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1.Ω嫌いのαと、Ωになってしまいそうなβ編
1-3:Ω嫌いのαと、Ωになってしまいそうなβ編3
しおりを挟む男子大学生しかいない場所に、籠理さんは過剰に洗練された服装で決めてきた。
おかげで待ち合わせ場所にいたβ連中は目を瞬かせた後、全力で冷やかしてくる。
(毎度のことだけど恥ずかしいな。いや、俺だって同じ状況なら囃し立てるけど)
彼氏同伴だの惚気うぜぇだの言いたい放題だが、でもそれだけだからありがたい。
これがΩであれば嫉妬され、αであれば奇異の目で見られるのが常だった。
そして俺達は溜まり場である友人のアパートにお邪魔し、籠理さんと別れる。
薄暗い部屋には映画の予告が流れ、机にはジャンクフードが並べられていた。
「狭間っち、またαの匂いさせてる。βなのに」
鼻の利くβの友人である鈴木に指摘され、俺は目を逸らしながらも隣に座る。
彼は俺と籠理さんの関係をちゃんと知っている、数少ない相手でもあった。
(そんなに匂いがするのかな、確かに不健全なことはしてるけど)
体質も年齢も噛み合わない関係性は、強い不健全さを想起させることが多い。
だから俺が悪いαに遊ばれているのではと、ずっと彼は心配してくれていた。
「あんな恋人みたいな生活してたら、落とすの無理でしょ。ずっと一緒なんだし」
「虫除けとして周囲に見せておくと、籠理さんを狙うΩが減るから。許してよ」
他のβにも茶々を入れられながらも、雑談しているうちに映画の本編が始まる。
低予算丸わかりの映像が流れ、全員が意識を引きずり込まれていった。
「あの人が牽制するの、それだけが理由じゃないと思うけどなぁ」
けれど隣にいる鈴木だけは未だ心配そうに、小声で話しかけてくる。
視線こそ画面に注がれているが、意識は未だ俺に向いていた。
(まぁ、拗れ切った情があるのは俺も分かってるけど)
……だからそれは鋭い指摘だった、けれど俺の考えとは微妙にズレている。
信頼できる他者が少ない籠理さんは、人に向ける感情が重くなりがちだ。
だから俺への執着も、友情との区別がついていない可能性がある。
(だってαは特権階級で、本来βの手が届く相手じゃない)
普通なら俺みたいなβは、籠理さんみたいなαとは接点を持たず一生を終える。
しかしβだからこそ彼に選ばれた事実が、俺に優越感と不安を抱かせていた。
(いつまで続くのかな、この生活)
籠理さんが俺に飽きるか、気に入ったΩが見つかればこの関係は解消される。
けれどそんなこと分かっていたのに、俺は不安定な立場を望んでしまった。
(だって好きな人が求めてくれてるんだ、手を伸ばすしかないでしょ)
籠理さんとの未来なんて存在しないのに、彼の心が移るまでは一緒にいたかった。
だから借りてた住処を手放した時は不安だったけど、選択自体は後悔していない。
(同居を決めた時の嬉しそうな顔、未だに忘れられないし)
大きく目を見開いた後、蕩けるような笑顔で抱きしめてきた瞬間を忘れられない。
あれは映画に映っている女優よりもずっと魅力的で、魔性だった。
そして俺が物思いに耽っていると、いつのまにか映画は終幕に差し掛かっていた。
既に半分以上がスマホを眺め、辛抱強く見ていた鈴木も頭を抱えている。
「ねぇ、もう終わり見えてるんだけど! 時間的にどんでん返しないよね!?」
「……ないと思うし、久々にちょっと見たの後悔してる俺」
主人公たちは盛大な痴話喧嘩をした挙句、泣きながら別れ話をしていた。
このシーンに至るまで伏線もなかったし、あと三分だから劇的な結末も望めない。
(しかしつまんないのは承知してたけど、今見るべきじゃなかったなぁ)
話自体は陳腐なものだが、俺の未来を暗示しているようで勝手に辛くなる。
けれど友人たちは既に感想戦を楽しんでいて、映画を停止することもできない。
(今日見るのが恋愛ものなのは、想定外だったな。油断してた)
今の俺は失恋ソングも聞けない有様で、内容を知っていたら参加しなかった。
結局暗い気持ちを隠せないまま映画は終わり、物語は悲劇で完結する。
そして友人たちは文句を言いながらも、残った食事に手をつけ始めていた。
「いやー、久々に時間ドブに捨てた感じするわ。けど癖になるよな、この感覚」
「分かる、一緒に騒ぐのは楽しいし。次、どれにするかな」
β会はここからが本番で、会合の本質は他愛ない時間を過ごすことにあった。
生産性のない集まりだが、ただ友人がいるという事実に俺は助けられている。
(これが救いだよなぁ、本当。籠理さんとの生活が全てだったら、耐えれなかった)
好きな人と暮らしていても、それがずっと続くわけじゃないのは分かっている。
だからこそ俺は好きな人から離れて、未来に備えることで平静を保っていた。
「狭間っち、なにかあったら俺たちのところにおいでね。β仲間なんだからさ」
「うん、ありがとう。……本当にまずい時は、遠慮なく頼らせてもらう」
事情を察している鈴木も声を掛けてくれ、俺も気を取り直して会話に加わる。
それに冷えたポテトは味がしないけど、友達と一緒だと悪くなかった。
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