【完結】彼女の前世がニホンジン? このままでは婚約破棄しかない!

さんかく ひかる

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14 それでも結婚したい

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 新聞に掲載された僕と留学生クシナダとの醜聞。
 これらにどう対処するか僕と両親は話し合っていたのに、よりによって父は、メアリとの婚約破棄を持ちかけた。まだ定めた期限まで一週間あるのに。

「お前の浮気にメアリが怒って婚約破棄。これならメアリには非がない。王家に傷はつくが、偉大な我が父上もブレンダ夫人との噂はあったからな。またか、と思われるだけだ」

「お義父様だけではなく、あなたもそうでしょうに!」

「すまぬ。が、かの夫人とはもう終わったことだ。ロバート、お前の相手は異国の姫君で、帰国したそうだな。それなら結婚を押し付けられることもあるまい。良い選択だった」

「本当にクシナダ嬢とはなにもないのに、納得できません!」

「ではメアリが悪魔つきだからと、全国民に明かすのか?」

 父がグイっと身を乗り出し、僕を睨みつけた。
 確かに……婚約破棄をするなら僕の浮気を理由にした方が傷が浅く済む。

「お前が悪魔つきは心の病と言うから医師たちに聞いてみたが、治すのが難しい病と聞くぞ。どちらにしても彼女は無理だ」

 母がため息を吐く。

「ロバート。残念だけど、メアリさんのことは諦めて。王家の妃はね、生まれや美貌より、心の強さが大切なの。夫の浮気に傷ついても、笑顔で民に向かって手を振るのが、妃の務めなのよ」

 だからといって、メアリには何の非もない。僕はオークの年代物の机を叩いた。

「父上! 来月の結婚式を中止しても構いません。しかし、妃は彼女でなければ務まりません。彼女が治るまで何か月、いや何年でも待ちます」

 父オリバー五世は腕組みして考え込んでいる。

「王家を繋ぐのに何年も無駄にしたくない。他の令嬢を探すべきだ。年頃の令嬢はすぐ他家へ嫁ぐからな。アンドリューのように王家に忠実な貴族は、そう簡単に見つからない」

「だったら、なおさらメアリの回復を待つべきです!」

 父は窓辺に立ち外を見下ろした。彼の目には宮殿中庭の噴水が映っているのだろう。
 オリバー五世が、顔を向けた。

「そこまで主張するなら、結婚式は……中止ではなく延期だ。延期の口実にこの記事を利用することには変わらない」

 父は窓を背に、心なしか微笑んでいる。
 母が父と目を合わせて、頬を緩ませた。

「ロバートの気持ちが変わらないのなら、私もメアリさんの回復をもう少し待ちましょう」

 両親の穏やかな眼差しが、僕に注がれる。

「で、では僕とメアリの結婚を認めてくれるんですね」

「認めたわけではない。メアリが悪魔つきだろうが心の病だろうが、今のままでは認められない」

 待てばいつかメアリと結婚できる! もうダンスパーティーで、虚しく他の令嬢と踊る必要はないのだ。

「父上! 母上! ありがとうございます」

「ペンブルック伯夫妻に、この騒ぎを釈明しろ。言い訳は無用だ。お前の誠意を見せろ」

「はい! いますぐ行ってまいります!」

 僕は国王の書斎を飛び出した。


「殿下、滅相もございません」

 ペンブルック伯爵邸の応接間で、夫妻は僕の謝罪を受け入れた。

「殿下のお人柄は存じております。むやみやたらに女性を傷つける方ではございません」

「今さら弁明しても仕方ないが、クシナダ嬢とは何もない。僕が油断してこのような事態を招いてしまった」

「新大陸の女性は積極的なのですよ。私の研究室の留学生もそうでした。殿下のお人柄に惹かれて、このような振る舞いにでただけかと」

「ペンブルック伯、助かる。あなたの好意に漬け込むようだが、これを期に結婚式を延期してよろしいだろうか?」

「いえいえ、娘に殿下の妃という重責が務まるとは思えません。どうかその役目は、もっと優れた令嬢にお願いします」

「伯爵、私はどうしてもメアリを妃に迎えたいのだ。彼女の回復を待つことにしたい。その……まだ王都には戻れそうもないのか?」

 伯爵の目が泳ぎだした。と、夫人がにこやかに切り出した。

「実は、本日夕刻に、娘が戻ることになっております」

 伯爵は夫人の腕を「おい」と突くが、夫人は振り切った。

「できれば、一目でも会っていただけませんか?」


 メアリの帰宅を、僕は伯爵の書斎で待った。伯爵は、興味深い研究話を聞かせてくれた。

「殿下がご紹介してくださった原子論学者に、エリオン時代の遺跡の年代を測定してもらったのですよ」

「それはよかった。遺跡の年代は変わったのか?」

「それが……」

 伯爵が首を捻っている。

「いくつかの遺跡が千年も時代が遡るとわかり、困惑しているところです」

「エリオン時代から千年遡る? 今から二千年前……つまり聖王アトレウスの時代ではないか!」

「……これまでの研究を大幅に見直さなければなりません」

「喜ばしいことではないか! 我が国の文明が二千年前から進んでいたことの証であろう?」

 古いと思われていた遺跡が新しかったとなると少々落胆する。が、今回はその逆だ。より古いと判明したことは、その遺跡の価値が高まるように感じられる。

「……そうですね。が、私のような年寄りは、すぐには頭が切り替えられないもんです」

 確かに新たな発見でこれまでの研究を否定されるとなると、単純に喜んではいられないだろう。
 そのように歴史談義に花を咲かせていたところ、伯爵邸の執事がメアリの帰宅を告げた。


 メアリが戻ってきた! この一か月どれほど待ちわびたことか。
 僕はいたたまれず、玄関ホールに駆け出した。
 質素なコートに身を包んだメアリが、メイドと共に現れた。少し痩せたようだ。クマダ博士の治療が影響しているのだろうか?
 僕に気がついた彼女が「え? なんで、ロバート様が?」と戸惑っている。戸惑う彼女も愛らしい。
 駆け寄り抱きしめたくなるが、伯爵夫人が「良かった! ほら殿下もお前を案じてくださったのよ」と、ねぎらい彼女を抱きしめた。
 そのまま伯爵夫妻と共に、四人でティータイムとなった。


「お父様、あの遺跡は、アトレウス聖王の時代だったのですか?」

「原子論によるとそうなる。歴史だけの問題ではない。これが本当のことなら、史司の方々はなんとおっしゃるか……」

「そうですね……私は……いえ、なんでもありません」

 メアリはペンブルック伯と話し込んでいる。彼女の専攻は近代文学だが、父親から歴史についても薫陶を受けているらしい。僕はよくこの光景を目にする。

「あなた、そろそろ私たちは、ね?」

 夫人が気を効かせたのか、伯爵を促し応接間から去っていった。


 ようやくメアリと二人きりになれた。長い一か月だった。メアリの手を取り彼女を立たせ、強く抱きしめる。

「会いたかったよ」

「はい……私も」

 そのままソファに腰を下ろす。彼女の温もりをずっと感じていたいが、話すことが山ほどある。

「メアリ、その……クマダ博士の治療は?」

 悲しげに婚約者は首を降った。

「そうか」

 僕はブルネットの巻き毛に指を滑らせた。
 覚悟はしていた。彼女の妄想が改善されないことを。

「その、こういうことがあった」

 僕は新聞の切り抜きを取り出して、例の写真を見せた。
 はからずも、クシナダに唇を奪われた写真を。
 逃げるわけにいかない。彼女にどれほど軽蔑されても、ここで逃げるわけにはいかない。
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