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24. トラウマの告白
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ホテルに着き、まずはお風呂で体を温めた私は、この後に繰り広げられるであろう話し合いを前にユニットバスの中で改めて自分自身に言い聞かせをしていた。
……私の強みは素直さだって教授も言っていたじゃない。だからとことん自分の想いを口にして、航さんと一緒にいたいって伝えよう! 好きな人ができたって聞いても意思を変えさせるくらいの勢いで足掻いてみればいいじゃない!
だって何度考えてみても航さんが居なくなるなんて嫌なのだ。
それなら失わないように頑張るしかない。
気合を入れるため力強く頷いた私は、その勢いでユニットバスから外へ出る。
部屋のベッドの上で寝転がっていた航さんに声を掛け、お風呂は後でにするという返事を聞くと、私もベッドに腰掛けた。
航さんも体を起こしてベッドの上に座ったのを見て、「いよいよ話し合いが始まるのね」と感じた。
ただその前に一言お礼を伝えておきたくて私は先に口を開く。
「あの、今日迎えに来てくれてありがとうございました」
「予告なく待ち伏せる形になって嫌じゃなかった?」
「全然です! 来るとは知らなかったから確かに驚きましたけど、それ以上に嬉しかったです! 私も会いたいって思ってたので。なんで来てくれたんですか?」
「……心配になったから。元カレもいるって聞いていたし、本音を包み隠さず言うと行って欲しくないって思ってた。だから居ても立っても居られずについ来てしまったっていうのが本当のところだよ。カッコ悪いけど」
「えっ、本当ですか? それって……」
「そう、志穂の想像してる通り。嫉妬だよ」
一瞬耳を疑った。
……え? 本当に? 航さんが嫉妬⁉︎
航さんは嫉妬されることはあっても、するイメージが全くなかったのだ。
いつも落ち着いていて、余裕のある感じだから、そんな姿想像できない。
なのに、考えてみれば、待ち伏せとかいきなり現れてハグするとか、確かに結構感情的な行動ではないだろうか。
そう思うと嬉しすぎて顔がニヤけてくる。
思わず口元を隠すために手で覆ったが、それでも溢れ出す喜びは止められずにニマニマしてしまった。
そんな私の様子に航さんは不可解そうにしている。
「嬉しいの……?」
「はい! それってなんか私のことすごく好きみたいじゃないですか! 航さんは嫉妬とかしないと思ってましたから」
バカ正直に嬉しさ全開で答えた私だったが、この言葉をキッカケになにやら話の雲行きが変わる。
航さんが「ん?」と何か引っ掛かるように眉を寄せたのだ。
「今志穂が言った”私のことすごく好きみたい”ってどういう意味?」
「えっ、それは……」
「この前も”彼女として魅力がない”って言葉を漏らしてたね」
私の発した具体的な言葉を挙げて尋ねられた。
どうやらいつの間にか本題に突入しているようだ。
……決めたじゃない。恐れずにとことん自分の気持ちを伝えるって!
ギュッと自分の手を握りしめ、改めて気合を入れ直すと私は「もうどうにでもなれ」とある種の開き直りで口を開いた。
「だって彼氏になる人はみんな私に魅力を感じなくて去って行くことになるから。……航さんの隠し事も他に好きな人ができたとかですよね? 今日はそれを打ち明けようとしてくれてるんですよね?」
「…………は?」
航さんがなんだか驚いたような顔をしている気もするが、気にしない。
勢いに乗った私はもう一気に言ってしまいたくて、構わず言葉を続けた。
「先週はそれを聞くのが怖くて逃げたんです。すみませんでした。でも、今日はちゃんと聞きます。でも航さんに好きな人ができて私から離れていくのは嫌だから、私も全力で抗わせてもらいます! 徹底拒否して、なにがなんでも逃さないです!」
そこまで強く言い切ってから、ふぅと一息つく。
まだ終わったわけではないが、やり遂げた感があり、しばしの充足感に満たされる。
あまりに立て続けに言いすぎたせいか、航さんは呆気に取られたように口を閉ざしていて、しばらくするとテレビの電源を切った。
急に静かになったことで、本格的に話し合いモードに入る雰囲気が生まれてくる。
航さんはベッドの上に座ったまま、私と真正面から向かい合うと、まずは「志穂」と私の名前を呼んだ。
そして続けて私を安心させるようなゆっくりとした口調で問いかけてくる。
「まず聞きたいんだけど、なんで俺に他に好きな人ができたって思ったの?」
「え、だって、ずっとよそよそしかったからです。キスしても私ばっかり求めてるし、ハグだってなんだか最近は私が後ろから抱きついてばっかりでしたし。それできっと私に魅力がないから他の人に惹かれたのかなぁって思いました。指輪を外して以降、航さんのそばには航さん狙いの女の人がたくさんいるのもあって」
「なるほど、そういう思考回路か。最初に否定しておくけど、他に好きな人なんてできてないよ。志穂のことしか見てない。それは嫉妬して待ち伏せするくらいって言ったら伝わる?」
それは他でもない私自身が”私のことすごく好きみたい”と今さっき喜びを爆発させたばかりのことだった。
つまり”みたい”じゃなくて、本当に私のことをすごく好きだと言いたいのだろうか。
でも今の言葉には他にも気になるところがある。
「他に好きな人ができてないって、でもじゃあ航さんの隠し事って何ですか? 隠し事の定番と言えば、他の女性……って思ったんですけど」
「それはあとでちゃんと話すよ。女性関係ではないとだけ断言しておく。それより先に志穂に教えて欲しいんだ。さっきから何度も志穂は”魅力がない”って言葉を口にしてるけど、それはなんで? もしかして元カレが絡んでる?」
鋭い質問にギクリとする。
さっきの勢いはどこへやら、急に私は口を閉ざしてしまった。
「さっき駅で話していた男性は元カレで間違いない? 俺が邪魔する形になってしまったけど、もしかして本当はより戻したかった?」
「えっ? そんなはずないじゃないですか!」
「でも相手は未練タラタラな様子だったけど? それに会話の一部が少しだけ聞こえてきたんだけど、”私じゃダメだった”とか”今なら絶対大丈夫”ってどういう意味?」
「そ、それは……」
「志穂、俺をなにがなんでも逃さないって言ってなかった? もちろん逃げるつもりはないけど、話して欲しいな」
口ごもる私に航さんは私の覚悟を試すようなセリフを投げかける。
確かにあんなに勢いの良かった私はどこへいってしまったのか。
あれほど自分の想いを素直に口にしようと思ったのに。
当初入れた気合を思い出し、この際だからもう開き直ってすべて話してしまおうという心境にだんだんなってくる。
……自分で自分を魅力のない女だと具体例を挙げて話すのはすごく惨めだけど、もうしょうがないよね……!
「分かりました。話します。……その、端的に言うと、私と付き合う人はみんな私にだけセックスの時に勃たないんです! 私に魅力がないからデキないんです……!」
「………付き合う人みんな志穂にだけ勃たない? いや、まさかそんなはずは……」
「本当です。最初のカレは……さっきのあの駅で会った人ですけど、カレは私の初めての彼氏でした。お互い初めてでそういう感じになったんですけどカレが勃たなかったんです。その後何度か試してもダメで。それで結局、浮気されて他の女の子とホテルから出てくるところに遭遇しました。その子とはできたんです。つまり私じゃダメだったんです……」
一度そこで言葉を切り、勢いのまま私はさらに続ける。
次のカレの時のことも話した。
他の女性と経験があるような人でも、私にだけは勃たなかったという経験を述べたのだ。
「――という経験がトラウマになって、セックスが怖くなって、だから彼氏も作りたくないって思いました。でも一方で憧れはあったし、イチャイチャはしたかったんです。そんな時に航さんの事情を知って。誰に対しても勃たないのだったら、セックスに発展することもない上に私にだけってことはないから安心だと思ったんです」
「……なるほど、だからいつも誰に対しても勃たないのは安心って言ってたのか」
「はい。だけどいざ航さんと付き合ってから、さっきも言った通りなんかよそよそしくなってきて。過去の彼氏がみんな私に魅力を感じず勃たなかった経緯から、やっぱり航さんにとっても私じゃ彼女として魅力ないのかなって感じました。そしたら過去に浮気されたこととかも思い出して、隠し事ってきっとそれかなと思うに至ったわけです」
航さんは適度に相槌を挟むだけだったため、ほぼ私が一方的に吐き出すように語った。
この話を聞いて一体航さんはどんなふうに思っているだろうか。
過去の彼氏全員に魅力なしと烙印を押されたような私に幻滅しただろうか。
どんな反応をされるか怖い気持ちを抱えながら恐る恐る航さんの様子を窺う。
すると、へなへなと力が抜けたように航さんの頭が下に降りてきて、私の肩におでこをつけるようにして止まった。
「……航さん?」
「なんだ、そういうことだったのか……」
航さんの声は気の抜けたような力無いものだ。
つぶやくように発された言葉の次には、改めて確認するような言葉が続いた。
「つまり志穂がセックスが怖い、したくないって拒否していたのは、過去の彼氏が勃たなかったからってことで合ってる?」
「……はい、そうです。もうあんなふうに自分は女として魅力がないんだって思い知らされて傷つくのは嫌だったので」
「じゃあ相手が勃つならするのは嫌じゃないの?」
「私だって分かってます。誰彼構わずだったらきっと私に反応する人はいるって。それこそ体目当ての人はいましたし。でも私だって誰でもいいわけじゃないんです!」
「……ごめん、言葉間違えた。俺が言いたかったのは、彼氏が勃つなら嫌じゃない?って聞きたかったんだ」
「正直興味はありますし好きな人とできるなら……って想いはあります。でもその人が勃たなかったらって思うと怖いです。それに航さんに対してそれを考える必要はないですよね?」
そう問い返すと、航さんは肩から顔を上げ、私の目を見た。
その真剣な眼差しからなんとなく航さんがこれから隠し事の話をしようとしているのを感じた。
「志穂が話してくれたから俺も隠し事を打ち明けるよ。それのせいで志穂のこと、ちょっとだけ避けてた。だから志穂がよそよそしいって感じていたのは当たってるよ」
「やっぱり……! でも女性関係じゃないんだったら何なんですか?」
「そうだな、もう感じてもらった方が早いかも」
そんな謎の言葉をつぶやくやいなや、航さんは突然私を引き寄せて正面からギュッと強く抱きしめた――。
……私の強みは素直さだって教授も言っていたじゃない。だからとことん自分の想いを口にして、航さんと一緒にいたいって伝えよう! 好きな人ができたって聞いても意思を変えさせるくらいの勢いで足掻いてみればいいじゃない!
だって何度考えてみても航さんが居なくなるなんて嫌なのだ。
それなら失わないように頑張るしかない。
気合を入れるため力強く頷いた私は、その勢いでユニットバスから外へ出る。
部屋のベッドの上で寝転がっていた航さんに声を掛け、お風呂は後でにするという返事を聞くと、私もベッドに腰掛けた。
航さんも体を起こしてベッドの上に座ったのを見て、「いよいよ話し合いが始まるのね」と感じた。
ただその前に一言お礼を伝えておきたくて私は先に口を開く。
「あの、今日迎えに来てくれてありがとうございました」
「予告なく待ち伏せる形になって嫌じゃなかった?」
「全然です! 来るとは知らなかったから確かに驚きましたけど、それ以上に嬉しかったです! 私も会いたいって思ってたので。なんで来てくれたんですか?」
「……心配になったから。元カレもいるって聞いていたし、本音を包み隠さず言うと行って欲しくないって思ってた。だから居ても立っても居られずについ来てしまったっていうのが本当のところだよ。カッコ悪いけど」
「えっ、本当ですか? それって……」
「そう、志穂の想像してる通り。嫉妬だよ」
一瞬耳を疑った。
……え? 本当に? 航さんが嫉妬⁉︎
航さんは嫉妬されることはあっても、するイメージが全くなかったのだ。
いつも落ち着いていて、余裕のある感じだから、そんな姿想像できない。
なのに、考えてみれば、待ち伏せとかいきなり現れてハグするとか、確かに結構感情的な行動ではないだろうか。
そう思うと嬉しすぎて顔がニヤけてくる。
思わず口元を隠すために手で覆ったが、それでも溢れ出す喜びは止められずにニマニマしてしまった。
そんな私の様子に航さんは不可解そうにしている。
「嬉しいの……?」
「はい! それってなんか私のことすごく好きみたいじゃないですか! 航さんは嫉妬とかしないと思ってましたから」
バカ正直に嬉しさ全開で答えた私だったが、この言葉をキッカケになにやら話の雲行きが変わる。
航さんが「ん?」と何か引っ掛かるように眉を寄せたのだ。
「今志穂が言った”私のことすごく好きみたい”ってどういう意味?」
「えっ、それは……」
「この前も”彼女として魅力がない”って言葉を漏らしてたね」
私の発した具体的な言葉を挙げて尋ねられた。
どうやらいつの間にか本題に突入しているようだ。
……決めたじゃない。恐れずにとことん自分の気持ちを伝えるって!
ギュッと自分の手を握りしめ、改めて気合を入れ直すと私は「もうどうにでもなれ」とある種の開き直りで口を開いた。
「だって彼氏になる人はみんな私に魅力を感じなくて去って行くことになるから。……航さんの隠し事も他に好きな人ができたとかですよね? 今日はそれを打ち明けようとしてくれてるんですよね?」
「…………は?」
航さんがなんだか驚いたような顔をしている気もするが、気にしない。
勢いに乗った私はもう一気に言ってしまいたくて、構わず言葉を続けた。
「先週はそれを聞くのが怖くて逃げたんです。すみませんでした。でも、今日はちゃんと聞きます。でも航さんに好きな人ができて私から離れていくのは嫌だから、私も全力で抗わせてもらいます! 徹底拒否して、なにがなんでも逃さないです!」
そこまで強く言い切ってから、ふぅと一息つく。
まだ終わったわけではないが、やり遂げた感があり、しばしの充足感に満たされる。
あまりに立て続けに言いすぎたせいか、航さんは呆気に取られたように口を閉ざしていて、しばらくするとテレビの電源を切った。
急に静かになったことで、本格的に話し合いモードに入る雰囲気が生まれてくる。
航さんはベッドの上に座ったまま、私と真正面から向かい合うと、まずは「志穂」と私の名前を呼んだ。
そして続けて私を安心させるようなゆっくりとした口調で問いかけてくる。
「まず聞きたいんだけど、なんで俺に他に好きな人ができたって思ったの?」
「え、だって、ずっとよそよそしかったからです。キスしても私ばっかり求めてるし、ハグだってなんだか最近は私が後ろから抱きついてばっかりでしたし。それできっと私に魅力がないから他の人に惹かれたのかなぁって思いました。指輪を外して以降、航さんのそばには航さん狙いの女の人がたくさんいるのもあって」
「なるほど、そういう思考回路か。最初に否定しておくけど、他に好きな人なんてできてないよ。志穂のことしか見てない。それは嫉妬して待ち伏せするくらいって言ったら伝わる?」
それは他でもない私自身が”私のことすごく好きみたい”と今さっき喜びを爆発させたばかりのことだった。
つまり”みたい”じゃなくて、本当に私のことをすごく好きだと言いたいのだろうか。
でも今の言葉には他にも気になるところがある。
「他に好きな人ができてないって、でもじゃあ航さんの隠し事って何ですか? 隠し事の定番と言えば、他の女性……って思ったんですけど」
「それはあとでちゃんと話すよ。女性関係ではないとだけ断言しておく。それより先に志穂に教えて欲しいんだ。さっきから何度も志穂は”魅力がない”って言葉を口にしてるけど、それはなんで? もしかして元カレが絡んでる?」
鋭い質問にギクリとする。
さっきの勢いはどこへやら、急に私は口を閉ざしてしまった。
「さっき駅で話していた男性は元カレで間違いない? 俺が邪魔する形になってしまったけど、もしかして本当はより戻したかった?」
「えっ? そんなはずないじゃないですか!」
「でも相手は未練タラタラな様子だったけど? それに会話の一部が少しだけ聞こえてきたんだけど、”私じゃダメだった”とか”今なら絶対大丈夫”ってどういう意味?」
「そ、それは……」
「志穂、俺をなにがなんでも逃さないって言ってなかった? もちろん逃げるつもりはないけど、話して欲しいな」
口ごもる私に航さんは私の覚悟を試すようなセリフを投げかける。
確かにあんなに勢いの良かった私はどこへいってしまったのか。
あれほど自分の想いを素直に口にしようと思ったのに。
当初入れた気合を思い出し、この際だからもう開き直ってすべて話してしまおうという心境にだんだんなってくる。
……自分で自分を魅力のない女だと具体例を挙げて話すのはすごく惨めだけど、もうしょうがないよね……!
「分かりました。話します。……その、端的に言うと、私と付き合う人はみんな私にだけセックスの時に勃たないんです! 私に魅力がないからデキないんです……!」
「………付き合う人みんな志穂にだけ勃たない? いや、まさかそんなはずは……」
「本当です。最初のカレは……さっきのあの駅で会った人ですけど、カレは私の初めての彼氏でした。お互い初めてでそういう感じになったんですけどカレが勃たなかったんです。その後何度か試してもダメで。それで結局、浮気されて他の女の子とホテルから出てくるところに遭遇しました。その子とはできたんです。つまり私じゃダメだったんです……」
一度そこで言葉を切り、勢いのまま私はさらに続ける。
次のカレの時のことも話した。
他の女性と経験があるような人でも、私にだけは勃たなかったという経験を述べたのだ。
「――という経験がトラウマになって、セックスが怖くなって、だから彼氏も作りたくないって思いました。でも一方で憧れはあったし、イチャイチャはしたかったんです。そんな時に航さんの事情を知って。誰に対しても勃たないのだったら、セックスに発展することもない上に私にだけってことはないから安心だと思ったんです」
「……なるほど、だからいつも誰に対しても勃たないのは安心って言ってたのか」
「はい。だけどいざ航さんと付き合ってから、さっきも言った通りなんかよそよそしくなってきて。過去の彼氏がみんな私に魅力を感じず勃たなかった経緯から、やっぱり航さんにとっても私じゃ彼女として魅力ないのかなって感じました。そしたら過去に浮気されたこととかも思い出して、隠し事ってきっとそれかなと思うに至ったわけです」
航さんは適度に相槌を挟むだけだったため、ほぼ私が一方的に吐き出すように語った。
この話を聞いて一体航さんはどんなふうに思っているだろうか。
過去の彼氏全員に魅力なしと烙印を押されたような私に幻滅しただろうか。
どんな反応をされるか怖い気持ちを抱えながら恐る恐る航さんの様子を窺う。
すると、へなへなと力が抜けたように航さんの頭が下に降りてきて、私の肩におでこをつけるようにして止まった。
「……航さん?」
「なんだ、そういうことだったのか……」
航さんの声は気の抜けたような力無いものだ。
つぶやくように発された言葉の次には、改めて確認するような言葉が続いた。
「つまり志穂がセックスが怖い、したくないって拒否していたのは、過去の彼氏が勃たなかったからってことで合ってる?」
「……はい、そうです。もうあんなふうに自分は女として魅力がないんだって思い知らされて傷つくのは嫌だったので」
「じゃあ相手が勃つならするのは嫌じゃないの?」
「私だって分かってます。誰彼構わずだったらきっと私に反応する人はいるって。それこそ体目当ての人はいましたし。でも私だって誰でもいいわけじゃないんです!」
「……ごめん、言葉間違えた。俺が言いたかったのは、彼氏が勃つなら嫌じゃない?って聞きたかったんだ」
「正直興味はありますし好きな人とできるなら……って想いはあります。でもその人が勃たなかったらって思うと怖いです。それに航さんに対してそれを考える必要はないですよね?」
そう問い返すと、航さんは肩から顔を上げ、私の目を見た。
その真剣な眼差しからなんとなく航さんがこれから隠し事の話をしようとしているのを感じた。
「志穂が話してくれたから俺も隠し事を打ち明けるよ。それのせいで志穂のこと、ちょっとだけ避けてた。だから志穂がよそよそしいって感じていたのは当たってるよ」
「やっぱり……! でも女性関係じゃないんだったら何なんですか?」
「そうだな、もう感じてもらった方が早いかも」
そんな謎の言葉をつぶやくやいなや、航さんは突然私を引き寄せて正面からギュッと強く抱きしめた――。
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