キツネの女王

わんころ餅

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故郷の事を知るのじゃ

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 ふくが目を覚ますと、ヴォルフの体の上であり、彼の頭を撫でて生きていることを確認する。
 昨日のだんだんと弱っていくヴォルフを見て不安になり、彼の毛づくろいをして心を落ち着かせる。

「おはようございます、狐のお姉さん」

 突然声を掛けられ、ビクッと体を震わせ、声のほうを見ると、縄で縛られたオクトが起きていた。
 ヴォルフのことで頭がっぱいになっていたふくは、オクトとセブの存在を忘れていた。

「……おはようなのじゃ、おくと?と申したか?」

「うん。オイラはオクトだよ。名前はなんていうの?」

「わしはふく。ぼるふにそう名付けられたのじゃ。お前は昨日、日本と申したが、わしはこの世界に来て千年近く過ごしておる。まだ国は滅んではおらんかったのか?」

「千……年……!?……く、国は滅んでいな……いません……です!」

 突然口調が変わったオクトを見て、ふくは笑いを堪えるようにおなかを抱える。
 涙をこぼし、息を整える。

「ふふっ……!んふっ……すまぬ……ふつうは驚くのよぅ……。そうじゃったの……藤原の家はまだ健在かの?それと、今もまだ戦乱が続いておるのかの?」

「藤原……?そうか……千年も経てば時代は変わるよね。藤原家は細々としているはずです。今の日本は戦争なんて関係ないので、少しは平和ですよ」

「そうじゃったか……。お前たちの日本はなぜ、お前たちのようなものを作っておるのじゃ?戦争がない世界ならば、この力はいらぬじゃろうて」

 ふくは指先に魔力を集中させて小さな光の玉を作る。
 それには膨大な魔力が詰め込められており、オクトは勘でしかわからなかったが、触れたら死んでしまうと感じる。
 同時に選択を間違えてはならないとも察する。

「……今まで、石炭や石油を使った燃料で過ごしていたんだけど、それが枯渇してしまったんです。人間は燃料なしでは生きていけず、太陽の力や風の力を使って電気を作っていたんですが、増えすぎた人間たちの生活を賄うことができなくなりました。そして、第六次世界大戦が引き起こされました」

「……?日本は争いと関係ないのではなかったのかの?」

「あぁ、【今の】日本は、です」

「訳ありのようじゃの」

 ふくは指先の魔力を解き、腕を組んでオクトをまっすぐ見つめる。
 女王としての風格を持ち合わせているふくを見て、姿勢を正す。
 それを見てふくはクスクスと笑う。

「お前は本当に日本の人間だったのじゃな。仕草は時代を超えても引き継がれるものじゃったか……。……さて、続きを聞かせてもらおうかの」
 
「は、はい!……えっと。電気と力はこの世界でいうと魔力みたいなもので、いろいろなものを動かすことができます。それは物を燃やす力を使って電気に変えています。その燃やすもの……石炭や石油が残り少なくなって奪い合いの戦争になりました。日本は人口が少なかったので兵士や兵器を使いこなす人間が少なく、戦争に不利でした。そこで禁忌とされるクローン人間の製造に着手しました」

「兵器?くろーん?とはなんじゃ?」

 ふくは横文字が読むことができないことと、地上世界の知識は平安時代からストップしているためオクトの話についていくことが難しくなっていく。
 オクトはそれを察して、ふくに分かりやすい言葉を選んで話していくことになる。

「兵器というのは、燃料や火薬を使った人を殺すための武器です。クローンというのは人間の姿かたちをそのまま作り出して仮初の命を与える、残酷な実験です」

「影武者が作り放題ではないか!」

「はい、生まれた命は元となった人間の使い捨ての駒のように使われるのがオチです。それではクローン人間は可哀そうだといわれ、次に行ったのが人類強化実験だったのです。これは人の体に他の生き物をくっつけて人間の強化を図るものでした」

「まるで魔物のようじゃの」

 ふくの指摘にオクトは頷いて肯定する。

「人間と他の生き物は体のつくりが違いすぎます。無理やりくっつけたところで簡単に壊死してそのまま死にます。そして実験は止まりかけた時に、打開する方法が出ました。クローン人間を作るときに他の生き物を予めくっつけておけばいいのではないかと」

 「後からつけるのではなく、最初からついていたとすればよいということじゃったか……」

「はい、その実験は上手くいったといいたいところですが、強くなった代わりに知能がなくなり、寿命も三日持てばいいほうでした。それでも戦争が有利になってはいたのですが、ついに燃料が尽き、実験はできなくなりました」

「それで……!?どうなったのじゃ……!?」

 オクトの話を食い入るように聞くふくを見て、純粋な好奇心でワクワクとした表情で見てくる彼女が到底千年の時を過ごしたと思えず、心の中で笑った。
 表に出すと殺されるので悟られないように。

「死んでいったクローンたちの細胞や遺伝子……えっと、体に刻まれた情報?と言ったらいいですか設計図みたいなものが入った臓器……脳みその一部を体に直接注入していきました。クローンの元となった人間に……」

「……それは死んでしまうのではないのか……?」

「はい。ほとんど死にました。ですが、その中で生きたものが出たのです。彼らはクローンよりもはるかに長い時を刻むことができ、強力な腕力や足の速さ、賢い頭、とても良い目、そして不思議な力を操るものが現れました。それが最初の実験成功者たちであり、それぞれ名前を与えられました。シング、ブル、リプル、アドラ、クイン、ゼクス、セブ、そしてオクトと……」

「お前たちのへんてこな名前は何なのじゃ?」

「へ、へんてこって……。それぞれ一、二、三、四……と数が打たれていて、それの外国の言葉をもじったそうですよ?確か『~~(ほにゃらら)つ目の実験体』って意味だったからその数え方なのかも……」

 ふくは外国の言葉と聞いて、少し諦めた表情をしていた。
 とにかく横文字が苦手なのだと彼女の態度から察することができる。

「そのあとにも実験はあったらしいけど、よく知らないんです。ですが言えることは、オイラ達は失敗作、気持ち悪い怪物は不適合者でついに成功者といえるものが出てきたのです。それが【新人類】と呼ばれるものです」

 ふくは地上で、日本で起こっていることを聞き、続きが気になって仕方なくなってしまうのだった。
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