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1.Ω嫌いのαと、Ωになってしまいそうなβ編

1-5:Ω嫌いのαと、Ωになってしまいそうなβ編5

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 結局その夜は何度も体を重ね、籠理さんの気が済むまで行為を続けた。
 だから翌日は倦怠感を引きずりながら、大学の講義に出席することになる。

 ……けれど何度も噛まれた首筋が痛み、普段はない熱っぽさを感じていた。

(なんだろう、風邪かな。最近、体調を崩すこともなかったのに)

 そんなことを考えてるうちに体調不良は徐々に酷くなり、体の芯が火照りだす。
 大学内の保険センターに向かおうとしても、膝が先に崩れてしまった。

(本当にだるくなってきた、申し訳ないけど籠理さんを呼んだ方がいいか)

 次の講義は一人だから友人が周りにいなくて、俺は仕方なくスマホを取り出す。
 籠理さんの家は近いし、在宅勤務だから困った時には連絡しろと言われていた。

 ――しかし通話ボタンを押した瞬間、俺の体は宙に浮く。

「抑制剤も打ってないのに、歩きまわるなんて誘ってるのか? 甘ったるいΩ」
「っ、俺はβ、なんだけど! なに勘違いしてるの!?」

 声がした方に振り向くと、同じ年頃の青年が血走った目で俺を眺めていた。
 更にαのフェロモンが漂い、周囲の学生は動揺しながらも距離を取っている。

「そんな匂い撒き散らしといて、良く言うなぁ」

 青年は軽々と俺の体を担ぎ上げ、そのまま人気のない教室まで運んでいく。
 当然抵抗するが熱のこもった体に力は入らず、机に上半身を寝かされた。

「ひぁ、触んないで! やだ、βにはフェロモンなんかない……!」
「嘘つけ。他のαだって、こうやって誑かしてるんだろ?」

 青年は俺の服の中に手を入れ、無遠慮に体をまさぐってくる。
 その行為に嫌悪感を覚えて蹴りを入れると、彼は舌打ちをして俺の足を掴んだ。

「Ωが抵抗すんな、どうせ犯されるために生まれてきたくせに」
「違う、違う、俺はΩなんかじゃない……!」

 俺はβの両親から生まれたし、定期検査でも生粋のβだと診断されている。
 だから俺がΩのフェロモンを持っているのはありえないし、心当たりもなかった。

 けれど目の前の男は間違いなく発情し、体を暴く手を止めてはくれない。

「ちっ、往生際悪いな。Ωの分際、でッ!?」
「私のβに、なにをしている?」

 俺は少しでも離れようと藻掻くが、その前に目の前の男が蹴り飛ばされる。
 倒れた男の後ろには、息を切らせた籠理さんが立っていた。

(良かった、助けにきてくれたんだ)

 籠理さんが乱暴に足蹴にすると、男は教室の外へと転がり出て行った。
 そして安堵から体の力を抜くと、籠理さんが俺を抱き起こしてくる。

 だが。

「……狭間くん、そのフェロモンは」

 籠理さんは腕を伸ばした体勢のまま硬直し、俺を凝視している。
 そして俺は、自分の異変を認めざるを得なくなった。

(籠理さんが目を見開いてる。じゃあ俺、本当に)

 さっきの騒動は男の錯乱ではなく、本当に俺が原因なのだとしたら。
 ……籠理さんの最も嫌うΩに、なってしまったのだとしたら。

「狭間「っやだ、来ないで! ……嫌わないで」」

 俺は伸ばされかけた籠理さんの腕を弾き、彼の横を走り抜けようとする。
 けれど逃走は許されず、籠理さんに後ろから強く抱き押さえられた。

「っ落ち着いて、狭間くん、嫌わないから! 大丈夫、大丈夫だから!」
「離して! 一人で病院行くから、後でちゃんと連絡する!」

 籠理さんは必死に俺を止めようとするが、今は彼の元にいたくなかった。
 だって彼はΩ嫌いだ、だから今の俺は存在してるだけで疎まれるかもしれない。

「そんなフェロモン撒き散らしてて、放っておけるわけないでしょう!」
「違う、俺はβだから匂いなんてしない! 離してってば!」

 嫌われるかもしれないという恐怖で、行動と言葉が支離滅裂になっていく。
 過呼吸のように息が上がり、周囲の音が聞こえづらくなっていく。

「抑制剤を打って、それから病院に行きましょう。熱もあるんですから、ね?」
「一人で行ける、抑制剤もいらない! も、離してよ……!」

 籠理さんは俺を優しく撫でてくれるけれど、それが逆に辛かった。
 彼の動き一つで心が乱されて、体も心も言うことを聞かなくなる。

(籠理さん、全然離してくれない。俺のフェロモンに狂わされているのかも)

 どんなに籠理さんがΩを嫌いでも、αの本能はΩに惹きつけられる。
 じゃないと穏やかな彼が、痛いと感じるほど強く抱き留めたりなんかしない。

「狭間っち、どうしたの!?」

 けれど平行線を辿る空間に、騒ぎを聞きつけた鈴木が駆け込んでくる。
 すぐに彼は状況を理解したらしく、俺に向かって手を伸ばしてきた。

(良かった、βの鈴木なら俺の影響を受けないで済む。……っ!?)

 安堵感から俺も友人の手を取ろうとするが、直後に教室の空気が一変する。
 見上げると籠理さんが俺に覆い被さり、αのフェロモンを周囲に振りまいていた。
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