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第二部 少年期のはじまり
第百五十七話 冒険者登録
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「はい。これがAランクの冒険者カードよ」
そんな言葉と共にミーナから手渡されたのは、銀色に輝くカードだった。
「銀色、なんだね。僕のカード。おばー様のは??」
カードをひっくり返して隅々まで見ながら、ちらりとヴィオラを見上げると、彼女は肌身離さず持っているカードを取り出して見せてくれた。
「私の?私のはコレよ」
「透明??」
シュリは彼女の手の中にあるカードを見て、首を傾げた。
ガラスのような透明度を持ったそれには、どう見てもシュリのカードのように情報が記載されているように見えなかったからだ。
不思議そうな顔のシュリを見て、ヴィオラがふふんと笑う。ちょっと得意そうに。
そして、
「このカードは特定の魔力に反応する特殊なクリスタルで出来てるの。だから、一度使用者の魔力を覚えさせておくと、その魔力に反応するようになる。それで、こうやって魔力を流すとあら不思議……」
言いながら、恐らくそのカードに魔力を流し込んだのだろう。
そのカードはうっすらと発光し、その表面に輝く文字が浮かび上がってきた。
それを見たシュリは、思わず歓声を上げる。
「うわぁ。綺麗だね」
「でしょう?シュリも、魔力を流してみる??」
「うん!」
手渡されたカードを嬉々として受け取って、早速魔力を流してみる。
だが、さっきはあんなに綺麗に輝いたカードなのに、今回はなんの反応も見せてくれない。
あれぇ?と首を傾げるシュリの手から、ヴィオラはそのカードを取り戻すと、
「実は、このカードは使用者の魔力にしか反応しないのよ。素材のクリスタルがそう言う性質を持ってるらしいわ。だから、このカードは私だけの専用」
魔力を流して再び美しい光を浮かび上がらせながらそう説明してくれた。
思わずうらやましそうに見上げれば、ヴィオラはそのカードを再び胸元にしまい込みながら微笑む。
「この素材のカードはSS専用よ。もし欲しかったら、早く私に追いつく事ね」
シュリならきっと、すぐに追いつけるわーそう言って、ヴィオラは己の血を引く愛しい孫を、まぶしそうに見つめた。
ふぅん、そっかぁ、と貰ったばかりの冒険者カードに再び目を落とすと、今度はさっきそれを手渡してくれたミーナが話しかけてきた。
「ヴィオラが言ったみたいに、高ランクの冒険者の冒険者証は、それ自体に価値がある金属が使われているの。ちなみに、シュリ君のランクのカードは銀が、その上のSランクのカードには金が、それぞれ素材として含まれているわ。で、ヴィオラが自慢してたみたいに、SSランクになると持ち主の魔力にしか反応しない特殊なクリスタルを使用した冒険者証が発行されるってわけ。再発行にはそれなりにお金もかかるから、なくさないように大事にしてね?」
シュリは素直に、はぁいと返事をして、冒険者カードを懐にしまう振りをしつつ、こそっと[無限収納]へと入れておく。
なくしたくないものは、ここに入れるのが一番だもんねとそんなことを思いながら。
「あと、出来れば必要な時以外はあんまりその冒険者カードを見せびらかさないように気をつけて?シュリ君の年齢で冒険者ってだけでも驚きなのに、その上ランクがAだなんて事が知れたら騒ぎになるかもしれないから。でも、まあ、もし何かあったらうちのギルド長の名前を出してくれていいからね?うちのボスは、意外と名前が知られてるし、まあ、何とかなるはずよ。更に、一応念の為に、これも渡しておくわね」
そう言ってミーナが差し出してきたのは、折り畳んだ書状だった。
「これ、なぁに??」
受け取りながら尋ねると、
「一応、ギルド長に一筆書いておいて貰ったから。本当に困ったら、それをそれぞれの街のギルド長に見せると良いわ。そうすれば、きっと便宜を図ってくれるはずよ」
「うん。わかった。ありがとう、ミーナさん」
シュリは受け取った書状を冒険者カードと同様、「無限収納]に放り込みながら、にっこり微笑んでミーナを見上げた。
その笑顔に思わず頬を赤らめつつも、相手は子供よ、とか、しかもヴィオラの孫なんだから、とか自分に言い聞かせつつコホンと咳払いをしたミーナは、年端もいかない美少年から無理矢理視線を引きはがしてヴィオラへと向ける。
「シュリ君の冒険者証の発行と一緒に、今回の緊急クエストを受ける手続きも二人分、しておいたから。内容は、亜竜達の暴走をくい止めること。手段は問わないわ。亜竜達を全部駆逐しようが、元の住処に追い返そうが。ただ、出来れば全部刈り尽くすのは避けたいところだけど。魔物達の生態系のバランスが崩れすぎるのはやっぱり怖いしね」
「うん。そうね。全部狩り尽くす事は出来るけど、後の事を考えるとね。それに、今回の件では、亜竜達も住処を追われた被害者なのかもしれないし。出来る限り、穏便な方法を目指すように頑張ってみるわ」
「ええ。お願い。でも、無理はしないで?自分達の安全を最優先にね」
「ん。りょーかい」
「シュリ君も、気をつけてね?頑張りすぎは禁物よ??」
「はぁい」
シュリも素直に頷き、さていよいよ出かけようという段になって、はっとしたようにミーナが問いかけてきた。
「あ、そう言えばシュリ君。武器とか防具とかは??必要なものがあるなら、店を紹介するけど。場合が場合だし、安くさせるようにギルド長から話をして貰うわよ?」
その質問を受けたシュリとヴィオラが顔を見合わせる。
「そう言えばシュリ。武器とかってどうしてるの??いつも」
今まで気にしたことが無かったけど、とヴィオラも小首を傾げて問いかけてきた。
その質問を聞いたミーナが目を剥く。
ヴィオラがシュリの強さを請け負うから、年端もいかない子供を冒険者にしたのに、扱う獲物の事すら把握していないとは何事だと言うように。
そんなミーナに気づいたシュリは、どう答えたらいいかとちょっと困った顔をしつつ、
「そうだなぁ。あえて言うなら、僕自身が武器であり防具、かな」
結局、そんな風に答えた。
「えーっと??それは、どういう??」
シュリの、あまりに抽象的な答えに困惑した顔をするミーナを見上げ、シュリはどうやって説明しようかとしばし考える。
そして、考えながら出来るだけ丁寧に答えを紡いだ。
「んーと、防具も武器も、まだ僕の体型に合うものなんてそんなにないでしょ?それに有り合わせのものなんて、ない方がましだし。下手な武装をするくらいなら、僕自身の拳や魔力の方が役に立つ。後は、機動性も僕の武器の一つだから出来れば身軽でいたいしね。更にもう一つ付け加えるなら、防具なんかなくても僕には絶対的な守護者が四人もいる」
言いながら、勝手に魔力供給の為の行為を行った事について軽~くお叱りを受けて大人しく背後に控えている四人の精霊にちらりと視線を投げかけた。
僕が危なくなったらもちろん守ってくれるんだよね?と言うように。
主の意志を明確に理解した四人は、先を競うようにコクコクと頷く。
ただし、静かにしているようにとの指示を守るために、口を開くことは無かったが。
それを見たヴィオラがなるほどと納得したように頷き、ミーナも心配するまでも無かったみたいねと苦笑を浮かべる。
「なるほどね。理解したわ。確かに精霊の守りがあるなら、どんな防具より心強いかも知れないわね。でも、もし必要なものがあったら何でも言って。ギルド長にも便宜を図るように言われているから」
ミーナの言葉に、シュリもヴィオラも素直に頷く。
因みに、今この場に部屋の主たるギルド長の姿はない。
シュリの冒険者証を準備している間に、今回の事態解決の目処がたった事を領主の元へと報告に行ったのだ。
ギルド長は短い時間でヴィオラと話し合い、二人は領主の持つ兵力とギルドが集めた冒険者達は基本街の防衛に当たらせるべきだろうという結論に達していた。
現在のスベランサに、ヴィオラと肩を並べて戦えるだけの冒険者は、残念なことに一人も居ないし、それは領主の兵にも言えること。
そんな彼らが闇雲に打って出てもヴィオラの足を引っ張ることになりかねない。
それくらいなら、甲羅に引っ込んだ亀のように、万が一討ちもらした亜竜達が街に襲い掛かってきた場合に備えて防備を固めるべきだ。
ギルド長は、その事を領主に進言し、そのまま冒険者達を取りまとめて防衛の準備に入ると言って出て行った。
ヴィオラとシュリ、二人の見送りをミーナに任せて。
「じゃあ、ぼちぼち行こうか?シュリ」
「うん。急ごう」
そう言って立ち上がった二人を、ミーナが心配そうに見つめる。
ヴィオラが強いのは知っている。
シュリも、ヴィオラがあれだけ言うのだから、きっと強いのだろう。
だが、やはり不安はある。これほどの大規模な魔物災害は、ミーナが冒険者ギルドに務め始めてから初めての事だったから。
「しつこいとは思うけど、本当に気をつけて、無理はしないでね?王都からの応援部隊もこっちに向かってるみたいだし、その中にはSランクの冒険者も混じってるみたいだから。無理だと思ったら戻ってきて、応援を待つって方法も、あるんだからね?」
「大丈夫よ、ミーナ。私が強いのは知ってるでしょう?」
「それは、まあ……」
「絶対に守るから、私を……私とシュリを、信じて待ってて?」
「……わかったわ。信じる。でも、五体満足で帰ってこないと承知しないんだから。だから、気をつけて行ってきてね、ヴィオラ、シュリ君」
ヴィオラの言葉にうなずき、ミーナはどうにかこうにか微笑みを浮かべる。若干、無理矢理感のある微笑みではあったが。
それをみたヴィオラも、ミーナを安心させるようににっこりとおおらかに微笑んだ。
「大丈夫。ミーナも、この街の人達も、傷つけさせたりしないから。それに、この騒動が終わったら、ミーナの赤ちゃんも見せて貰わないとだしね。じゃ、行ってくるわ」
そう言って、シュリを小脇に抱えたヴィオラは、部屋を出ていく。戸口で一度立ち止まり、もう一度ミーナに笑顔を見せてから。
しばらくして、外から再びわき起こった歓声を合図に、ミーナは窓に駆け寄って空を見上げた。
遙か上空、美しい青空を背景にグリフォンにまたがったヴィオラとシュリの姿が小さく見えた。
しかし、それもほんの数瞬の事。
その姿は空の青に溶けるように、あっという間に小さくなり、見えなくなってしまった。
だが、その姿が見えなくなってもなお、ミーナは空をしばらく見上げたままでいた。
二人が無事に、元気に戻ってきますようにと、自分の信じる神様に祈りながら。
そんな言葉と共にミーナから手渡されたのは、銀色に輝くカードだった。
「銀色、なんだね。僕のカード。おばー様のは??」
カードをひっくり返して隅々まで見ながら、ちらりとヴィオラを見上げると、彼女は肌身離さず持っているカードを取り出して見せてくれた。
「私の?私のはコレよ」
「透明??」
シュリは彼女の手の中にあるカードを見て、首を傾げた。
ガラスのような透明度を持ったそれには、どう見てもシュリのカードのように情報が記載されているように見えなかったからだ。
不思議そうな顔のシュリを見て、ヴィオラがふふんと笑う。ちょっと得意そうに。
そして、
「このカードは特定の魔力に反応する特殊なクリスタルで出来てるの。だから、一度使用者の魔力を覚えさせておくと、その魔力に反応するようになる。それで、こうやって魔力を流すとあら不思議……」
言いながら、恐らくそのカードに魔力を流し込んだのだろう。
そのカードはうっすらと発光し、その表面に輝く文字が浮かび上がってきた。
それを見たシュリは、思わず歓声を上げる。
「うわぁ。綺麗だね」
「でしょう?シュリも、魔力を流してみる??」
「うん!」
手渡されたカードを嬉々として受け取って、早速魔力を流してみる。
だが、さっきはあんなに綺麗に輝いたカードなのに、今回はなんの反応も見せてくれない。
あれぇ?と首を傾げるシュリの手から、ヴィオラはそのカードを取り戻すと、
「実は、このカードは使用者の魔力にしか反応しないのよ。素材のクリスタルがそう言う性質を持ってるらしいわ。だから、このカードは私だけの専用」
魔力を流して再び美しい光を浮かび上がらせながらそう説明してくれた。
思わずうらやましそうに見上げれば、ヴィオラはそのカードを再び胸元にしまい込みながら微笑む。
「この素材のカードはSS専用よ。もし欲しかったら、早く私に追いつく事ね」
シュリならきっと、すぐに追いつけるわーそう言って、ヴィオラは己の血を引く愛しい孫を、まぶしそうに見つめた。
ふぅん、そっかぁ、と貰ったばかりの冒険者カードに再び目を落とすと、今度はさっきそれを手渡してくれたミーナが話しかけてきた。
「ヴィオラが言ったみたいに、高ランクの冒険者の冒険者証は、それ自体に価値がある金属が使われているの。ちなみに、シュリ君のランクのカードは銀が、その上のSランクのカードには金が、それぞれ素材として含まれているわ。で、ヴィオラが自慢してたみたいに、SSランクになると持ち主の魔力にしか反応しない特殊なクリスタルを使用した冒険者証が発行されるってわけ。再発行にはそれなりにお金もかかるから、なくさないように大事にしてね?」
シュリは素直に、はぁいと返事をして、冒険者カードを懐にしまう振りをしつつ、こそっと[無限収納]へと入れておく。
なくしたくないものは、ここに入れるのが一番だもんねとそんなことを思いながら。
「あと、出来れば必要な時以外はあんまりその冒険者カードを見せびらかさないように気をつけて?シュリ君の年齢で冒険者ってだけでも驚きなのに、その上ランクがAだなんて事が知れたら騒ぎになるかもしれないから。でも、まあ、もし何かあったらうちのギルド長の名前を出してくれていいからね?うちのボスは、意外と名前が知られてるし、まあ、何とかなるはずよ。更に、一応念の為に、これも渡しておくわね」
そう言ってミーナが差し出してきたのは、折り畳んだ書状だった。
「これ、なぁに??」
受け取りながら尋ねると、
「一応、ギルド長に一筆書いておいて貰ったから。本当に困ったら、それをそれぞれの街のギルド長に見せると良いわ。そうすれば、きっと便宜を図ってくれるはずよ」
「うん。わかった。ありがとう、ミーナさん」
シュリは受け取った書状を冒険者カードと同様、「無限収納]に放り込みながら、にっこり微笑んでミーナを見上げた。
その笑顔に思わず頬を赤らめつつも、相手は子供よ、とか、しかもヴィオラの孫なんだから、とか自分に言い聞かせつつコホンと咳払いをしたミーナは、年端もいかない美少年から無理矢理視線を引きはがしてヴィオラへと向ける。
「シュリ君の冒険者証の発行と一緒に、今回の緊急クエストを受ける手続きも二人分、しておいたから。内容は、亜竜達の暴走をくい止めること。手段は問わないわ。亜竜達を全部駆逐しようが、元の住処に追い返そうが。ただ、出来れば全部刈り尽くすのは避けたいところだけど。魔物達の生態系のバランスが崩れすぎるのはやっぱり怖いしね」
「うん。そうね。全部狩り尽くす事は出来るけど、後の事を考えるとね。それに、今回の件では、亜竜達も住処を追われた被害者なのかもしれないし。出来る限り、穏便な方法を目指すように頑張ってみるわ」
「ええ。お願い。でも、無理はしないで?自分達の安全を最優先にね」
「ん。りょーかい」
「シュリ君も、気をつけてね?頑張りすぎは禁物よ??」
「はぁい」
シュリも素直に頷き、さていよいよ出かけようという段になって、はっとしたようにミーナが問いかけてきた。
「あ、そう言えばシュリ君。武器とか防具とかは??必要なものがあるなら、店を紹介するけど。場合が場合だし、安くさせるようにギルド長から話をして貰うわよ?」
その質問を受けたシュリとヴィオラが顔を見合わせる。
「そう言えばシュリ。武器とかってどうしてるの??いつも」
今まで気にしたことが無かったけど、とヴィオラも小首を傾げて問いかけてきた。
その質問を聞いたミーナが目を剥く。
ヴィオラがシュリの強さを請け負うから、年端もいかない子供を冒険者にしたのに、扱う獲物の事すら把握していないとは何事だと言うように。
そんなミーナに気づいたシュリは、どう答えたらいいかとちょっと困った顔をしつつ、
「そうだなぁ。あえて言うなら、僕自身が武器であり防具、かな」
結局、そんな風に答えた。
「えーっと??それは、どういう??」
シュリの、あまりに抽象的な答えに困惑した顔をするミーナを見上げ、シュリはどうやって説明しようかとしばし考える。
そして、考えながら出来るだけ丁寧に答えを紡いだ。
「んーと、防具も武器も、まだ僕の体型に合うものなんてそんなにないでしょ?それに有り合わせのものなんて、ない方がましだし。下手な武装をするくらいなら、僕自身の拳や魔力の方が役に立つ。後は、機動性も僕の武器の一つだから出来れば身軽でいたいしね。更にもう一つ付け加えるなら、防具なんかなくても僕には絶対的な守護者が四人もいる」
言いながら、勝手に魔力供給の為の行為を行った事について軽~くお叱りを受けて大人しく背後に控えている四人の精霊にちらりと視線を投げかけた。
僕が危なくなったらもちろん守ってくれるんだよね?と言うように。
主の意志を明確に理解した四人は、先を競うようにコクコクと頷く。
ただし、静かにしているようにとの指示を守るために、口を開くことは無かったが。
それを見たヴィオラがなるほどと納得したように頷き、ミーナも心配するまでも無かったみたいねと苦笑を浮かべる。
「なるほどね。理解したわ。確かに精霊の守りがあるなら、どんな防具より心強いかも知れないわね。でも、もし必要なものがあったら何でも言って。ギルド長にも便宜を図るように言われているから」
ミーナの言葉に、シュリもヴィオラも素直に頷く。
因みに、今この場に部屋の主たるギルド長の姿はない。
シュリの冒険者証を準備している間に、今回の事態解決の目処がたった事を領主の元へと報告に行ったのだ。
ギルド長は短い時間でヴィオラと話し合い、二人は領主の持つ兵力とギルドが集めた冒険者達は基本街の防衛に当たらせるべきだろうという結論に達していた。
現在のスベランサに、ヴィオラと肩を並べて戦えるだけの冒険者は、残念なことに一人も居ないし、それは領主の兵にも言えること。
そんな彼らが闇雲に打って出てもヴィオラの足を引っ張ることになりかねない。
それくらいなら、甲羅に引っ込んだ亀のように、万が一討ちもらした亜竜達が街に襲い掛かってきた場合に備えて防備を固めるべきだ。
ギルド長は、その事を領主に進言し、そのまま冒険者達を取りまとめて防衛の準備に入ると言って出て行った。
ヴィオラとシュリ、二人の見送りをミーナに任せて。
「じゃあ、ぼちぼち行こうか?シュリ」
「うん。急ごう」
そう言って立ち上がった二人を、ミーナが心配そうに見つめる。
ヴィオラが強いのは知っている。
シュリも、ヴィオラがあれだけ言うのだから、きっと強いのだろう。
だが、やはり不安はある。これほどの大規模な魔物災害は、ミーナが冒険者ギルドに務め始めてから初めての事だったから。
「しつこいとは思うけど、本当に気をつけて、無理はしないでね?王都からの応援部隊もこっちに向かってるみたいだし、その中にはSランクの冒険者も混じってるみたいだから。無理だと思ったら戻ってきて、応援を待つって方法も、あるんだからね?」
「大丈夫よ、ミーナ。私が強いのは知ってるでしょう?」
「それは、まあ……」
「絶対に守るから、私を……私とシュリを、信じて待ってて?」
「……わかったわ。信じる。でも、五体満足で帰ってこないと承知しないんだから。だから、気をつけて行ってきてね、ヴィオラ、シュリ君」
ヴィオラの言葉にうなずき、ミーナはどうにかこうにか微笑みを浮かべる。若干、無理矢理感のある微笑みではあったが。
それをみたヴィオラも、ミーナを安心させるようににっこりとおおらかに微笑んだ。
「大丈夫。ミーナも、この街の人達も、傷つけさせたりしないから。それに、この騒動が終わったら、ミーナの赤ちゃんも見せて貰わないとだしね。じゃ、行ってくるわ」
そう言って、シュリを小脇に抱えたヴィオラは、部屋を出ていく。戸口で一度立ち止まり、もう一度ミーナに笑顔を見せてから。
しばらくして、外から再びわき起こった歓声を合図に、ミーナは窓に駆け寄って空を見上げた。
遙か上空、美しい青空を背景にグリフォンにまたがったヴィオラとシュリの姿が小さく見えた。
しかし、それもほんの数瞬の事。
その姿は空の青に溶けるように、あっという間に小さくなり、見えなくなってしまった。
だが、その姿が見えなくなってもなお、ミーナは空をしばらく見上げたままでいた。
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