官能の呼び声-短編集-

リヴァイヴ

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キャンプ場で家族に一人置いていかれたら、知らない家族の奥さんがセックスしにきた話

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 キャンプ場の空気は、夏休みということもあってか、たくさんの家族が集まっており、バーベキューや川遊びなど祭りのように賑やかな雰囲気に包まれていた。俺はそんな中、ビールでも飲みながら一人テントの中で休んでいた。つい朝方まで工場で夜勤で働き、家族をキャンプ場まで連れてきたはいいものの、もうクタクタで体力が持たないためテントの中で休んでいたのだ。賑やかな喧噪に紛れ込むには、無理矢理連れてこられた感が拭えないイベントに俺はそんなに気乗りしていなかったのだ。家族もそんな様子を見かねてか、妻と子供達だけで河原へと遊びに出ていた。私はテントの隙間から広場で集まってバーベキューをしている3家族くらいの団体を見ていた。

 どうやらここは人気のキャンプ場のようで、名前を入れるとSNSにもたくさんキャンプの実況や経過がアップされていた。俺はビールを飲みながらそんな様子を見つめていたのだが、なんの気まぐれか、「ビール一人なう」とキャンプ場の名前をハッシュタグにつけて投稿してしまった。家族と離れて行動していたからかもしれない。本当なら夜勤明けの今日は、家でビールでも飲みながら大リーグの中継を見て、適当なところで眠っていたはずだったのだ。それがキャンプ場に来て一人テントの中で虫を払いながら、バーベキューの様子をアップされるSNSをビール片手に眺めているもんだから、多少手持ち無沙汰にもなるというものだ。家ではない、という現実が普段と違う行動へ導いたのかも知れない。

 家族は先ほど河原へ向かったばかりだが、ビールはもう一本なくなりかけていた。申し訳程度において行かれたスルメイカを食みながら、ネットで野球中継を見ようとしたときだ、スマホの画面の上にSNSの通知が届いた。

「なんだ・・・・・・?」

 タップすると、さっき投稿した呟きに「お一人なんですか?」と女性のアカウントからコメントがついていた。まるで狐につままれたような出来事に、俺は思わず口の中にあったスルメイカをかまずに飲み込んでしまった。「えぇ、えぇ、一人なんですー」と唾を飲みながらコメントに返信すると、今度はダイレクトメールの方に通知マークがついた。

「どこら辺にいますか?」

 今度はスマホを地面に置いて、思わずまじまじと画面を見ては周囲を見渡してしまった。幸い、テントの中は完全に周囲から見えないようになっており、この行動が人から見られることはない。俺はビール缶を口に運ぶが、中身は既に空になっていた。なぜだか恨めしく思いながら、クーラーボックスの中から新しいビールを取り出し、封を開けた。

「バーベキュー、の、広場の、近く、です・・・・・・と」

 これはいけない、と胸の鼓動が早まるのを感じた。この感覚は、妻と出会った時を思い出す。そういえば俺は妻との出会いもSNSからだった。こんなに簡単に異性と出会えるわけがない。きっと家族が仕掛けたドッキリかなにかに違いない。そう思ったものの、続くメッセージに返事をせずにはいられなかった。

「もしかして、青いテントの中ですか?」
「は、はい、そうですけど」

 心臓が脈立った。聴覚がバーベキューの喧噪を離れ、わずかな草葉を踏む足音を聞き分けようと、緊張状態になる。困ったとき思わず飲み物を口にする癖が頻発する。口の中に大量の麦芽の旨味が流れ込んでくるが舌が味わう前に、次々に胃の中へと落ちていった。

 わしゃ、とテントの外で音がした。
 いる、と直感的に悟る。え、こんな簡単に?

「えと・・・・・・、入ってもいいですか?」
 俺はクラーボックスと荷物が置かれたテントの中を見渡した後、身近にあった扇風機を近くに寄せると「は、はい」と返事をした。

 草を踏む音がテントの入り口まで来ると、黒いサンダルの先が見えた。続いて、黒くて長い髪をした細身の女性がそこに現れた。
 年は二十代後半だろうか。眼鏡をつけており、青いさわやかなワンピースを着ていた。

「へへ、お邪魔します」

 何がそんなに嬉しいのか、彼女は目をへの字にしながらテントの中へと入ってきた。一方俺は、突然の出来事に頭がついてこず、現れた女性に目を奪われていた。
「えと、どうか、したのですか?」
 隣いいですか、と聞いたものの女性はこちらの返事は聞かず、隣に座った。
「実は私、人の集まりが苦手で」
「はぁ・・・・・・」
「主人はそんなことなくて、みんなでバーベキューするからって私をおいて、すぐどっかいっちゃうんです」
「そ、そうなんですね・・・・・・」
「あなたは・・・・・・どうして一人なんですか?」
「俺は・・・・・・いや、俺も似たようなもんです」
 普段、こんなこと言わないのに。キャンプの魅力が俺を変えてしまったのだろうか。キャンプの魅力のせい?

「はは、だからって酒を飲んだ男のテントに一人で入ってくるもんじゃないですよ」
「そうなんですけどね、一人じゃ心細くて。それに、不思議なんですけど、SNSで投稿みた時、なんかほっとしたんです」
「えっ?」
「この人、いい人そうだなって」
「そ、そういうものですか・・・・・・」
「はい」

 なんだか不思議なことが起きている。それから彼女にもビールを渡し、それから三十分ほど談笑した。わかったことは、友達の多い旦那と結婚したはいいものの、自分がそれについていけず、くたびれてしまったのだそうだ。

「アキさん、でいいですか?」
 彼女は俺のSNSのアカウントの名前を言った。言いながら、自分の手を俺の手の上に重ねてきた。
「私たち、もしかして仲良くなれませんか?」
 その言葉を言い終わると同時に、彼女の黒い瞳が近づいてきた。やがて二人の間に距離がなくなったとき、彼女の柔らかい唇が俺の口の中へ入ろうとしてくるのだった。テントの入り口の先には、バーベキューの喧噪の一部が写っていた。俺と彼女はお互いの口を舐め合いながら死角へと移り、より強く互いの粘膜を相手になすりつけ合った。

 彼女が着ているワンピースは、夏の素材らしく手触りがよく肌の露出も多かった。それだけに手を這わせば直に彼女の手触りをこの手に感じることができた。はじめは首、それから肩、二の腕を通りやがて腰へと流れてゆく。テントの床に敷いたクッションの上で横になりながら、彼女を下にしてトロンとした瞳を吸い出そうとするかのように彼女の唇を塞ぎ舌を吸った。

 夜勤明けの眠気などすべて吹き飛んでいた。同時に疲弊した身体は、より自身の分身をいきり立たせ彼女へと突き立てていた。さっき会ったばかりの女性に、自分のイチモツを押しつけている現実に、感覚が麻痺しそうになる。それも外では彼女の旦那がバーベキューをみんなと楽しんでいるというのに。

 旦那が悪いのだ、と思うと同時に結果からいえば、俺と彼女は身体の相性が良いといえた。相手に触れた途端、全身に電気が走ったようになりお互いの体がのけぞりあった。夏の気温に呼応したかのように吹き出す汗がお互いの身体に張り付き、その延長線上にある乳首や指先へ、まさぐる手を滑るように誘導させた。

「ん・・・・・・」

 こらえた所から漏れるような声は、旦那に気づかれないようにか。もしかしたら妻が帰ってくるかも知れない、なんてことも思ったがかつて妻と身を交えたとき、それは最後まで何者にも遮られることなく果たされた。今回もそんな予兆を確かに感じながら、俺は自分のいきり立つそれを彼女の前に晒して見せた。

「あぁ」もう彼女は、寂しそうな顔をしていなかった。代わりに浮かべるのは、淫乱な本能に準じた女の顔。禁止されたこの世の甘い快楽を味わう一人の人間として、彼女は俺のモノを口に含んだ。激しい吸引と共に、全身に溜まっていた疲労の膿が吸い取られていくようにエネルギーが陰茎へと集まっていった。そのすべてを彼女は口で包み込み、まるで愛しい子供のように俺を尻ごと抱いて奥深くまで咥え込んだ。

「気持ち・・・・・・いい」

 妻にも感じたことのない快感が全身をほとばしった。彼女は旦那と出会うまでは処女だったという。だとしたらどこでこんな情熱を蓄え混んだのだ。彼女の憂鬱とした日々の塊が今、爆発しているのかもしれない。恋愛を知らない女が、初めて快楽に目覚めたかのような躍進。喜びが俺を奮い立たせている。

「あの人のより、大きい」

 眼鏡の奥で恍惚とした口元が、俺のカリ裏をこすりとってゆく。俺はいてもたってもいられず、彼女のワンピースのボタンを外し、ピンと立った乳首を両手で強く潰した。途端、彼女の体が痙攣し、小さなうめき声を上げて、その場で震えていた。もうそろそろ我慢できない。

 俺は彼女の名前を呼んで、全身の服を脱がせた。テントの中に乱雑に投げ捨てられた衣服は、雷にように落ちた愛の衝撃を表していた。そのまま、俺は彼女の中に入った。
 激しい息づかいだけがテントの中に響いた。外で鳴く蝉の声も、バーベキューの喧噪も、遥か遠い景色に思えた。深い挿入が為される度に彼女の身体は小刻みに痙攣し、それ以上にテントの外で行われるバーベキューに視線がいったとき、彼女の膣は小さなテンポを強く刻んで俺のモノを締め付けた。

「気持ちいいのか?」
「き、き、き、きもちいいいぃ!」

 言葉だけでは飽き足りないのか、全身を俺の腰へ打ち付けて彼女は自分のセックスを表現していた。彼女はもう一人の男の妻ではなかった。ただの一人の女である。俺は女の乳首を指の腹で挟みつねりながら、自分の興奮が高まってゆくのを待った。彼女もまたその時を待ち焦がれるように腰をうねらせ、二人はキャンプの共同作業を完成へと向かわせていった。

 キャンプ・・・・・・最高である。

 そのまま俺は彼女の中に仕事の疲れや日頃の鬱憤のすべてを吐き出し、女と化した彼女もまた、自身の中を男の苦悩を昇華させる唯一の手段として機能させるのだった。中に放たれた三億もの精子を味わうように彼女は全身に精気を宿らせ、強く俺に覆い被さりキスをした。

「ありがとう、アキさん」

 それから俺たちはお互い満ち足りた余韻の中で、なんとかテントの中を整えて、そして外の様子をうかがいながら彼女はテントから出て行くのだった。俺のイチモツは経験したことのない快感に未だ感覚が麻痺しており、気を抜けばすぐに立ち続けてしまいそうな具合だ。しかし、これ以上は危険であると俺の感覚が言っている。妻がそろそろ帰ってくる。それはあのバーベキューの中で楽しむ男の妻に戻った彼女も感じ取れるようで、二人は後ろ髪引かれる思いを抱えながらも、潔くお互いの場所へと戻るのだった。

 去り際、彼女が小さな声で「またSNSで連絡します」そう言ったのを聞き、俺のリビドーは静かに収まっていった。

 それからすぐに妻が子供達を連れて帰ってきた。
「あーっ!お父さん、ビール三本も飲んでる!!」
「い、いいじゃん。たまの休みなんだし。好きにさせてよ!」
「あれ、なんか元気になった?」
「そ、そう? なんかもしかしたら割と悪くないのかもね、キャンプ」
「——そう!そうでしょ!キャンプ、楽しいでしょ!?」
「う、うん」

 後日、彼女の旦那のSNSに嬉しそうに笑う彼女が旦那と写っていた。なにか吹っ切れたのかも知れない。


 全身の毒気が抜かれたように気の抜けた俺は、それから家族でよく出かけるようになった。
 元々お出掛けが好きな妻も喜び、家族で出かけることが増えたが、不思議と外出先でよく会う家族が現れるようになる。
 妻がお出掛けの帰り道、すっかりリフレッシュした俺に言う。

「もしかしたら、あの家族の人たちとは気が合うのかもね」
 妻の言葉に俺は「きっとそうだろうね」そう返すのだった。
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