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第75歩 風を感じて

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 保険業Oさんの話。
Oさんは高校進学して下宿住まいだった。

 ある土曜日の午後、部活の疲れが出て部屋で昼寝をしていた。

 ふと全身に風を感じて目を開けてみると

『空』を飛んで上から地上を見下ろしていた。

その景色は全てがセピア色で見下ろしている街は、
ずっと遠い地域にある生まれ育った市街だった。

不思議に思ったが夢かと思い
『そうだ、このまま実家の上まで行ってみよう』
実家まで空を飛んでいった。

実家の上空に来ると眼下に懐かしい風景と実家の屋根が見えて
カラスが置いたのかトタン屋根の上に石が乗っかっているのが見えた。

近所もゆっくり見てまわったが夢にしては、やけにリアルだ。

時折、歩く人や走り去る車、海沿いの道路。

 Oさんは『どうせ夢なんだから、どこまでも行ってやれ』
海や山に向かって飛び
やがて雲の上を目指して空高く上昇飛行を始めた。

すると何処からか
「うわあーーーーっ」
叫び声が聞こえてきて気が付くと下宿の部屋で飛び起きていた。

 何が起こったのか理解できず、しばらく茫然とした。
 
 その後もう一度だけ自分の体が金縛りになり寝たままの状態で
天井まで浮き上がった事が一度だけあった。

 それきり、そのようなことは全く起こらなくなった。
 
 大人になったOさんは最近、気が付いた。
空を飛んでいたのは確かに自分だったが、あの叫び声をあげたのも
寝ていた自分だったのではないかと。

「やけくそになって飛び回った自分と、それを怖く思いながら
見ていた別の自分がいて叫び声を上げたのだと思う」と語ってくれた。
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