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しおりを挟む就職活動を応援するマリヤによってアンナはこのパーティのトレトゥールを任されていた。トレトゥールとはお菓子屋が作る惣菜のことで、顧客の指定する元に出向いて食事を配膳、提供するケータリング料理のことだ。マリヤは従兄のために歓迎を祝した最高のトレトゥールをアンナに注文した。それに応えてアンナは、定番のパテやキッシュ、テリーヌなどに加え、めったに扱うことのできない高級食材を使ったレパートリーや、和食や東南アジア系のメニューをアレンジした個性的な惣菜もさまざまに準備した。前々からマリヤと段取りを確認し、できうる限り最高の食材を揃えた。とはいえアンナひとりで対応しきれるはずはなく、百余名分の料理をつくるためにホテルから補助として貸してもらった厨房スタッフとは何度も何度も打ち合わせをした。料理の並べ方や皿の入れ替えのタイミングなどもホテルスタッフと細かく打ち合わせをした。アンナに手抜かりなどない。
普通ならパーティの料理はホテルのシェフが用意するはずだった。どう考えても製菓学校を出たばかりでなんの経歴もないアンナが任されるような仕事ではない。しかし、ホテルはマリヤの父の所有物であり、またパーティは親族とグループ関係者、そして新会社の社員しか参加しないという比較的小さな内々のものだった。加えて、マリヤに対して清算するべき約束があったマリヤの父の命により、ホテルスタッフ一同は令嬢のいっさいのわがままを受け入れることになったのだ。こうして、どうしてもアンナにトレトゥールを作る機会を与えたいというマリヤの強引な計画が見事に実現したのだった。
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