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 アンナにとっては、百名分のパーティ料理を取り仕切るというのは、貴重というレベルを超えたかけがえのない経験だった。マリヤは小規模なパーティだといったが、大小の感覚はアンナとマリヤでは大きなずれがあったことはいうまでもない。才能には恵まれていても、経験の浅いアンナには埋められない要素が複数あった。その穴を埋めてくれたのが、アンナのためだけに貸し出されたフランス人の中堅シェフだ。慣れない仕事に悪戦苦闘しているアンナに、仕入れから段取り仕上げまで事細かにアドバイスとフォローをくれた。感謝をしてもし足りない。彼のおかげでアンナは今日の料理を全てイメージどおりに仕上げることができた。そんな料理には、いっさいの不安はもっていない。

 「でも、なに? あなたがなんと言おうと、あなたの料理は最高よ。特にお菓子はもう大盛況! あなたのチョコレートガレットはもうなくなりそうよ」
「本当?」

 アンナの視線はテーブルのほうへ走った。ケーキやお菓子が並べられた一角にはとりわけ人が集まっていて、テーブルの様子が見えないほどだ。ようやく萎えていた自信を復活させることができた。

(そうよ、わたしには菓子職人としての腕がある)

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