White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Wedding~消えた花嫁~

第22話

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 時は遡って『かくれんぼ』が始まってすぐのこと。
 花嫁の控室でひとり留守番となったグスターヴァルは、妖精を指に座らせたままぼんやりと立っていた。
「ねぇグスターヴァル、椅子欲しい?」
 一応ドレッサーの前に小さなスツールが一脚あるのだが、人間の姿とはいえ、背の高いグスターヴァルには小さすぎてとても座れそうにない。
「うむ、そうだな。あるとありがたいが……いや、椅子を出してもらう代わりに、また何か悪戯をするんじゃないだろうな?」
 顎に手を当て頷きかけたグスターヴァルだったが、すぐに嫌な予感が頭をよぎり、じっと指の上の妖精を見つめる。
「やだな。そんな意地悪はしないよ」
 妖精はにこりと微笑んだ。
「…………本当だな? では、椅子を一脚――」
 じっと疑う目付きで妖精を見つめたが、にこにこと笑う姿を見て信じることにしたグスターヴァルは、椅子をお願いしようと言い掛けた。
 ――とそこへ。
 部屋をノックする音が聞こえてきた。
「ん? 誰だろうか」
 ぼそりと呟くと、グスターヴァルは部屋のドアへと向かった。

「あのぉ……」

 そっとドアが開き、誰かが部屋の中を覗き込んだ。
 グスターヴァルの知る人物の誰でもない。
「何か用か?」
 首を傾げながらグスターヴァルが返事をする。
「っ! あの、その、えっと……」
 中に入ってきたのは騎士の格好をしたひとりの青年だった。
 グスターヴァルに声を掛けられ、びくりと体を震わせる。
 騎士にしては小柄で、優希より少し高いくらいだろうか。
 くりっと大きな紫色の瞳とふわふわとした栗色の髪。歳は優希と同じくらいに見える。
 青年は大きな目をぱちぱちっと瞬きすると、慌てたように部屋の中を見回している。
「誰か探しているのか?」
 きょろきょろとしている青年に向かってグスターヴァルが問い掛けた。
「あの、えっと、隊長……イーサン隊長がここにいるって聞いたんですが……」
 困った顔をしながら、目の前のグスターヴァルを見ることなく部屋の中を見回している。
「イーサンはここにはいないぞ?」
 さらりとグスターヴァルが答える。
「えっ?」
 青年は驚いた顔でグスターヴァルを見上げた。
 次の瞬間――。

「えぇっ!……わぁっ!」
 じっと見つめた先にはグスターヴァルの指に乗る妖精がいた。
 青年はぎょっとした顔で大きな声を上げると、驚きすぎてそのまま後ろによろりと傾く。
「おっと…………大丈夫か?」
 すぐにグスターヴァルが手を伸ばして青年の腰をぐっと支える。
 そしてじっと青年の顔を覗き込むようにして見つめた。
「あっ……えっと……」
 妖精の姿に驚きすぎてグスターヴァルの顔をまともに見ていなかった青年は、助けてくれたグスターヴァルの顔をまじまじと見つめる。
(い、イケメン……)
 ドキドキと鼓動が速くなっているのを感じていた。
 妖精を見た驚きなのか、倒れそうになったことへの焦りなのか、それとも目の前のグスターヴァルの顔を見た衝撃なのか。
「大丈夫か?」
 顔を赤くしながら固まってしまった青年に向かって、グスターヴァルがもう一度声を掛ける。
「あっ……はい。だ、だいじょ……ぶで……す。あ、あのっ、ありっ、ありがとうござ、いま、した……」
 慌てて答えようとしたが、上手く話すことができない。
 声まで良すぎて青年は思わずグスターヴァルに見惚れてしまっていた。
 どうしたのだろうと不思議そうに首を傾げると、グスターヴァルは斜めになっていた青年の体をぐっと立たせる。
「そうか。大丈夫なら良かった」
 まだ赤い顔でぼんやりとしている青年を無表情に見つめながら、グスターヴァルは『妖精の姿を見て驚いたのだろう』と考えていた。
 そして先程青年を助けたタイミングで飛んでいった妖精のことを思い出し、ぐるっと部屋の中を見回した。
 妖精はドレッサーの近くをふわふわと飛んでいる。
「驚かせてしまったようだな。あれは妖精だ。危害は加えないはずだから心配しないでいい」
 青年が怖がらないようにグスターヴァルは妖精のことをそう説明した。
「えっ!」
 ぼんやりとグスターヴァルを見つめていた青年は、グスターヴァルの話にハッとした顔をした。
(そういえば……さっき)
 ずっとグスターヴァルの姿に見惚れていたがふと思い出した。
 先程見た妖精の姿を。
「妖精?」
 すっかり自分の用事を忘れてしまっている青年は、不思議そうな顔でグスターヴァルを見上げる。
「あぁ、そうだ……そういえば、君はイーサンを探しに来たのか?」
 答えてすぐにグスターヴァルが先に青年の用事を思い出す。
「あっ! はいっ。えっと、イーサン隊長はここには来ていないですか?」
 漸く自分の用事を思い出した青年は慌てたようにグスターヴァルに尋ねる。
 グスターヴァルの身長が高く、首を後ろに大きく反らしている。
(この人大きいな……隊長よりも大きいんじゃ……)
 再びぼんやりとグスターヴァルの姿に見入ってしまっていた。
「さっきまでいたんだが……。そのうち戻るだろう。戻ったら君の所へ行くように伝えよう」
 ふむ、と顎に手を当てながら答えたグスターヴァルは、この『かくれんぼ』が終われば皆戻ってくるだろうと、そう答えたのだった。
「ええっ! そんなっ、えっと……あの、ここで待っててもいいですか?」
 呼びに来たのが自分の役目である。それを伝言をお願いするだけで戻ったら何を言われるか……と、青年は慌てたように首を横に振る。

「……そうか。大丈夫だとは思うが……」
 顎に手を当てたままグスターヴァルは悩んでいた。
 戻ってはくるだろうが、それが人の姿なのか、動物の姿なのか。
「ふむ……何があっても驚かないように」
 そして青年をじっと見下ろしながら考え、この青年であれば動物の姿で帰ってきても問題ないかと判断したのだった。
「え?」
 どういう意味なのかと青年は首を傾げる。
「フェイ……椅子を二脚頼めるか?」
 ふと思い出したグスターヴァルは妖精に向かってそう頼んだのだった。
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