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2.Ω嫌いのαと、Ωになりたくないβ編
2-6:Ω嫌いのαと、Ωになりたくないβ編6
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相談員は文字がびっしり記載された書類を差し出し、確認するよう促してくる。
明らかに読ませる気のない文章量だが、俺は意を決して目を通し始めた。
……しかし焦りから内容は頭に入らず、視線を往復させるだけになってしまう。
「これ、一度持ち帰って考えてもいいですか。今日決めるのは難しそうです」
「では予約が半年後となりますが、構いませんでしょうか」
ここで決めるのが怖くなって保留の提案をしても、明確な引き留めはしてこない。
だが時間を理由に足元を見られ、選択肢を奪われる。
「は、半年後? いやでも、困ってる人は集中するか……」
「そうですね。β対象の相談所は希少ですから、間近の予約は難しくなります」
階級社会に関する機関はほぼΩ対象、次点でα、βはほとんど存在しない。
まして俺のように転換した人は、そのどれにも当て嵌まらない。
「今日決めたら、いつ治験をしていただけますか」
「本日ですね。ちょうどキャンセルが出た分を、うちで押さえております」
にこりと愛想よく笑う相談員に、俺の中で期待と恐怖が入り交じる。
手放しで信頼することもできないが、他に宛がないのも事実。
(正直怪しい。けど政府が認可してるところは、どこも満杯だ)
俺は震える手でペンを握り、必要事項と同意書の記入を進めていく。
そして最後の確認欄にサインを書き込み、相談員に手渡した。
「……分かりました。同意したので、治験をお願いします」
乱れた筆跡で書いた書類を押し返すと、相談員は丁寧に中身を確認する。
そして紙の角を揃えた後に立ち上がり、茶菓子を用意し始めた。
「ありがとうございます。では薬が届くまで、こちらに掛けてお待ちください」
緻密な細工が輝くグラスを俺の前に置き、相談員は部屋から出ていく。
残された俺は途端に緊張の糸が切れて、ぐったりと椅子にもたれ掛かった。
(申し訳ないけど、お茶は飲まないでおこう。けどこの部屋、甘い匂いがするな)
未だに警戒心は残っているから、俺は手をつけずに紅茶の水面を見つめる。
けどグラスから漂うものとは違う匂いが、徐々に部屋を埋め尽くしていた。
(これアロマか? でも疲れが溜まってるのかな、まぶたが重く――)
急激に襲う睡魔に耐え切れず、俺は意識を取り戻そうと部屋の外に出ようとする。
しかし扉には鍵が掛かっており、閉じ込められたと気づいた瞬間に意識を失った。
湿った水音や甲高い声がうるさくて瞼を開くと、毒々しい色の照明が目に入った。
俺は個室のベッドに拘束具で繋がれ、煽情的な下着を身に着けている。
(どこ、ここ。蛍光色のネオンが光ってるし、変な音楽が響いてうるさい)
「あぁ、お目覚めになられましたか。もうすぐお客様がいらっしゃいますからね」
相談員は俺の覚醒に気づくと、首輪の紐を隣にいた黒服に預けて近づいてくる。
紐の先を視線で追うと、そこには泣き腫らした目の少年が震えていた。
(うわ、どこだか分かった。最悪だ)
その後ろには情欲を隠そうともしないαが、下卑た笑みで少年を眺めている。
彼の手は少年の腰を撫でまわし、その体を暴きたくて堪らないようだった。
「……風俗街の中か、この場所。それに体が動かないんだけど、俺になにしたの」
「契約通り、薬を処方させていただきました。これから治験を開始いたします」
部屋を区切るカーテンが閉められ、相談員が俺のいるベッドに乗り上げてくる。
そして俺の肌に手を滑らせながら、αのフェロモンを振り撒いてきた。
「どう考えても、治療する場所じゃないでしょ。離してよ! ……ん、あっ!?」
俺の文句は嬌声に変わり、触れられた場所から甘い痺れが広がっていく。
心は間違いなく拒絶しているのに、体は本能に屈服しかけていた。
(体が熱い。でも発情期と近い症状だけど、なんか変だ)
目の前の男に惹きつけられると同時に、激しい嫌悪感も感じて吐き気がする。
翻弄される感覚だけではなく、相手への反抗心も湧き上がって頭が混乱した。
「αとΩの因子が体内でせめぎ合ってますね。両方の誘惑フェロモンが出ている」
「……じゃあ俺、この状態で客を取らされるんだ。珍獣扱いで」
先程の少年を見れば嫌でも理解する、あの相談所は風俗店と繋がっていた。
俺は客寄せの餌にされ、不特定多数の相手と交わらされるのだろう。
「契約書通りの内容となっております、先ほど同意すると記載したでしょう?」
(細かい字で書かれてたんだな。あの時は焦って、確認できなかったけど)
とはいえ疑わしい場所だと察しはついていたし、最終的に決断したのは自分だ。
全ての責任が俺にあるとは思わないが、結末は受け入れるしかない。
「存外、大人しいものですね。もっと泣きわめくかと思いましたが」
「怪しいのは最初から分かってたし、半分自殺みたいなものだったから」
相談所は俺にとって最後の希望で、もう足掻く気力も残されていなかった。
それにこの場を乗り越えたところで、未来が開けるとは到底思えない。
(βに戻れないなら、もうどうでもいい。会社を惑わすΩは、就職も絶望的だし)
社会的地位が高い者は大体がαで、彼らを守るべくΩは不採用になることが多い。
その為に身持ちを崩す者が多いことも、β時代に他人事として聞いていた。
(それにいくら籠理さんだって、風俗に関わった俺を欲しがるとは思えない)
弄られた体が愛されると思えるほど、楽観的な思考は持っていない。
経緯がどうであれ、穢されることには違いないのだから。
明らかに読ませる気のない文章量だが、俺は意を決して目を通し始めた。
……しかし焦りから内容は頭に入らず、視線を往復させるだけになってしまう。
「これ、一度持ち帰って考えてもいいですか。今日決めるのは難しそうです」
「では予約が半年後となりますが、構いませんでしょうか」
ここで決めるのが怖くなって保留の提案をしても、明確な引き留めはしてこない。
だが時間を理由に足元を見られ、選択肢を奪われる。
「は、半年後? いやでも、困ってる人は集中するか……」
「そうですね。β対象の相談所は希少ですから、間近の予約は難しくなります」
階級社会に関する機関はほぼΩ対象、次点でα、βはほとんど存在しない。
まして俺のように転換した人は、そのどれにも当て嵌まらない。
「今日決めたら、いつ治験をしていただけますか」
「本日ですね。ちょうどキャンセルが出た分を、うちで押さえております」
にこりと愛想よく笑う相談員に、俺の中で期待と恐怖が入り交じる。
手放しで信頼することもできないが、他に宛がないのも事実。
(正直怪しい。けど政府が認可してるところは、どこも満杯だ)
俺は震える手でペンを握り、必要事項と同意書の記入を進めていく。
そして最後の確認欄にサインを書き込み、相談員に手渡した。
「……分かりました。同意したので、治験をお願いします」
乱れた筆跡で書いた書類を押し返すと、相談員は丁寧に中身を確認する。
そして紙の角を揃えた後に立ち上がり、茶菓子を用意し始めた。
「ありがとうございます。では薬が届くまで、こちらに掛けてお待ちください」
緻密な細工が輝くグラスを俺の前に置き、相談員は部屋から出ていく。
残された俺は途端に緊張の糸が切れて、ぐったりと椅子にもたれ掛かった。
(申し訳ないけど、お茶は飲まないでおこう。けどこの部屋、甘い匂いがするな)
未だに警戒心は残っているから、俺は手をつけずに紅茶の水面を見つめる。
けどグラスから漂うものとは違う匂いが、徐々に部屋を埋め尽くしていた。
(これアロマか? でも疲れが溜まってるのかな、まぶたが重く――)
急激に襲う睡魔に耐え切れず、俺は意識を取り戻そうと部屋の外に出ようとする。
しかし扉には鍵が掛かっており、閉じ込められたと気づいた瞬間に意識を失った。
湿った水音や甲高い声がうるさくて瞼を開くと、毒々しい色の照明が目に入った。
俺は個室のベッドに拘束具で繋がれ、煽情的な下着を身に着けている。
(どこ、ここ。蛍光色のネオンが光ってるし、変な音楽が響いてうるさい)
「あぁ、お目覚めになられましたか。もうすぐお客様がいらっしゃいますからね」
相談員は俺の覚醒に気づくと、首輪の紐を隣にいた黒服に預けて近づいてくる。
紐の先を視線で追うと、そこには泣き腫らした目の少年が震えていた。
(うわ、どこだか分かった。最悪だ)
その後ろには情欲を隠そうともしないαが、下卑た笑みで少年を眺めている。
彼の手は少年の腰を撫でまわし、その体を暴きたくて堪らないようだった。
「……風俗街の中か、この場所。それに体が動かないんだけど、俺になにしたの」
「契約通り、薬を処方させていただきました。これから治験を開始いたします」
部屋を区切るカーテンが閉められ、相談員が俺のいるベッドに乗り上げてくる。
そして俺の肌に手を滑らせながら、αのフェロモンを振り撒いてきた。
「どう考えても、治療する場所じゃないでしょ。離してよ! ……ん、あっ!?」
俺の文句は嬌声に変わり、触れられた場所から甘い痺れが広がっていく。
心は間違いなく拒絶しているのに、体は本能に屈服しかけていた。
(体が熱い。でも発情期と近い症状だけど、なんか変だ)
目の前の男に惹きつけられると同時に、激しい嫌悪感も感じて吐き気がする。
翻弄される感覚だけではなく、相手への反抗心も湧き上がって頭が混乱した。
「αとΩの因子が体内でせめぎ合ってますね。両方の誘惑フェロモンが出ている」
「……じゃあ俺、この状態で客を取らされるんだ。珍獣扱いで」
先程の少年を見れば嫌でも理解する、あの相談所は風俗店と繋がっていた。
俺は客寄せの餌にされ、不特定多数の相手と交わらされるのだろう。
「契約書通りの内容となっております、先ほど同意すると記載したでしょう?」
(細かい字で書かれてたんだな。あの時は焦って、確認できなかったけど)
とはいえ疑わしい場所だと察しはついていたし、最終的に決断したのは自分だ。
全ての責任が俺にあるとは思わないが、結末は受け入れるしかない。
「存外、大人しいものですね。もっと泣きわめくかと思いましたが」
「怪しいのは最初から分かってたし、半分自殺みたいなものだったから」
相談所は俺にとって最後の希望で、もう足掻く気力も残されていなかった。
それにこの場を乗り越えたところで、未来が開けるとは到底思えない。
(βに戻れないなら、もうどうでもいい。会社を惑わすΩは、就職も絶望的だし)
社会的地位が高い者は大体がαで、彼らを守るべくΩは不採用になることが多い。
その為に身持ちを崩す者が多いことも、β時代に他人事として聞いていた。
(それにいくら籠理さんだって、風俗に関わった俺を欲しがるとは思えない)
弄られた体が愛されると思えるほど、楽観的な思考は持っていない。
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