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Wedding~消えた花嫁~

第23話

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 ドレッサーの周りをふわふわと飛んでいた妖精が元気に答える。
「いいよっ」
 くるっと妖精が指を回す。
 すると次の瞬間、光と共にドレッサーの前に二人掛けのソファーが現れた。
「えぇっ!」
 突然の出来事に再び青年が大声で叫ぶ。
 何がなんだかといった様子で目と口を大きく開けたまま固まっている。
 魔法を見るのが初めてなのだろう。
「イーサンはまだ戻らないだろうから、あそこに座って待つといい」
 表情を変えることなくグスターヴァルは青年にソファーを勧める。
「あの……えっ……と」
 座るように言われたものの、青年はどうすればいいかと困った顔でおろおろとする。
 じっと青年を見下ろしていたグスターヴァルは「ふむ」と呟くと、くるりと向きを変えて妖精が出してくれたソファーへと歩いて行く。
 ドレッサーに向かって横向きに現れたソファーの奥側に腰掛け、グスターヴァルは青年に声を掛けた。
「大丈夫だ、問題ない」
 青年が怖がっているのかと思ったグスターヴァルは自分が先に座って見せたのだった。
 自分の横をぽんぽんと手で叩いている。
 ソファーは白く柔らかそうで、座り心地も良さそうである。
「えっと、じゃあ……」
 ぽかんとグスターヴァルのことを見つめていた青年は、呼ばれて自分もソファーへと向かった。
 そっとグスターヴァルの隣に腰掛ける。
 思った通り、ふわりと柔らかいソファーであった。
 座った感触に感動しつつ、ちらりと隣に座るグスターヴァルを見つめる。
 グスターヴァルはじっと前を見たまま相変わらず無表情である。
 長い手足に整った顔、少しだけイーサンに似たグスターヴァルの横顔を見ながら、青年は再び緊張していた。
「あの……えっと、あなたは……」
 青年が思い切ってグスターヴァルのことを尋ねようと口を開いたその時だった。
 部屋のドアがノックされることなく突然開いた。

「まさか俺たちが1番じゃないだろうな」

 誰かが話しながら部屋の中へと入ってきた。
「お前、1番好きだろ?」
 皮肉なのか冗談なのか、それとも本気で言っているのか、淡々と話す低い男性の声も聞こえてきた。
 入ってきた人物の顔を見て青年が声を上げて立ち上がる。
「隊長っ!」
 そう、入ってきたのは妖精に見つかって戻ってきたセバスチャンとイーサンだったのだ。
「随分と早かったな……しかし、戻れたようで良かった」
 グスターヴァルもふたりの姿を見て、首を傾げながらも少しだけほっとした顔をする。
「うるさいな。こいつのせいだ」
 むっとした顔でセバスチャンが親指でイーサンを指差しながら答える。
「なんで俺のせいなんだよ……ん? イアン、そんな所で何してるんだ?」
 しれっとした顔でセバスチャンの文句に言い返したイーサンだったが、漸く青年の存在に気が付き声を掛けた。
 いつものことだが、イーサンはセバスチャンがいると全く自分たちの存在を無視するところがある。
 イアンと呼ばれた青年は大きく溜め息を付いた。
「隊長を呼びに来たんです。会場の設営に問題が発生したので……」
 そしてイーサンを見つめながら自分がここへ来た理由を話した。
「問題?」
 イーサンが片方の眉をぴくりと上げる。
 怒られるかと思い、イアンはびくっとして思わず姿勢を正した。
「あ……はい。あの――」
「ほら、呼ばれたんだから行ってやれよ」
 早くイーサンをどこかにやりたいセバスチャンがイーサンを急かすように割って入ってきた。
「お前たちだけで解決できないのか?」
 行きたくないのか、イアンに向かってイーサンはじろりと厳しい目付きで問い返す。
「あのっ、えっと、いや、その、隊長の判断を仰ぎたくて――」
「は? まずは自分たちでなんとかしろ。こっちの問題が片付いたら行ってやる」
 焦った顔で答えるイアンに向かって、被せるようにイーサンが指示を出した。
「え、あ、は……はい、分かりました。……では……」
 イアンは困惑しつつも言い返すことができず、上目遣いにイーサンを見つめながら頷く。
 そのままドアの方へと向かおうとしたのだが、どうしても気になりグスターヴァルを振り返る。
 彼が何者なのか、なんという名前なのか、まだ何も訊けていない。
「どうかしたか?」
 なぜ自分を見るのかとグスターヴァルは不思議そうに首を傾げる。
「あのっ……」
 なんとかもう少しだけでもグスターヴァルと話がしたくて、イアンは何か話そうと口を開き掛けた。
 すると、突然部屋の外からイーサンを呼ぶ声が聞こえてきた。
「隊長っ!」
 騎士のひとりであった。イアンが戻ってこない為、別の騎士が呼びに来たのだろう。
 敬礼をする騎士を溜め息を付きながらイーサンが睨み付ける。
「会場のことか? だったら今ちょうどイアンにも指示をしたが、自分たちでなんとかしろ。逐一俺の指示を仰がなくていい」
 先程のイアンへの指示よりも更に面倒臭そうに答えている。
「はっ! 申し訳ございませんでしたっ!」
 騎士は再び敬礼をすると、慌てて戻って行った。
「…………」
 その様子を思わずぽかんとした顔でイアンは眺めていた。
 そして、大して役に立たない自分が急いで戻る必要はないのではないか、と考える。
「あのっ……」
 今度こそ、と意を決したようにイアンがグスターヴァルに話し掛けようとすると、ドアを閉め、部屋の中に入ってきたセバスチャンとイーサンがこちらに歩いてきた。
「そんなのあったか?」
 セバスチャンがグスターヴァルが座るソファーを指差す。
 先程まではなかったはずなのに、とでも言いたげにじっと見ている。
「あぁ、フェイが出してくれたんだ。フェイ、もうひとつ出せるか?」
「いいよー」
 そう言うと、妖精は再びくるっと指を回す。
 光と共に、向かい合うように現れたソファーに全く警戒することなくドカッとイーサンが腰を下ろした。
「お前な……」
 呆れるセバスチャンのことも気にすることなく、イーサンは自分の横をポンポンと叩く。
「セバスチャンも座れよ」
 まったく……と呟きながらもセバスチャンもソファーに腰を下ろした。
「お前サボってないで早く仕事戻れよ」
 座った瞬間、大きく溜め息を付きながらセバスチャンはじろりと隣で澄ました顔をしているイーサンを睨み付ける。
 そしてふたりのやり取りが始まったかと思うと、その後はアリスとジェイクも戻ってきて、イアンはそのままグスターヴァルに声を掛けるタイミングを逃していたのだった。
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