように促す内容が書かれているだろうなと思いつつ封を開けると案の定である。
「過保護ね」
黒髪の少女は肩をすくめ呆れた声を出すがその顔には優しい微笑を浮かべている。
「ステラさんと同じですよね過保護なの」
「え、私が過保護!?」
クスクスと茶髪の少女が笑いながら黒髪の少女の反対側のステラの隣に座るとステラは顔を赤くして否定する。
「だってステラさん、仲間が怪我したら軽いかすり傷でもすぐに治そうとするじゃないですか。酷い時は服を脱いでって脱がせようとするし」
冒険者のステラの役職は風と闇の魔法を扱う魔法使いだが、仲間が怪我をすれば作った薬を使って治療もする。かすり傷でも化膿してしまう可能性があれば無理矢理剥ぎ取る事もしばしばあるのだ。それを見て仲間は過保護だと笑う。
「もう、大人をからかわないの」
そう言いつつもステラは内心、少し寂しく思っていたりする。この二人は一年前に知り合った仲間でとても気が合うのだ。一緒にいて楽しいし、これから先も同じ時を過ごせたらいいのにと何度も思った。
だがステラは寿命の長いハーフエルフだ。少女の姿をしているが、本当は百歳を超えている立派な大人の女性。あと数年もしないうちに彼女達はあっという間に大人になると思うと悲しかった。
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そして、たまに心配している両親に顔を見せるために故郷に帰ってもステラは家からは出ずに家族と過ごして、その生活に飽きたらまた旅に出るのだ。
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ステラにはいつでも帰る場所がある。温かい家族がいる。そして何より信頼できる今まで出会った、たくさんの仲間達もいる。悲しいことよりも楽しい経験の方が多かった。
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異世界の料理と聞いてパーティの仲間達は嬉しそうな笑顔を見せながら立ち上がると荷物をまとめて馬車に向かい。ステラは返事の手紙をフクロウのヴァンに持たせて空へと放った。そのまま真っ直ぐに飛び立ち見えなくなるまで見送るとステラは仲間達の後を追いかけて歩き出した。
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