上 下
489 / 545
第四部 王都の新たな日々

第439話 ミフィーの楽しい王都の一日②

しおりを挟む
 大人可愛く仕上がったミフィーを連れてアグネスの店を出たシュリは、ミフィーと手をつないで一緒に歩き始めた。
 馬車は家に帰してあるので、ここからはミフィーと2人きりだ。
 王都の街並みを眺めながら、ゆっくりと街歩きをする。
 なにを見ても楽しそうに声をあげたり笑ったりするミフィーと一緒に歩いていると、見慣れた王都の景色も新鮮に見えてくるから不思議だ。


 (父様はきっと、ミフィーのこういうところが好きだったんだろうなぁ)


 亡き父の事を思いながら、ミフィーのくるくる変わる表情を見ながら歩く。
 美人だけど可愛くて、気だてが良くてお料理上手、朗らかで優しくて、明るくてちょっと天然。
 街ゆく人がミフィーを振り返る度に、シュリは胸を張って自慢したくなる。
 僕の母様は素敵でしょ、って。
 マザコン丸出しだから、そんなことしないけど。

 2人で街を歩いていると、なんだか色々な人と会った。
 以前ちょっとした出来事で出会った冒険者さんコンビとか、商人の人とか、細工師のおじいさんとか。
 みんなシュリと偶然会ったことを喜んでくれて挨拶を交わし、ミフィーはそんな様子を嬉しそうに見ていた。
 細工師のおじいさん……ギルエンさんは、納品に向かう途中だったらしく、ミフィーがシュリの母親だと知ると、持っていた装飾品の中から彼女によく似合う髪飾りを譲ってくれた。
 ミフィーが恐縮すると、


 「坊主の母君だからの。特別じゃ」


 そう言って呵々と笑い去っていった。
 王都って広いようで狭いんだなぁ、と思いつつ、お昼の目的地を目指して歩く。
 髪飾りはミフィーに良く似合っていて、似合っていて可愛い、と伝えると、ミフィーははにかんだように笑った。
 我が母ながら、ものっすごく可愛いなぁ、とほくほくして歩くうちに、気が付けばお昼の目的地に着いていた。
 お昼の目的地、つまり今日のランチを頂く場所である。


 「ここがナーザさんのお宿?」

 「ん。そうだよ。今日はここでお昼を食べよ。ここの食堂は料理がおいしいから、泊まり客じゃない人も食事時にはたくさん来るらしいよ」

 「そうなのねぇ。お料理は誰が? ナーザさん?」

 「ううん。サギリって料理人さんを従業員として雇ってるよ」

 「なるほどぉ。サギリさんって女の人?」

 「うん、そうだよ?」

 「そっかそっかぁ。旦那さんとは別れたっていうし、今は女性だけで宿をやってるのね」

 「言われてみればそうだね。受付のアルバイトの人も女性だし、お手伝いしてるジャズもそうだし」

 「ジャズ! あの子は元気? 長いこと会ってないけど」

 「元気だよ。今は冒険者養成学校へ通いながら冒険者を目指していて、この宿のお手伝いにも良く来てるよ。今日も、たぶん……」


 言いながら、食堂の扉を開けて中に入ると、にぎやかな喧噪に包まれた。
 今日もお客さんが大入りのようだ。
 空いてる席はあるかなぁ、と周囲を見回していると、


 「いらっしゃいま……あ! シュリ!! いらっしゃい」


 やはり今日も店の手伝いに駆り出されていた孝行娘のジャズが、シュリの姿をめざとく見つけて駆け寄ってきた。


 「奥の席がまだ空いてるよ。今日はお友達と一緒? あれ?? もしかして、ミフィーさん??」

 「当たり。久しぶりなのに、すごいね、ジャズ。大きくなったわねぇ」


 驚いたように目を丸くするジャズを、ミフィーは抱きしめる。
 でも、ミフィーの方が身長が低いから、抱きついているようにしか見えなかったけど。
 ミフィーの包容をジャズは嬉しそうに笑って受け止めて、彼女もぎゅっとミフィーを抱き返した。


 「わぁ。本当に久し振りですね。会えて嬉しいです」

 「私もよ。こんなに女の子らしく立派に成長したジャズに会えて嬉しい」

 「おーい、ジャズ。なにしてる? 早く配膳をてつだ……ミフィー!?」

 「あ、ごめん。すぐ手伝う。ミフィーさん、今日はゆっくりしていってね?? お母さん、シュリとミフィーさんを奥の席に案内してあげてくれる?」

 「あ、ああ。任せろ」


 柔らかく微笑んでジャズは手伝いの為に去り、後にはナーザが残された。
 ナーザは信じられないものを見るようにまじまじとミフィーを見つめ、それから優しく目を細めると大切なものに触れるように、ミフィーの頬にそっと触れた。


 「ん。元気そうだな。安心した」

 「ナーザさんも元気そう。シュリから色々聞いてたし、心配してたけど。大丈夫?」

 「なんだ? あのバカ亭主のことか。あんなのもうすっかり忘れたよ。シュリが優しく慰めてくれるしな?」

 「ちょ、ナーザ!?」


 ナーザから意味ありげな流し目を受け、シュリはちょっぴり慌てる。
 世の男の子ならきっと誰でもそうだろうけど、シュリだって大好きなお母さんの前ではいい子でいたい。
 年上の女性をたらしまくっている悪い子だなんて思われたくない。
 だが、ミフィーは良くも悪くも鈍感だった。


 「そうなの? シュリってば優しいんだから。母様、鼻が高いわ。母様はそんなシュリが大好きよ」


 シュリを知る者なら、流石はシュリの母親だと頷くレベルの鈍感力を発揮したミフィーはにこにこしながらシュリをむぎゅうっと抱きしめる。
 シュリは大人しくミフィーに抱きしめられながら、ほっと安堵の息を吐き出した。
 ナーザもそれ以上、余計なことを言うつもりはないらしく、ミフィーとシュリを奥の席へ案内すると、


 「ばたばたしてるがゆっくりしていってくれ。すぐにうまい料理を運ばせるからな」


 言いながらミフィーの頭をぽんぽんと叩き、優しく目を細めて微笑んでから仕事へ戻っていった。
 その後ろ姿を見送りながら、


 「ナーザってば、ミフィーに優しいんだね?」


 シュリはそう言って母親の顔を見上げる。


 「ん~。まあ、ナーザさんはお姉ちゃんみたいなものだから。小さい頃は良く一緒に遊んでくれたし、お母さんよりずっと私の面倒を見てくれたのよ?」

 「そうなんだぁ。おばー様、子育てはあんまり得意じゃなかったのかなぁ?」

 「っていうか、冒険者として忙しく過ごしてたから、私の事を考える余裕があんまりなかったんだと思う。お父さんとは、ほら、あれだったし」

 「そうだよね。あの頃は仲が悪かったんだもんね。今は仲直りできて良かったけど。おじー様もいるし、今度はきっと上手に子育てできるよね。僕だって協力するし」

 「子育て? 誰が??」

 「え? おばー様が。春には生まれるんだって言ってたけど、ミフィー、もしかして……」

 「聞いてない。聞いてないよ、お母さん!! え? じゃあ、私に妹か弟が出来るの? シュリよりちっちゃな兄弟が?」


 どうやらヴィオラもエルジャも、一人娘のミフィーへはまだ報告していなかったらしい。普通、一番はじめに報告すべき相手だと思うんだけどなぁ、と思いながら、シュリは初耳の情報の衝撃に突っ伏してしまったミフィーを見る。


 「めでたいよ? そりゃ、おめでたい話だけど……ええ~? そっか。私、お姉ちゃんになるのかぁ」

 「良かったね、母様。僕も、嬉しい。可愛がってあげようね!」


 あえて無邪気さを装ってにっこり笑ってそう言うと、


 「そんな風に言ってくるれるシュリが可愛い。でも、ちっちゃな兄弟も可愛い、よね。複雑な気持ちもあるけど、素直に喜んでおこう。お母さんにもすっごい年の離れた弟がいるって言ってたし。きっとエルフ業界では良くある話なんだろうし」


 ミフィーは自分に言い聞かせるようにそう言って、ふぅ~と息をつき。
 それから色々吹っ切った顔で微笑んだ。


 「お母さんがやらかすことに一々振り回されるのもバカみたいだし。母様、シュリを見習うことにする。余計なことは考えないで、ちっちゃな兄弟に会うのを楽しみに待つわ」

 「うん。楽しみだね!」


 2人は顔を見合わせて笑いあい。そのすぐ後に出てきた料理を美味しく頂いた後は、デザートを味わいつつナーザやジャズと他愛ない話をした。
 この上なく楽しいランチタイムを過ごした2人は、ナーザとジャズに見送られて宿の食堂を後にしたのだった。
しおりを挟む
感想 221

あなたにおすすめの小説

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界エステ〜チートスキル『エステ』で美少女たちをマッサージしていたら、いつの間にか裏社会をも支配する異世界の帝王になっていた件〜

福寿草真@植物使いコミカライズ連載中!
ファンタジー
【Sランク冒険者を、お姫様を、オイルマッサージでトロトロにして成り上がり!?】 何の取り柄もないごく普通のアラサー、安間想介はある日唐突に異世界転移をしてしまう。 魔物や魔法が存在するありふれたファンタジー世界で想介が神様からもらったチートスキルは最強の戦闘系スキル……ではなく、『エステ』スキルという前代未聞の力で!? これはごく普通の男がエステ店を開き、オイルマッサージで沢山の異世界女性をトロトロにしながら、瞬く間に成り上がっていく物語。 スキル『エステ』は成長すると、マッサージを行うだけで体力回復、病気の治療、バフが発生するなど様々な効果が出てくるチートスキルです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...