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2.Ω嫌いのαと、Ωになりたくないβ編
2-5:Ω嫌いのαと、Ωになりたくないβ編5
しおりを挟む無事にΩを受け入れているホテルに辿り着き、籠理さんに連絡メールを入れる。
そして広いベッドの上に大の字で転がり、長々とため息を吐いた。
(ホテルは確保したし、抑制剤もある。けどこの先、どうすればいいか分からない)
政府の認可施設には入れず、病院も症状を緩和させる薬を出すのが精一杯だった。
けれど自分の所持金を考えると、安全地帯のホテルには一週間しかいられない。
(その間に、有効な手段を探さないといけないな。そうだ、SNSで調べてみよう)
医者の反応を見る限り、Ω転換の患者は俺一人じゃなさそうだった。
ならば同じ境遇の人がいれば、ネットで情報を発信しているかもしれない。
(そうだ、時間を無駄になんかできない。少しでも動かないと)
検索ボックスにキーワードを打ち込み、検索ボタンをクリックする。
すると多くの書き込みが見つかり、俺は時間を忘れて読み始めた。
(Ω転換は情報自体が少ないし、完治の情報も出てこない。けどないわけじゃない)
何度もスクロールバーを下げて、情報の波を必死に読み進める。
そしてある書き込みに、俺の視線は釘付けになった。
「……バース転換相談所?」
それは個人作成のものではなく、大手相談所が開設した広告用アカウントだった。
掲載された画像付きのリンクを押すと、専用サイトへと誘導される。
(非営利組織で、入院できない人の相談に乗ってるのか。心理療法もやってる)
洒落たデザインのサイトに、施設概要やアクセスなどが記載されている。
そしてカウンセリングを受けた人の感想も、多くが好意的なものだった。
「行ってみるしかないか、公共施設や制度は頼れそうにないし」
政府非公認であるところに怪しさは残るが、もう手段は選んでいられない。
俺は予約フォームに必要事項を記入し、一瞬躊躇したが送信ボタンを押下した。
「せめてやれることやってから、諦めたいし」
籠理さんと次に会うまでに、意地でもβに戻っていなければならない。
その為なら多少の危険は覚悟の上で、俺は前に進むしかなかった。
予約完了メールは数分後に届き、その日のうちに相談を受けられることになった。
俺はすぐ指定された場所に向かうが、治安の悪い区画にあると気づいて困惑する。
「……繊細な施設なんだから、立地考えてよ。風俗街の近くって」
「狭間っち、こんなところに入るつもり!?」
愚痴をこぼしながら歩いていると、急に聞き慣れた声が俺の名前を呼んでくる。
振り向くと鈴木が立っていて、青白い顔で俺の袖を掴んでいた。
「もしかして俺のこと尾行してた? こんなところに用事なんかないよね」
「普通に声掛けようと思ってたけど、狭間っちの様子がおかしかったから」
彼は心配そうに俺の顔を見つめてくるが、俺は後ろめたさから顔を逸らす。
その視界を水商売の女性が掠め、ここが薄暗い場所であることを暗に示していた。
「ねぇ、絶対怪しいよここ。入るのやめた方がいいって!」
「離してよ、もうここしか俺は頼れないんだ」
けれど善意で止めてくれているのは分かっていたが、その言葉には従えない。
正しい手段はもう試した後だし、なにより時間が残されていなかった。
「完全なΩになる前に、少しでも可能性があるなら掛けたいんだ」
「狭間っち、待って、行っちゃダメだってば!」
引き留めようとする友人を振り切り、相談所がある雑居ビルの階段を駆けあがる。
背中を打つ声が耳に残るけど、引き返すことはできない場所まで俺は来ていた。
古い雑居ビルの外装とは裏腹に、相談所の受付は上品に洗練されていた。
相談室も美しい内装で、長いハーフアップの男性が相談員だった。
「本日はお時間を頂き、ありがとうございます。要件は予約フォーム通りですね?」
「はい。俺、Ω転換してるβなんです。βに戻る方法が知りたくて来ました」
緊張しながら俺が伝えると、相談員は確認の為にバース検査薬を手渡してくる。
俺が唾液を染み込ませると、Ωに近いβとしての結果が表示された。
「なるほど。うちは独自のバース研究もしておりますので、対応できるかと」
「具体的に、どのような成果がでているのですか」
お互いに冷やかしではないと確認してから、本題に切り込んでいく。
すると彼は複数の資料を机の上に並べ、丁寧に説明をし始めた。
「αとΩ両方のフェロモン薬を注入し、本能を狂わせて転換の抑制をしております」
「それ、かなり肉体的な負担がきついですよね。強い副作用もあり得るんじゃ」
バース関係の薬に副作用がつきものであることは、籠理さんの件で知っている。
まして本能にそぐわないものなら、体にどんな負担がかかるか想像もつかない。
やはり相談員の男も麗しい笑顔で、リスクを否定することはなかった。
「非認可の治験ですから。参加する場合は、同意書の記載をお願いいたします」
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