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Chapter 5
交錯 ①
しおりを挟む稍は魂を抜かれたかのごとく、テレ◯ムセンターを出て、ゆりかもめに揺られた。途中、新橋で山手線に、神田で中央線に乗り換えた記憶もなかった。
だが、今こうして無事、天沼の1Kのマンションに帰ってきているのだから、きっとちゃんと電車に乗ってきたのだろう。
「……はぁ……どうしょう……」
稍は、歴代の彼氏と違ってどんなにも裏切らない無◯の「体にフィットするソファ・ミニサイズ」へ突っ伏した。
今日は帰ってからずっと、なにも食べていない。食べる気も起こらないのだ。
——いきなり、無職になってしもうたぁ……
すると、そのとき、ローテーブルの上に置いていたスマホから、♪ピンポーンと軽快な着信音が鳴った。
沙知から、GWのお誘いかもしれない。こうなったら、この一ヶ月の経緯をぶちまけて、話を聞いてもらおう。
稍はのそのそと起き上がって、スマホを覗き込んだ。ポップアップされた文字は……
【青山 智史】
——なんで、あいつから⁉︎
青山とは、携番もメルアドもL◯NEのIDも、連絡先を交換した覚えはなかった。なのに【青山 智史】からL◯NEが来た。
タップすると、いつの間にかトークルームがつくられていた。
「……あっ!」
突然、稍は思い出した。
魂を引っこ抜かれてしまって茫然自失となった稍は、『早よ、おまえのスマホ貸せ』と青山の言われるがままに、ポケットの中のスマホを差し出したような気がする。
稍は【青山 智史】とのトークルームをタップした。
【明日、10:00 a.m. に下記の場所へ来い】
【持ち物は、一週間分の着替え】
【二泊ほどのキャリーバッグも必要】
そして、その下にG◯◯gleマップのスクショが添付してあった。
——なんやねん、これ⁉︎
稍は速攻で、ブロックして削除してやろうと思い、L◯NEの「設定」をタップして操作し始めた。
ところが、稍はふと思った。
——あたし、あんなことくらいで「派遣切り」されてもええわけ?
考えてみると、「稍」を「梢」としたことは確かによくないことではあるが、名字の「八木」は現在の戸籍名である。
去年、両親が離婚したのを機に、それまでの「麻生」から母方の姓の「八木」に変えたのだ。
——あいつ、もしかして「八木」の方も偽名やと思ってるんかも⁉︎
稍はあわててトークの画面をタップして、文字を打ち始めたが、なかなかうまく説明できなくて、結局消した。
——こうなったら、通話して直接言うてやるっ!ついでに文句もっ!
稍は「無料通話」をタップした。
「……ちょっとぉ、もしもしっ⁉︎」
何回目かのコールで相手が出た。
『……なんや? なんか用か?』
青山は、ものすごーく不機嫌な声だった。
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