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第四部 王都の新たな日々
第439話 ミフィーの楽しい王都の一日②
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大人可愛く仕上がったミフィーを連れてアグネスの店を出たシュリは、ミフィーと手をつないで一緒に歩き始めた。
馬車は家に帰してあるので、ここからはミフィーと2人きりだ。
王都の街並みを眺めながら、ゆっくりと街歩きをする。
なにを見ても楽しそうに声をあげたり笑ったりするミフィーと一緒に歩いていると、見慣れた王都の景色も新鮮に見えてくるから不思議だ。
(父様はきっと、ミフィーのこういうところが好きだったんだろうなぁ)
亡き父の事を思いながら、ミフィーのくるくる変わる表情を見ながら歩く。
美人だけど可愛くて、気だてが良くてお料理上手、朗らかで優しくて、明るくてちょっと天然。
街ゆく人がミフィーを振り返る度に、シュリは胸を張って自慢したくなる。
僕の母様は素敵でしょ、って。
マザコン丸出しだから、そんなことしないけど。
2人で街を歩いていると、なんだか色々な人と会った。
以前ちょっとした出来事で出会った冒険者さんコンビとか、商人の人とか、細工師のおじいさんとか。
みんなシュリと偶然会ったことを喜んでくれて挨拶を交わし、ミフィーはそんな様子を嬉しそうに見ていた。
細工師のおじいさん……ギルエンさんは、納品に向かう途中だったらしく、ミフィーがシュリの母親だと知ると、持っていた装飾品の中から彼女によく似合う髪飾りを譲ってくれた。
ミフィーが恐縮すると、
「坊主の母君だからの。特別じゃ」
そう言って呵々と笑い去っていった。
王都って広いようで狭いんだなぁ、と思いつつ、お昼の目的地を目指して歩く。
髪飾りはミフィーに良く似合っていて、似合っていて可愛い、と伝えると、ミフィーははにかんだように笑った。
我が母ながら、ものっすごく可愛いなぁ、とほくほくして歩くうちに、気が付けばお昼の目的地に着いていた。
お昼の目的地、つまり今日のランチを頂く場所である。
「ここがナーザさんのお宿?」
「ん。そうだよ。今日はここでお昼を食べよ。ここの食堂は料理がおいしいから、泊まり客じゃない人も食事時にはたくさん来るらしいよ」
「そうなのねぇ。お料理は誰が? ナーザさん?」
「ううん。サギリって料理人さんを従業員として雇ってるよ」
「なるほどぉ。サギリさんって女の人?」
「うん、そうだよ?」
「そっかそっかぁ。旦那さんとは別れたっていうし、今は女性だけで宿をやってるのね」
「言われてみればそうだね。受付のアルバイトの人も女性だし、お手伝いしてるジャズもそうだし」
「ジャズ! あの子は元気? 長いこと会ってないけど」
「元気だよ。今は冒険者養成学校へ通いながら冒険者を目指していて、この宿のお手伝いにも良く来てるよ。今日も、たぶん……」
言いながら、食堂の扉を開けて中に入ると、にぎやかな喧噪に包まれた。
今日もお客さんが大入りのようだ。
空いてる席はあるかなぁ、と周囲を見回していると、
「いらっしゃいま……あ! シュリ!! いらっしゃい」
やはり今日も店の手伝いに駆り出されていた孝行娘のジャズが、シュリの姿をめざとく見つけて駆け寄ってきた。
「奥の席がまだ空いてるよ。今日はお友達と一緒? あれ?? もしかして、ミフィーさん??」
「当たり。久しぶりなのに、すごいね、ジャズ。大きくなったわねぇ」
驚いたように目を丸くするジャズを、ミフィーは抱きしめる。
でも、ミフィーの方が身長が低いから、抱きついているようにしか見えなかったけど。
ミフィーの包容をジャズは嬉しそうに笑って受け止めて、彼女もぎゅっとミフィーを抱き返した。
「わぁ。本当に久し振りですね。会えて嬉しいです」
「私もよ。こんなに女の子らしく立派に成長したジャズに会えて嬉しい」
「おーい、ジャズ。なにしてる? 早く配膳をてつだ……ミフィー!?」
「あ、ごめん。すぐ手伝う。ミフィーさん、今日はゆっくりしていってね?? お母さん、シュリとミフィーさんを奥の席に案内してあげてくれる?」
「あ、ああ。任せろ」
柔らかく微笑んでジャズは手伝いの為に去り、後にはナーザが残された。
ナーザは信じられないものを見るようにまじまじとミフィーを見つめ、それから優しく目を細めると大切なものに触れるように、ミフィーの頬にそっと触れた。
「ん。元気そうだな。安心した」
「ナーザさんも元気そう。シュリから色々聞いてたし、心配してたけど。大丈夫?」
「なんだ? あのバカ亭主のことか。あんなのもうすっかり忘れたよ。シュリが優しく慰めてくれるしな?」
「ちょ、ナーザ!?」
ナーザから意味ありげな流し目を受け、シュリはちょっぴり慌てる。
世の男の子ならきっと誰でもそうだろうけど、シュリだって大好きなお母さんの前ではいい子でいたい。
年上の女性をたらしまくっている悪い子だなんて思われたくない。
だが、ミフィーは良くも悪くも鈍感だった。
「そうなの? シュリってば優しいんだから。母様、鼻が高いわ。母様はそんなシュリが大好きよ」
シュリを知る者なら、流石はシュリの母親だと頷くレベルの鈍感力を発揮したミフィーはにこにこしながらシュリをむぎゅうっと抱きしめる。
シュリは大人しくミフィーに抱きしめられながら、ほっと安堵の息を吐き出した。
ナーザもそれ以上、余計なことを言うつもりはないらしく、ミフィーとシュリを奥の席へ案内すると、
「ばたばたしてるがゆっくりしていってくれ。すぐにうまい料理を運ばせるからな」
言いながらミフィーの頭をぽんぽんと叩き、優しく目を細めて微笑んでから仕事へ戻っていった。
その後ろ姿を見送りながら、
「ナーザってば、ミフィーに優しいんだね?」
シュリはそう言って母親の顔を見上げる。
「ん~。まあ、ナーザさんはお姉ちゃんみたいなものだから。小さい頃は良く一緒に遊んでくれたし、お母さんよりずっと私の面倒を見てくれたのよ?」
「そうなんだぁ。おばー様、子育てはあんまり得意じゃなかったのかなぁ?」
「っていうか、冒険者として忙しく過ごしてたから、私の事を考える余裕があんまりなかったんだと思う。お父さんとは、ほら、あれだったし」
「そうだよね。あの頃は仲が悪かったんだもんね。今は仲直りできて良かったけど。おじー様もいるし、今度はきっと上手に子育てできるよね。僕だって協力するし」
「子育て? 誰が??」
「え? おばー様が。春には生まれるんだって言ってたけど、ミフィー、もしかして……」
「聞いてない。聞いてないよ、お母さん!! え? じゃあ、私に妹か弟が出来るの? シュリよりちっちゃな兄弟が?」
どうやらヴィオラもエルジャも、一人娘のミフィーへはまだ報告していなかったらしい。普通、一番はじめに報告すべき相手だと思うんだけどなぁ、と思いながら、シュリは初耳の情報の衝撃に突っ伏してしまったミフィーを見る。
「めでたいよ? そりゃ、おめでたい話だけど……ええ~? そっか。私、お姉ちゃんになるのかぁ」
「良かったね、母様。僕も、嬉しい。可愛がってあげようね!」
あえて無邪気さを装ってにっこり笑ってそう言うと、
「そんな風に言ってくるれるシュリが可愛い。でも、ちっちゃな兄弟も可愛い、よね。複雑な気持ちもあるけど、素直に喜んでおこう。お母さんにもすっごい年の離れた弟がいるって言ってたし。きっとエルフ業界では良くある話なんだろうし」
ミフィーは自分に言い聞かせるようにそう言って、ふぅ~と息をつき。
それから色々吹っ切った顔で微笑んだ。
「お母さんがやらかすことに一々振り回されるのもバカみたいだし。母様、シュリを見習うことにする。余計なことは考えないで、ちっちゃな兄弟に会うのを楽しみに待つわ」
「うん。楽しみだね!」
2人は顔を見合わせて笑いあい。そのすぐ後に出てきた料理を美味しく頂いた後は、デザートを味わいつつナーザやジャズと他愛ない話をした。
この上なく楽しいランチタイムを過ごした2人は、ナーザとジャズに見送られて宿の食堂を後にしたのだった。
馬車は家に帰してあるので、ここからはミフィーと2人きりだ。
王都の街並みを眺めながら、ゆっくりと街歩きをする。
なにを見ても楽しそうに声をあげたり笑ったりするミフィーと一緒に歩いていると、見慣れた王都の景色も新鮮に見えてくるから不思議だ。
(父様はきっと、ミフィーのこういうところが好きだったんだろうなぁ)
亡き父の事を思いながら、ミフィーのくるくる変わる表情を見ながら歩く。
美人だけど可愛くて、気だてが良くてお料理上手、朗らかで優しくて、明るくてちょっと天然。
街ゆく人がミフィーを振り返る度に、シュリは胸を張って自慢したくなる。
僕の母様は素敵でしょ、って。
マザコン丸出しだから、そんなことしないけど。
2人で街を歩いていると、なんだか色々な人と会った。
以前ちょっとした出来事で出会った冒険者さんコンビとか、商人の人とか、細工師のおじいさんとか。
みんなシュリと偶然会ったことを喜んでくれて挨拶を交わし、ミフィーはそんな様子を嬉しそうに見ていた。
細工師のおじいさん……ギルエンさんは、納品に向かう途中だったらしく、ミフィーがシュリの母親だと知ると、持っていた装飾品の中から彼女によく似合う髪飾りを譲ってくれた。
ミフィーが恐縮すると、
「坊主の母君だからの。特別じゃ」
そう言って呵々と笑い去っていった。
王都って広いようで狭いんだなぁ、と思いつつ、お昼の目的地を目指して歩く。
髪飾りはミフィーに良く似合っていて、似合っていて可愛い、と伝えると、ミフィーははにかんだように笑った。
我が母ながら、ものっすごく可愛いなぁ、とほくほくして歩くうちに、気が付けばお昼の目的地に着いていた。
お昼の目的地、つまり今日のランチを頂く場所である。
「ここがナーザさんのお宿?」
「ん。そうだよ。今日はここでお昼を食べよ。ここの食堂は料理がおいしいから、泊まり客じゃない人も食事時にはたくさん来るらしいよ」
「そうなのねぇ。お料理は誰が? ナーザさん?」
「ううん。サギリって料理人さんを従業員として雇ってるよ」
「なるほどぉ。サギリさんって女の人?」
「うん、そうだよ?」
「そっかそっかぁ。旦那さんとは別れたっていうし、今は女性だけで宿をやってるのね」
「言われてみればそうだね。受付のアルバイトの人も女性だし、お手伝いしてるジャズもそうだし」
「ジャズ! あの子は元気? 長いこと会ってないけど」
「元気だよ。今は冒険者養成学校へ通いながら冒険者を目指していて、この宿のお手伝いにも良く来てるよ。今日も、たぶん……」
言いながら、食堂の扉を開けて中に入ると、にぎやかな喧噪に包まれた。
今日もお客さんが大入りのようだ。
空いてる席はあるかなぁ、と周囲を見回していると、
「いらっしゃいま……あ! シュリ!! いらっしゃい」
やはり今日も店の手伝いに駆り出されていた孝行娘のジャズが、シュリの姿をめざとく見つけて駆け寄ってきた。
「奥の席がまだ空いてるよ。今日はお友達と一緒? あれ?? もしかして、ミフィーさん??」
「当たり。久しぶりなのに、すごいね、ジャズ。大きくなったわねぇ」
驚いたように目を丸くするジャズを、ミフィーは抱きしめる。
でも、ミフィーの方が身長が低いから、抱きついているようにしか見えなかったけど。
ミフィーの包容をジャズは嬉しそうに笑って受け止めて、彼女もぎゅっとミフィーを抱き返した。
「わぁ。本当に久し振りですね。会えて嬉しいです」
「私もよ。こんなに女の子らしく立派に成長したジャズに会えて嬉しい」
「おーい、ジャズ。なにしてる? 早く配膳をてつだ……ミフィー!?」
「あ、ごめん。すぐ手伝う。ミフィーさん、今日はゆっくりしていってね?? お母さん、シュリとミフィーさんを奥の席に案内してあげてくれる?」
「あ、ああ。任せろ」
柔らかく微笑んでジャズは手伝いの為に去り、後にはナーザが残された。
ナーザは信じられないものを見るようにまじまじとミフィーを見つめ、それから優しく目を細めると大切なものに触れるように、ミフィーの頬にそっと触れた。
「ん。元気そうだな。安心した」
「ナーザさんも元気そう。シュリから色々聞いてたし、心配してたけど。大丈夫?」
「なんだ? あのバカ亭主のことか。あんなのもうすっかり忘れたよ。シュリが優しく慰めてくれるしな?」
「ちょ、ナーザ!?」
ナーザから意味ありげな流し目を受け、シュリはちょっぴり慌てる。
世の男の子ならきっと誰でもそうだろうけど、シュリだって大好きなお母さんの前ではいい子でいたい。
年上の女性をたらしまくっている悪い子だなんて思われたくない。
だが、ミフィーは良くも悪くも鈍感だった。
「そうなの? シュリってば優しいんだから。母様、鼻が高いわ。母様はそんなシュリが大好きよ」
シュリを知る者なら、流石はシュリの母親だと頷くレベルの鈍感力を発揮したミフィーはにこにこしながらシュリをむぎゅうっと抱きしめる。
シュリは大人しくミフィーに抱きしめられながら、ほっと安堵の息を吐き出した。
ナーザもそれ以上、余計なことを言うつもりはないらしく、ミフィーとシュリを奥の席へ案内すると、
「ばたばたしてるがゆっくりしていってくれ。すぐにうまい料理を運ばせるからな」
言いながらミフィーの頭をぽんぽんと叩き、優しく目を細めて微笑んでから仕事へ戻っていった。
その後ろ姿を見送りながら、
「ナーザってば、ミフィーに優しいんだね?」
シュリはそう言って母親の顔を見上げる。
「ん~。まあ、ナーザさんはお姉ちゃんみたいなものだから。小さい頃は良く一緒に遊んでくれたし、お母さんよりずっと私の面倒を見てくれたのよ?」
「そうなんだぁ。おばー様、子育てはあんまり得意じゃなかったのかなぁ?」
「っていうか、冒険者として忙しく過ごしてたから、私の事を考える余裕があんまりなかったんだと思う。お父さんとは、ほら、あれだったし」
「そうだよね。あの頃は仲が悪かったんだもんね。今は仲直りできて良かったけど。おじー様もいるし、今度はきっと上手に子育てできるよね。僕だって協力するし」
「子育て? 誰が??」
「え? おばー様が。春には生まれるんだって言ってたけど、ミフィー、もしかして……」
「聞いてない。聞いてないよ、お母さん!! え? じゃあ、私に妹か弟が出来るの? シュリよりちっちゃな兄弟が?」
どうやらヴィオラもエルジャも、一人娘のミフィーへはまだ報告していなかったらしい。普通、一番はじめに報告すべき相手だと思うんだけどなぁ、と思いながら、シュリは初耳の情報の衝撃に突っ伏してしまったミフィーを見る。
「めでたいよ? そりゃ、おめでたい話だけど……ええ~? そっか。私、お姉ちゃんになるのかぁ」
「良かったね、母様。僕も、嬉しい。可愛がってあげようね!」
あえて無邪気さを装ってにっこり笑ってそう言うと、
「そんな風に言ってくるれるシュリが可愛い。でも、ちっちゃな兄弟も可愛い、よね。複雑な気持ちもあるけど、素直に喜んでおこう。お母さんにもすっごい年の離れた弟がいるって言ってたし。きっとエルフ業界では良くある話なんだろうし」
ミフィーは自分に言い聞かせるようにそう言って、ふぅ~と息をつき。
それから色々吹っ切った顔で微笑んだ。
「お母さんがやらかすことに一々振り回されるのもバカみたいだし。母様、シュリを見習うことにする。余計なことは考えないで、ちっちゃな兄弟に会うのを楽しみに待つわ」
「うん。楽しみだね!」
2人は顔を見合わせて笑いあい。そのすぐ後に出てきた料理を美味しく頂いた後は、デザートを味わいつつナーザやジャズと他愛ない話をした。
この上なく楽しいランチタイムを過ごした2人は、ナーザとジャズに見送られて宿の食堂を後にしたのだった。
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