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Chapter 11

対決 ④

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   チーズの盛り合わせとトマトのサラダがやってきたので、麻琴がボ◯モアの十二年を頼む。ボトルキープしているものだ。

   スコットランドのアイラ島で、シェリー樽に詰められてじっくり寝かされたシングルモルトのボ◯モアは「アイラの女王」と呼ばれている。

   麻琴に「あなたは?」と聞かれて、稍が「おすすめは?」と尋ねると、
「ここは旬のフルーツを使ったカクテルをオリジナルでつくってくれるのよ」
   麻琴がにっこり微笑んだ。

「では、それで」と稍が答えると、麻琴が「この人のイメージにあったカクテルをよろしく」と杉山にオーダーした。

——カッコいいのになぁ、麻琴さん。もしあなたが男だったら、あたしは今夜確実にオチますけど?

   杉山が稍に「苦手なものはありませんか?」と聞き、稍が首を左右に振る。彼は「かしこまりました」と口元に微かに笑みを浮かべて、呑み干したビアグラスとともに下がって行った。

「……それで、先刻さっきの話の続きなんだけど」

   麻琴が話を戻した。

「新婚のあなたに、気を悪くしないで聞いてもらいたい、と言っても無理な話だとは思うんだけど……わたしね、この二年ほど……青山さんと……男女の仲だったの」

   しかし、稍の表情がさほど変わらないのを見て、麻琴の方が驚いていた。

「……知ってたの?」

   稍は静かに肯いた。

「……そう」

   麻琴はふっ、と気の抜けたように笑った。

「最初、あなたを『八木さん』としてお会いしたときから思ってたんだけど。あなたって、なんだか人の調子を狂わせるところがあるわよね?」

——そ、そんなこと、初めて言われましたけどっ?

「あなたが隣にいるときの青山さんがそうよ。だれにも見せない顔をあなたには見せてる。あの人が初めて『普通のオトコ』に見えたわ。……あぁ、普通に嫉妬するんだって」

——はぁ? いつ、どこで、だれに『青山さん』が嫉妬したというんでしょう?

   稍は「美しすぎる誤解だ」と思った。

「ねぇ、麻生さん……あなたどうして『八木さん』だったの?」

「えっと……それは……話せば長い『事情』がありまして……要するに、青山さんに会いたくなかった、っていうか……」

   稍はどうしても、挙動不審なしどろもどろな説明になってしまう。

「青山さんと『幼なじみ』っていうのは本当なの?」

「はっ、はい、それは本当ですっ。小学校のときの同級生でした。でも、神戸で震災に遭って、お互い引っ越して離れ離れになったっていうか……」

   稍は前のめりになって言う。

「そうだったの……」

   麻琴はふっと真剣な顔になった。だれかに神戸の震災のことを話すと、今までにも決まってされる顔だった。

「じゃあ……なにかそのときに『事情』があって、っていう解釈でいいかしら?」

——詳しく話さなくてもいいんだ。

   気が楽になった。聡明な人だ、と稍は思った。

「いいです、いいですっ、そのとおりですっ」

   稍はこくこく肯いた。

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