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 後ろから一人か二人の拍手が聞こえた。拍手はすぐにやんだが、それは会場にいた人の中にもアンナと同じように彼らの素行に耐えかねていた者がいたという現れだった。アンナは自分の料理を食べてくれた客の中に、その勇気をある行動を示してくれた人がいたことにほんの少し慰められた。きっと新社長に見咎められれば即刻クビでもおかしくないのだから。

 控え室のホテルの一室に戻り、のろのろと着替えた。一人になったとたん疲れを強く感じる。帰るだけなのに準備がことさら億劫だ。アンナは荷物をまとめて地下駐車場の車に荷物を詰め込むと、ホテルの厨房へ向かった。厨房ではレストランのディナーの料理の真っ最中で、それぞれのスタッフがそれぞれの担当ディッシュにいそしんでいる。アンナが顔を出すと、フランス人シェフがなまりの強い日本語でアンナに声をかけてくれた。

「君はいいパテシエールになる。来年ここを受けたらいいよ」
「それはきっと無理です……。だってついさっきグループの御曹司を怒らせてしまったから」
「そうだったの? ……そういうこともあるさ。でも残念だな。来年僕はスーシェフになるから、少しは口添えしてあげられると思ったんだけど」
「その言葉だけでも本当にうれしいです」
「君のその才能は誇っていいよ」
「ありがとうございます」
「若さに失敗や挫折はつきものだ。それと可能性とチャンスもね」
「その言葉を忘れません」
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