【完結】Ω嫌いのαが好きなのに、Ωになってしまったβの話

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)

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1.Ω嫌いのαと、Ωになってしまいそうなβ編

1-4:Ω嫌いのαと、Ωになってしまいそうなβ編4

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 映画を紹介したプレゼンターを弄っていると、チャイムの音が聞こえてきた。
 顔を上げると窓の外は薄暗く、時計は帰宅を約束した時間を指している。

「狭間くん、お迎えに来ましたよ。外は寒いですから、これ着てくださいね」

 扉を開けると籠理さんが立っていて、俺を見るなり嬉しそうに笑った。
 友人たちは黄色い声を上げ、俺は気恥ずかしさで唇を結ぶ。

「本当に狭間っちを泊まらせる気ないんだね、籠理さん」

 そして籠理さんがコートを脱いで俺に羽織らせていると、鈴木がそう呟いた。
 確かに彼と同居してから、俺は頑なに外泊の誘いを断り続けている。

(まぁそれは籠理さんの執着だけじゃなくて、俺の気持ちの問題が大きいんだけど)

 β会が楽しいのは事実だが、籠理さんと過ごしたい気持ちも嘘じゃなかった。
 それに寂しがる彼を長々と放置する気にもなれず、結局迎えを断ったことはない。

 ……そして大人しく帰り支度をする俺を見て、籠理さんは上機嫌で頷いている。

「えぇ、私のβですから。本当はここに連れて来るのも、躊躇したんですよ」
「保護欲バグってるよ。Ωじゃないんだから、襲われる心配もないのに」

 籠理さんの言葉に俺は肩を竦めるが、αである彼の保護本能は相当強い。
 正直守られるのはまんざらじゃないが、本来は俺が受け取っていいものでもない。

 けれど肝心の籠理さんは俺の感情など知らず、目元を染めて俺を抱き寄せた。

「大切な人を、大事に扱うのは当然でしょう?」
「ねぇ俺たち、部屋に戻っていい? 独り身に惚気はきついんだけど」

 友人の一人がげんなりとした表情で喋り、続々と俺に向かって手が振られる。
 何人かは揶揄うように口笛を吹き、お幸せになどと茶化し倒していた。

「別に惚気じゃないよ、そう見えるかもしれないけどさ」
「そろそろ、本当に帰りましょうか。このままだと冷えます」

 籠理さんは俺の腰を抱いたまま、友人たちに会釈してマンションを出る。
 未だ背後からは好奇の言葉と同時に、心配そうな声も聞こえていた。

「じゃあね、みんな。また大学で」

 俺はその全てに手を振って別れを告げ、籠理さんと一緒に夜の道を歩きだす。
 結局彼は駐車場に着くまで、俺から離れようとしなかった。



 籠理さんのマンションに辿り着くなり、俺は寝室に連れ込まれる。
 そしてベッドの上に押し倒され、首筋に顔を埋められた。

「狭間くんから他のβの匂いがする、落ち着かない」
「βはフェロモンなんて発さないよ、だからそれは錯覚」

 そう説得しても籠理さんは納得してくれず、ぶすくれた表情をしている。
 βの匂いがするらしい俺の服は剥ぎ取られ、代わりにαのフェロモンで包まれた。

(うわ、狡い。こんなことされたら、逃げられないじゃん)

 籠理さんのフェロモンは香水のように甘く、βですら感知ができる。
 それが俺だけに向けられて、深い独占欲を露わにしていた。

「錯覚でも嫌です、やっぱり抱かせて」
「昨日もしたのに」

 籠理さんは俺の体を愛撫しながら、性急に行為を迫ってくる。
 多分本当にしたいわけじゃなくて、外の匂いを消したいだけなんだろうけど。

 ――けれど俺はその執着が嫌いじゃないから、大人しく行為に身を委ねていた。

「私の匂いだけ、纏っててほしいんです。うなじも噛ませて」
「籠理さんの気が済むなら、噛むのは別にいいけどさ」

 首筋を晒すことに抵抗はないが、俺はβだから絶対に彼の恋人にはなれない。
 番と言う特別な関係では繋がれず、一時の慰めとして体を重ねるのが精々だ。

(それを口に出せない俺も、同罪だけどさ)

 籠理さんがいつか去るのを遅らせたくて、彼の願いを色々と受け入れてしまう。
 けれど完全な終わりが来るまでは、不安定でもこの関係に縋りついていたかった。
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