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1.Ω嫌いのαと、Ωになってしまいそうなβ編

1-2:Ω嫌いのαと、Ωになってしまいそうなβ編2【R-18】

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 籠理さんは首筋や鎖骨に何度も口付け、熱に浮かされたように跡を残していく。
 β相手にマーキングしても意味ないが、心底楽しそうだから未だ指摘できない。

(それに俺も、彼の匂いに包まれているのが好きだから)

 薄い胸板を撫でる指先に突起を弾かれ、背筋へ鈍感な痺れが走る。
 その間にも籠理さんはもう片方の手でローションを温め、指に絡ませていた。

「狭間くん、中を解しますよ。息を吐いて」
「ん……っ、うぁ……」

 ゆっくりと中に入ってくる指の感触に、俺はシーツを握り締めて耐えていた。
 前戯も丁寧だし、行為も初めてじゃないから痛みはない。

 ――けれどΩじゃないこの肉体は、どうしても異物感を拭えずにいた。

「……嫌なことも性欲も全部吐き出して、楽になりなよ。全部受け止めてあげる」

 口先では余裕のある振りをして、額に浮いた汗を隠しながら、俺は足を広げる。
 すると籠理さんは指を引き抜き、代わりに反り立った性器を宛がってきた。

「精一杯、気持ち良くします。……痛かったら、言ってくださいね」
「大丈夫だよ。籠理さん優しいから、っあん!」

 言葉の途中で挿入され、俺は驚いて嬌声を部屋に響かせてしまう。
 慌てて口元を手で押さえても、籠理さんはその掌越しに口付けてきた。

「可愛い、狭間くん。ね、もっと私で気持ち良くなってください」
「だからっ……耳元で囁くの、やだってば! あ、あっ」

 籠理さんは俺の反応に気をよくしたのか、わざと吐息交じりに囁いてくる。
 その度に俺の体が跳ねて、中に入っている性器を締め付けてしまう。

「本当に可愛いですね、食べてしまいたい」
(可愛いのは、俺なんかに執着してる籠理さんの方だよ)

 彼ならばΩじゃなくても、もっと質のいいβを囲い込むことだって出来る。
 けれど臆病な人でもあるから、知らない相手との関係など築けない。

(だから俺に執着しているのは、偶然が積み重なっただけだ。それでも)

 少しでも彼の情愛を独占したくて、籠理さんに腕をまわして縋りつく。
 すると彼は嬉しそうに微笑んで、俺をぎゅっと抱き返してきた。

(こんな性悪βなんかに引っかかって、一喜一憂してる彼が心底愛おしい)

 条件付きでも愛されるのが嬉しくて、いずれ失うと分かっていても手放せない。
 惨めな恋心は膨らんだまま、今日も性欲処理に消費されていた。



 昨日は籠理さんの気が済むまで抱かれ、一緒にお風呂に入り、ベッドに転がった。
 今日は休日だからこのまま寝てたいけど、先約の為に起きなきゃいけない。

(朝遅いけど、寝たのも遅いからなぁ。でもそろそろ、……うわっ!?)

 けれどベッドから出る直前に服を引っ張られ、再びシーツの海に沈んでしまう。
 その犯人は眠たそうに瞼を擦りながら、俺の腰に抱き着いていた。

「……狭間くん、どこに行くんですか。私が眠っているうちに」
「大学のサークルっていうかβ会。深夜に集まって、評価最低の映画を見るんだよ」

 β会はβのみで構成された大学サークルで、早い話がライトなオタク集団だった。
 最近はクソ映画のプレゼンバトルが流行り、今日はその観戦に誘われている。

「つまらなくないんですか、それ。私と面白いって評判の映画、見ましょうよ」
「みんなで罵詈雑言飛ばしながら見るの、悪くないよ。でも食べ物は買わないと」

 なおも閉じ込めてこようとする腕から抜け出して、俺はベッドから這い出る。
 そして身支度をするが、籠理さんは恨めしそうな目で俺を眺めていた。

「この間集まった時は、全員甘い物買って来ちゃってさぁ。少しはしょっぱいのも「ではまだ、時間ありますよね」」

 スマホと財布だけ持って玄関に向かおうとすると、籠理さんが急に立ち上がる。
 そして俺の背後から腕をまわし、一人にしないで欲しいと甘えてきた。

「少し早く出て、軽食を食べましょう。それと会場までは車で送りますから」
「近いし、別にいいよ。籠理さんだって今日は家で仕事があるでしょ」

 直前まで寝ていたものだから、籠理さんの髪は跳ねているし服は着崩れている。
 それが彼の可愛らしさに拍車を掛けているが、すぐに外出できる姿でもない。

 けれど彼に諦める様子はなく、黒縁眼鏡の奥で愛嬌たっぷりに笑ってきた。

「それは適当に終わらせます。だから待っててくださいね、帰りは迎えにいくので」
「籠理さん、俺はΩでも貴方の番でもないんだけど」

 僅かに痛む心を無視して籠理さんを引き剥がすと、彼は不満げに唇を尖らせた。
 けどそんな顔しないでほしい、本当は俺だってこんな態度は取りたくない。

 でも俺のものにならない人だから、常に最低限の線は意識しないといけなかった。

(体を捧げるのは良いけど、心は取り返しがつくようにしておかないと)

 俺は籠理さんのことが好きだけど、ずっと一緒に入れるとは思っていない。
 最終的にαと番うのはΩで、本気になるほど傷は深くなるばかりだし。

 なのに肝心の彼は無邪気に鼻先を擦り寄せ、愛情深く甘えてくるばかりだ。

「そんなものと混同しませんよ。それ以上に大事ですからね、狭間くんは」
(βに言う台詞じゃない。でもあんまり指摘したら、機嫌を損ねるな)

 以前似たようなことで小競り合いになり、その日はベッドから出てこれなかった。
 そうなれば確実にβ会の玩具になるし、外出直前にぐずられるのは避けたい。

「帰りにレイトショー行って、夜パフェ食べて帰りましょう。全部奢りますから」
「お金は払わなくていいよ。遊ぶのはいいけど、俺達ただの友達でしょ」

 彼からは色んなものを貰っているから、金銭面で負担を掛けたくなかった。
 それに日数は少ないがバイトもしてるし、交友費くらいは自分で払える。

 けれど籠理さんはただ視線を合わせるだけで、簡単に俺を惑わせた。

「私といる時が、一番だって思って欲しいんです。その為の行動は惜しみません」
(友情にして重すぎる感情だけど、他人との交流がない人だし仕方ないか)

 籠理さんは強すぎる自身のフェロモンに弄ばれ、孤独を拗らせた可哀想な人だ。
 Ωどころか全ての人間が怖くなり、俺と出会ってからは執着を抱え込んでいる。

 ……そう言い訳をして、俺は引いたはずの線をまた自分で踏み越えた。

「だから外泊せず、帰ってきてくださいね。じゃないと集まりに乗り込みますよ」

 柔らかい脅迫を交じえながら俺の頬にキスをし、籠理さんは洗面所へと向かう。
 結局一人で外に出ることは許されず、俺は頬に触れながら彼を待つしかなかった。
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