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Chapter 11
対決 ③
しおりを挟む「……だって、そのパールのピンキーリング、あの人と同じなんだもん」
麻琴は稍の右手の小指に視線を落とした。
——しまったぁ。なんとなく「ラッキーアイテム」な気がして、そのままつけてたぁー!
実際のところは婚約破棄するわ、偽装結婚するわで、まったくラッキーなことなんて皆無なのだが……
それでなくても、稍は出社前に家のキッチンで「八木 梢」時代に使っていた「Y」のマグボトルにルイボスティを入れていたところを、たまたま水を飲みに来た智史に目撃された。
『おまえ、それは渡辺が見てた水筒やろうが?バレるぞ、それは持って行くな。ロハスライフで新しいの買うたるから』
呆れた目で見る智史から、すんでのところで阻止してもらった「前科」がある。
通勤のバッグはコ◯チのサッチェルから智史に華丸で買ってもらったプラダのキルティングトート(タブレットを入れるのにちょうどよかった)に変えたし、服も手持ちのものと智史に買ってもらったものとを組み合わせて、違うテイストにしていたのに。
——あぁ、やってしもうた。智くんにバレたら、めっちゃ怒られるぅ……
稍は終業後、麻琴に言われるがままについて行くことになった。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
「……ちょっと、一杯でも引っかけないと、話せないことだから」
そう言って連れて来られたのは、海外でも有名な系列のホテルにあるバーだった。もちろん落ち着いた雰囲気の典型的な「オトナの宿り木」的な店である。
麻琴は「奥、いいかしら?」と若いバーテンダーに目で合図する。
どうぞ、と促されると、彼がスタンバイしているカウンターを素通りし、グレージュの長い髪をなびかせて颯爽と奥のテーブルに向かう。手に持った黒のバルパライソがよく似合っていた。エ◯メスもこんな人に持ってもらえたら本望だろう。
彼女が一人で来たときはカウンターに座って、時折バーテンダーと一言二言会話をして、静かに呑む情景が思い浮かんだ。
奥のテーブル席は、ゆったりしたソファのある居心地のよさそうな空間だった。
腰を下ろすと、バーテンダーがおしぼりを持ってきた。背筋をすっ、と伸ばしてやたらと姿勢がいい。ネームプレートに「杉山」とある。
「最初はビールでいいかしら?」
稍は肯いた。
「仕事帰りでお腹空いてるわよね?」
稍は「いえ…あまり……」と答える。
「あら、そう……実は、わたしもなのよ。でも、空きっ腹にお酒はよくないから」
そう言って、ビールとともにチーズの盛り合わせとトマトのサラダを杉山にオーダーする。
この時間帯は呑みに来るには早いから、ほぼ貸切状態だった。すぐに、豊かな泡のグラスビールとチャージのミックスナッツがやってきた。
「ご結婚、おめでとう」
「……ありがとうございます」
お互いグラスを少し持ち上げて「乾杯」する。
くーっと呑むと、繊細な泡が喉をつぅーっと通っていく。こんな状況でも、やっぱりビールは美味しかった。
「わたしね……あなたに、どうしても聞きたいことがあるの」
麻琴がまっすぐ稍を見つめる。今日一日たっぷり仕事をしたあとだというのに。稍より一歳下なだけの、アラサーだというのに……
彼女はまったくメイク崩れもないし、疲れて精彩を欠いた肌でもない。
——本当に、完璧に、綺麗な女だなぁ。
「……ねぇ、麻生さん。わたしのどこが、ダメだと思う?」
——はい⁉︎
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