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1.Ω嫌いのαと、Ωになってしまいそうなβ編
1-6:Ω嫌いのαと、Ωになってしまいそうなβ編6
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(もしかして、αの保護本能が暴走してる? こんな威嚇行動をするなんて)
噎せ返るようなフェロモンが場を支配し、βの友人まで気圧されていた。
当然俺の意識も朦朧とし、体の熱は更に高められていく。
(あぁ、可哀想なことしちゃったな。せっかく助けようとしてくれたのに)
鈴木はαの威嚇に怯えながらも、俺を見捨てることもできず困り果てている。
そして追い打ちをするように、籠理さんは鋭い笑顔で退室を促した。
「もう戻って頂いて結構ですよ。狭間くんは、私が病院に連れて行きますので」
「でも籠理さん、狭間っちのそれって」
鈴木はなにか言いたげにしていたが、攻撃的な籠理さんは発言を許さない。
貼り付けたような笑みを浮かべて、彼を遠ざけようと言葉を重ねている。
「戻っていいと言っているのが、分からないんですか」
口調こそ丁寧だが有無を言わせぬ圧があり、鈴木は再び震え上がる。
このままだと彼は、暴走している籠理さんに巻き込まれるかもしれない。
(なんとかして、彼を逃がさないと。さすがに怪我なんてさせられない)
保護本能に囚われたαは獣に近いと言われ、理性を望むことも難しい。
だから籠理さんを刺激しないよう、俺は慎重に言葉を選んでいく。
「俺は大丈夫だから、行って。……ごめんね、心配して来てくれたのに」
こっちは気にするなとできる限り優しく微笑むと、鈴木は顔を歪めて踵を返した。
けれど俺を諦めたわけではないらしく、最後に籠理さんを強く睨みつける。
「じゃあ俺、せめて先生呼んでくるよ! 二人とも、そこで待ってて!」
「……いらないと、言っているのに」
教室から走り去った友人の背中に、籠理さんの恨めしげな声が向けられる。
だから意識を逸らそうと、俺は気怠くなった指で彼の頬に触れた。
「俺達を心配してくれてるんだよ。あともう離れて大丈夫だよ、籠理さん」
さっきまでは他者がいたが、もうこの教室には俺たち以外誰もいない。
だからαの保護本能を発揮しなくていいと、暗に伝える。
けれど彼は必死に俺を腕の中に閉じ込め、悲痛な声で訴えてきた。
「どうしてですか、貴方は私のでしょう!? 絶対に嫌です、誰にも渡さない!」
「病気なら移るかもしれないし。……万が一発情期なら、もう俺はβじゃない」
籠理さんは俺に強い執着を見せているが、それはβだった時の残骸だ。
今は混乱しているけど、落ち着いたらその感情も消え失せてしまう。
「貴方がΩになったとしても、大切にします。だから逃げないで、狭間くん」
「無理しなくていい。βだから一緒にいたのなんて、最初から分かってるから」
やんわりと籠理さんの胸を押して距離を取ると、彼は絶望したように目を見開く。
その間に俺は痛む心を無視して、これ以上嫌われる前にと口調を早めた。
「今日中に荷物を纏めて、マンションを出ていくよ。残ったものは捨てていい」
「待って、お願いです。ちゃんと話し合いましょう、私、……やだ、嫌だ!」
人と話すことに慣れていない籠理さんを言い包めるのは、難しくない。
けれど彼は会話こそ放棄したが、代わりに俺の首に顔を寄せた。
「籠理さ、やめっ、う、っあ――――――!」
嫌な予感がした時にはもう遅い、籠理さんが俺のうなじに歯を立てた。
呼吸が止まる程の痛みと、僅かに疼くような熱を感じる。
「籠理さんっ、離してよ、痛いってば! やだ、番になっちゃうよ!」
「……うん、やっぱりダメだ。この子は渡せない、誰にも」
痛みに震える首筋を何度も舐められては噛まれ、その度に体が熱くなっていく。
そして涙に滲んだ視界の中で、籠理さんの瞳が薄暗い光を灯しているのが見えた。
「やっ、どこに連れていくの!? 先生来るまで、ここで待っててって」
「私の家に帰りましょう、狭間くん。番になったんですから、ね」
籠理さんは俺の体を軽々と抱き上げ、教室の出口に向かって歩き出した。
獰猛なαのフェロモンに恐れを成したのか、外にはもう誰もいない。
(逃げなきゃ。このままじゃ俺、籠理さんの未来を潰しちゃう)
籠理さんは本能に狂わされた被害者だ、そして俺なんかと番っていい人じゃない。
俺とは一時的な関係で、いつかちゃんとしたΩを見つけなきゃいけないんだから。
「だめ、だめだよ籠理さん。お願いだから、一緒に先生を待とうよ……!」
「いりませんよ、そんなの。いい子だから、少し寝ててくださいね」
けれど籠理さんは必死の訴えも聞き入れず、俺を抱えて駐車場まで歩いていく。
そして停めてあった車の助手席に俺を座らせ、自身も運転席に乗りこんだ。
(ダメだ。αのフェロモンが濃すぎて、意識が落ちる)
熱のせいで指に力が入らず、シートベルトを自力で外すことも叶わない。
そして車内で飽和するαのフェロモンに、俺の思考は簡単に奪われてしまった。
「私だけのΩ。もう誰にも渡しませんから」
車が動く直前に聞こえた声を最後に、俺の瞼は抗えないほど重くなる。
体からは完全に力が抜け、座席に身を委ねるように意識を手放した。
噎せ返るようなフェロモンが場を支配し、βの友人まで気圧されていた。
当然俺の意識も朦朧とし、体の熱は更に高められていく。
(あぁ、可哀想なことしちゃったな。せっかく助けようとしてくれたのに)
鈴木はαの威嚇に怯えながらも、俺を見捨てることもできず困り果てている。
そして追い打ちをするように、籠理さんは鋭い笑顔で退室を促した。
「もう戻って頂いて結構ですよ。狭間くんは、私が病院に連れて行きますので」
「でも籠理さん、狭間っちのそれって」
鈴木はなにか言いたげにしていたが、攻撃的な籠理さんは発言を許さない。
貼り付けたような笑みを浮かべて、彼を遠ざけようと言葉を重ねている。
「戻っていいと言っているのが、分からないんですか」
口調こそ丁寧だが有無を言わせぬ圧があり、鈴木は再び震え上がる。
このままだと彼は、暴走している籠理さんに巻き込まれるかもしれない。
(なんとかして、彼を逃がさないと。さすがに怪我なんてさせられない)
保護本能に囚われたαは獣に近いと言われ、理性を望むことも難しい。
だから籠理さんを刺激しないよう、俺は慎重に言葉を選んでいく。
「俺は大丈夫だから、行って。……ごめんね、心配して来てくれたのに」
こっちは気にするなとできる限り優しく微笑むと、鈴木は顔を歪めて踵を返した。
けれど俺を諦めたわけではないらしく、最後に籠理さんを強く睨みつける。
「じゃあ俺、せめて先生呼んでくるよ! 二人とも、そこで待ってて!」
「……いらないと、言っているのに」
教室から走り去った友人の背中に、籠理さんの恨めしげな声が向けられる。
だから意識を逸らそうと、俺は気怠くなった指で彼の頬に触れた。
「俺達を心配してくれてるんだよ。あともう離れて大丈夫だよ、籠理さん」
さっきまでは他者がいたが、もうこの教室には俺たち以外誰もいない。
だからαの保護本能を発揮しなくていいと、暗に伝える。
けれど彼は必死に俺を腕の中に閉じ込め、悲痛な声で訴えてきた。
「どうしてですか、貴方は私のでしょう!? 絶対に嫌です、誰にも渡さない!」
「病気なら移るかもしれないし。……万が一発情期なら、もう俺はβじゃない」
籠理さんは俺に強い執着を見せているが、それはβだった時の残骸だ。
今は混乱しているけど、落ち着いたらその感情も消え失せてしまう。
「貴方がΩになったとしても、大切にします。だから逃げないで、狭間くん」
「無理しなくていい。βだから一緒にいたのなんて、最初から分かってるから」
やんわりと籠理さんの胸を押して距離を取ると、彼は絶望したように目を見開く。
その間に俺は痛む心を無視して、これ以上嫌われる前にと口調を早めた。
「今日中に荷物を纏めて、マンションを出ていくよ。残ったものは捨てていい」
「待って、お願いです。ちゃんと話し合いましょう、私、……やだ、嫌だ!」
人と話すことに慣れていない籠理さんを言い包めるのは、難しくない。
けれど彼は会話こそ放棄したが、代わりに俺の首に顔を寄せた。
「籠理さ、やめっ、う、っあ――――――!」
嫌な予感がした時にはもう遅い、籠理さんが俺のうなじに歯を立てた。
呼吸が止まる程の痛みと、僅かに疼くような熱を感じる。
「籠理さんっ、離してよ、痛いってば! やだ、番になっちゃうよ!」
「……うん、やっぱりダメだ。この子は渡せない、誰にも」
痛みに震える首筋を何度も舐められては噛まれ、その度に体が熱くなっていく。
そして涙に滲んだ視界の中で、籠理さんの瞳が薄暗い光を灯しているのが見えた。
「やっ、どこに連れていくの!? 先生来るまで、ここで待っててって」
「私の家に帰りましょう、狭間くん。番になったんですから、ね」
籠理さんは俺の体を軽々と抱き上げ、教室の出口に向かって歩き出した。
獰猛なαのフェロモンに恐れを成したのか、外にはもう誰もいない。
(逃げなきゃ。このままじゃ俺、籠理さんの未来を潰しちゃう)
籠理さんは本能に狂わされた被害者だ、そして俺なんかと番っていい人じゃない。
俺とは一時的な関係で、いつかちゃんとしたΩを見つけなきゃいけないんだから。
「だめ、だめだよ籠理さん。お願いだから、一緒に先生を待とうよ……!」
「いりませんよ、そんなの。いい子だから、少し寝ててくださいね」
けれど籠理さんは必死の訴えも聞き入れず、俺を抱えて駐車場まで歩いていく。
そして停めてあった車の助手席に俺を座らせ、自身も運転席に乗りこんだ。
(ダメだ。αのフェロモンが濃すぎて、意識が落ちる)
熱のせいで指に力が入らず、シートベルトを自力で外すことも叶わない。
そして車内で飽和するαのフェロモンに、俺の思考は簡単に奪われてしまった。
「私だけのΩ。もう誰にも渡しませんから」
車が動く直前に聞こえた声を最後に、俺の瞼は抗えないほど重くなる。
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