シークレットベイビー~エルフとダークエルフの狭間の子~【完結】

白滝春菊

文字の大きさ
上 下
17 / 104

贈り物

しおりを挟む
 翌日、疲れが溜まっていたせいか、二人はぐっすりと眠ってしまい、目を覚ました時には昼になっていた。先に起きたシリウスの隣では彼女がまだ眠っている。無理もない、昨夜はあんなにも激しく愛し合ったのだから。

 ベッドの上でシーツに包まり、幸せそうに眠るアステルの姿はまるで妖精のように美しい。彼女のそばにいつもいることが嬉しく思う反面、やはり、こんな自分が独占していてもいいのかと不安になる。起こさないようにベッドから抜け出すとシャワーを浴びてから朝食の準備に取り掛かった。

 硬いパンを薄く切ってベーコンと卵を焼いて皿に盛り付け、ホットミルクをカップに入れてそれぞれをテーブルに置くとまだ夢の世界にいるアステルを起こしにかかった。

「アステル、起きろ」
「ふぁい……」

 まだ完全に覚醒していないのか、アステルはぼんやりとした様子であくびを漏らした。その様子を見て思わず笑ってしまう。

「もうお昼だぞ」
「んぅ……お、お昼!?やだ、ごめんなさい。すぐにご飯を作るから……」
「俺が作ったから、すぐにシャワーを浴びてこい」

 慌てて起き上がると自分が裸であることに気づき、アステルは顔を真っ赤にしてシーツで体を隠しながらバスルームへ駆け込んでいった。

 そして二人は遅めの昼食を取り、食後に紅茶を飲みながら話を始めた。紅茶はアステルのお手製で、昨日の疲れを癒やす効果があるものを選んだ。

「今日は道具屋に行かなくても平気か?」
「ええ、今日は家で薬を作るわ。この前、採って来てもらった薬草を使って新しい薬を作ってみるつもりなの」

 薬について話しているアステルの顔は輝いており、よほど楽しみにしていることが伺える。

「オーガゴートを倒した時の報酬だ。貰ってくれ」

 そして頃合いを見て、シリウスは金貨の入った袋を差し出した。中身はかなりの額であり、初めて見る袋いっぱいの金貨の多さにアステルは目を丸くしてを彼の方に押し返した。

「これはシリウスのお金よ。あなたが使って……ほら、装備とか」
「……ならこっちは受け取ってくれ」

 意地でも受け取ろうとしない彼女に対して今度は手のひらよりも少し大きめの綺麗な白い箱を渡すとアステルは不思議に思いながらもそれを開けたら、そこにはペンダントが入っていた。

「わぁ、綺麗……これ、どうしたの?」
「……プレゼントだ。いつも世話になってるからな」

 もしかして迷惑だったのであろうかと不安になるシリウスだったが、アステルは笑顔を見せながら早速、身に着けてくれた。

「ありがとう。シリウスと同じ瞳の色……とっても素敵」

 選んだペンダントの宝石はサファイアではなくルビーにした。彼女に似合うことよりも自分と同じ瞳の色を身に着けてほしい、と独占欲を優先してしまったのだが胸元に光る赤い宝石は白い肌によく映えており、その姿に見とれてしまうほどによく似合っているが、宝石よりも彼女の方がずっと美しく見えた。

 ◆

 それから二人と一匹はこの集落で秘密が見つかることに怯えつつも平穏な日々を過ごしていくのであったが、そんな儚い幸せは長くは続かなかった。

 アステルが体調を崩すことが増えてきたのだ。良くなったかと思えばまたすぐに体調を崩し、吐き気がある、腹痛がするといった症状が出ることが増えてきた。

 そんな彼女を気遣い、シリウスが家のことを全部やるようになっていた。食材はできるだけ森で調達し、足りないものは森から出て近くの村や町まで買い出しに行く。どんなに不便でもアステルのためなら苦ではなかった。むしろ彼女のためならばなんでもするつもりだ。

「ごめんなさい……私のせいで……」

 ある雨の日、ベッドで体を温めながら横になっているアステルは申し訳なさそうな顔をして謝ってきた。昨日は良くなったはずなのだが、今日はまた調子が悪いようで苦しそうな表情を浮かべている。

「気にしなくていい。それより何か食うか?なんでもいいから口にしてくれ」
「……じゃあ、果物……オレンジが食べたいな……」

 シリウスが優しく声をかけるとアステルは小さく頷いた。具合が悪くなってからは果物をよく食べていたので常に家には多めに、種類も豊富にして置いている。シリウスは皮を剥いて食べやすく切り分けたオレンジをスプーンに乗せて口に入れてやると彼女は「美味しい」と言って笑顔を見せてくれた。その笑みを見てシリウスが一安心した、その時だった。

「アステル!アステル!」
「私、出てくる」

 外からドアを叩くヒステリックな女の声が聞こえ、シリウスは居留守を使った方がいいと判断をしてアステルの耳を塞いだが彼女はシリウスの手をどけて玄関の方へと向かってしまった。人前に出ることのできない歯痒さに堪えながらシリウスはアステルが戻ってくるのを待つことしかできなかった。

 ケープを羽織り、扉を開けた先には雨でずぶ濡れになったエルフ女性がいた。酷く焦って走って来たのか、息を切らせながらアステルを睨み付けると泣きながら彼女に掴みかかる。

「レイア!レイアはここに来てなかった!?」

 レイアとはこの前、家の前でアステルと仲良く会話をしていた幼いエルフの少女だ。彼女がどうしたというのだろうか。

「レイアは来てないけど……何かあったの?」
「今朝からレイアが家に帰ってこないの!」

 嫌な予感が頭を過り、アステルは戸惑いながらも事情を聞くとレイアの母は涙をこぼしながら叫ぶ。こんな雨が強い日に外に出れば風邪を引いてしまうだろう。それにまだ小さい子供だ。もしも森になんか入ってしまえば迷子になってしまうかもしれない。

「アステルが最近元気がないからお花をあげるって言っていたのよ!?あの子に何かあったらアンタのせいだから!!」

 母親の悲痛な叫びを聞きながらアステルは頭を強くぶたれたような感覚に襲われた。自分のせいだと、自分が悪いんだと思い込んでしまい、思わずその場に崩れ落ちそうになるがなんとか扉を支えにして耐えきった。

「ごめんなさい……私も探しに行きます」
「そんな体の人に何ができるというの?余計な事をしないでちょうだい」

 そう睨みつけながら言い捨ててレイアの母は足早に去って娘を探しに行った。残されたアステルは呆然と立ち尽くしていたが、後ろから来たシリウスが扉を閉めるとハッとして顔を上げる。

「……俺が行く」
「ダ、ダメ。他のエルフみんなレイアを探しているからあなたの存在が知られたら……」

 動揺をする彼女を支え歩いて椅子にそっと座らせるとシリウスは立ち上がった。

「大丈夫だ」
「お願い……行かないで」

 アステルは必死にシリウスの腕を掴み引き留めようとするが彼は首を横に振ってそれをやんわりと振り払う。

「レイアは俺が必ず見つける。お前は何も心配するな」
「……絶対にシリウスもレイアも無事に帰って来て……ごめんなさい……」

 観念したように俯く彼女の言葉を聞いてシリウスは力強く頷くと、頭を撫でてから森へ行く準備をするために部屋に戻った。森の中で目立たない深緑色のフード付き外套を身に着け、槍を片手に持ち、腰には薬が入った小型のバッグを身に着け、準備を終えたシリウスは辺りを気にしながらフードを深く被って急いで家を飛び出して行った。

 その後ろ姿をアステルは窓から寂しそうに見送っていた。それが最後になるとは知らずに
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

処理中です...