【完結】彼女の前世がニホンジン? このままでは婚約破棄しかない!

さんかく ひかる

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15 再会

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 メアリと一月ぶりに会えた喜びを味わっていたいが、それだけでは済まされない。
 僕は彼女に、クシナダに唇を奪われた写真を見せた。

「遅かれ早かれ君の知るところになるから……信じられないだろうが、僕の意志ではない。クシナダ嬢が一方的に仕掛けたんだ」

 メアリは食い入るように記事を読み込んでいる。表情が見えない。
 以前は、クシナダの馴れ馴れしさに怒りを見せていたのに。

「ああ、そういうことでしたか」

 抑揚のない声が、かえって恐ろしい。
 母はよくダイニングで父の愛人について詰っていたが、なにを思っているのかわからない方が怖い。

「今まで触れてくれなかったロバート様が、あの日、突然私を訪ねて抱き締めてくださった理由がわかりました」

「え? あの日?」

「写真が撮影された日と同じですよね?」

 日付? 当の僕も、あれが何日だったのか覚えていないのに?

「前世も含めて初めて口づけした日ですから。忘れられません」

「……君に軽蔑されても仕方ない。が、本当はもっと前から君を抱き締めたかった。なのに……」

 メアリはクシナダに嫉妬をしたと言っていた。どんな言葉なら彼女は納得できる? クシナダに一方的に口づけを仕掛けられたことは納得しても、同じ日にメアリに同じ行為をしたのは僕の意志だ。
 メアリからしたら、僕は不実極まりない……え?

 僕の唇は、また柔らかな感触に包まれた。

 あの時と同じように油断した。
 メアリの手のひらが、僕の両頬を撫ぜる。

「私からこうすれば良かったのでしょうか?」

 緑色の眼が輝き、頬が薔薇色に染まっている。
 今ほど、自分がエリオン教徒であることを恨めしく思ったことはない。
 魔王が僕に呪いをかけ、獣に変身させてくれればよかったのに!
 僕は父に宣言をした。

『メアリが治るまで、何か月でも何年でも待つ』

 無理だ。何年どころか、一日も待てない。

「君と会った日にこうすれば良かったんだ!」

 強く抱きしめ、何度も口づける。それ以上進みたくなる衝動を堪えて、僕は彼女に提案した。

「君もお父上も嫌がるだろうが、式を挙げる前に共に暮らすのはどうだろうか? 環境が変われば病が治るかもしれない」

 メアリは目を丸くさせた。良家の令嬢に対してひどい話だ。

「一緒に暮らす? 式の前にそのようなことが可能でしょうか?」

「君に太子宮の侍女を務めてもらうのはどうだ? 妃教育の一環として」

 先祖の王たちの多くは、妃の他に侍女という名目の愛人を囲っていた。
 僕も同じだ。国民の全てから祝福されるべき女性に、愛人になれと命じているのだから。
 それなのにメアリは、僕に極上の微笑みを見せてくれた。

「ロバート様に侍女としてお仕えできるなんて……夢みたい!」

 心優しい彼女が僕にしがみついてきた。ここが伯爵邸でなければ、僕は彼女の全てを奪っただろう。
 メアリは照れくさそうに「ごめんなさい、嬉し過ぎて」と離れた。

「でも国王王妃両陛下は反対されましょう。私はロバート様のお気持ちだけで充分です」

「いや、君が賛成なら両陛下を説得するよ。その前にお父上に殴られる覚悟で、お願いをしないと」

「父は理解してくれます。どのような形であれ王家に尽くすのが私たちカートレット家の使命だと、父は申しておりますので」

 ペンブルック伯は、受け入れてくれるだろう。僕は伯爵の忠誠心を利用してまで、メアリを手に入れようとしている……正式に妃として遇する見込みがないのに。

「僕は伯爵に甘えてばかりだな」

「私も、両親の優しさに甘えてばかりです」

「君はお父上とよく話しているね。先ほど遺跡の年代のことで、盛り上がっていた」

 メアリの顔から輝きが失せた。

「その遺跡のことですが……気になることがありまして」

「遺跡を原子論の技術で鑑定したら、年代が千年も遡ったことか。お父上が頭を悩まされていたね」

「どうか気を悪くなさらないで欲しいのですが」

「君も早速頭を悩ませているわけか。僕の気が悪くなるわけがない。新しい発見は喜ばしいことだ」

 先ほど抱きあい顔をほころばせたメアリは、どこへ行った?

「問題の遺跡は……聖王アトレウスの都の近くにあります」

「なんと! では聖王の治世について、ますます研究が進むわけだな」

「ええ、以前は、魔王ネクロザールの時代と考えられていた遺跡です……状況からして……」

 魔王の時代の遺跡が、実は聖王の時代だと判明した? メアリはなぜ顔を曇らせている。

「その遺跡とは、幼い子供の多量の人骨です。どの骨も首が切断されていました」

 メアリは今、なんと言った? 聖王の都の近くから、子供の骨?

「むごい遺跡ですから、魔王ネクロザールが支配した時代の物と考えられていたのですが……」

「ま……まさか……聖王が? そんな……」

「申し訳もありません」

「君が謝ることではない」

 魔王ネクロザールは、自分が聖王アトレウスの生まれ変わりだと人々を騙した。聖妃アタランテを復活させると嘯き、幼子を次々と手に掛けた。
 魔王の残虐さは伝承だけではなく、遺物からも確認されている。

「子供の人骨の遺跡のうちいくつかは、千年前と同定されました。魔王ネクロザールの所業は、間違いないのでしょう」

 魔王の悪逆は、『聖王紀』に記されている通りだ。
 しかし、理想の治世を施した聖王の時代から、なぜ痛ましい遺跡が出てきた?
 史師エリオンは、真の聖王の時代を取り戻すため、各地を放浪し聖王の姿を探し求め、魔王が偽物だと暴いたのではなかったのか?

「私、ロバート様の勧めてくださった『聖王紀』ネクロザールの段を、読み直しました」

 僕は力なく頷いた。

「それと……こちらは、テイラー先生の新作です」

 メアリは、ダークパープルの表紙の本を、机に置いた。
 僕は、テイラー女史の小説は淑女の読む本とは思えず苦手だが、メアリが好きなら仕方ない。好きな本を読んで気楽に過ごせばいい、と勧めたのは自分だった。
 表紙には金文字で『闇に舞う約束』と書かれている。

「……気を悪くなさるでしょうが……」

「僕の得意な本ではないが、君に好きな小説があるのはいいことだ」

 たとえ僕好みの本ではなくても、前世の妄想に取りつかれるよりずっとましだ。

「この小説は、魔王ネクロザールの視点で描かれていて……彼は、聖女アタランテを崇拝する普通の青年でした。優しい幼馴染と結婚するはずでしたが、彼女はならず者に殺されてしまいます」

 そんな話は『聖王紀』には書かれていない。テイラー女史の創作だろう。魔王視点の物語とはネールガンドの民としていかがと思うが、作家とは得てしてそういうものだ。

「ネクロザールは復讐に駆られ、自分こそ聖王アトレウス、そして殺された幼馴染を聖妃アタランテだと思いこみます。愛する彼女を復活させようと、残虐な儀式に手を染めるのです」

「作家の想像力に敬意を示そう。が、ネールガンドでその本はいただけないな」

「先生もそれを恐れ、エリオン教が普及していないマラシア大陸で売り出すと、手紙に書いてありました」

「史師エリオンの教えが異国に間違って広まるのは、どうか……」

「ロバート様はお気に召さないでしょうが、私は感動しました……あ、決して魔王の所業に共感したわけではありません。どんなに悲しくとも、無垢な子供たちを犠牲にしてはなりません」

 イリス勲章授与式の出来事を思い出す。彼女はテイラー女史と喜々と盛り上がり、『魔王が素敵』など未来の王妃としてあるまじき発言をしていた。

「私はこれらの書物と遺跡から、ひとつの仮説を思いつきました。ロバート様はお怒りになり、私と共に暮らす気持ちも失せましょう……それでもあえて申し上げます」

 僕はメアリの頬に指を滑らせた。

「君がなにを言おうが、僕の気持ちは変わらないよ」

 婚約者の喉が大きく鳴った。

「……魔王ネクロザールは、真実、聖王アトレウスの生まれ変わりではないのでしょうか?」
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