ポラリスの箱舟

二色燕𠀋

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Film 6

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 互いに一口飲み、少し落ち着いた雰囲気はいきなり言葉を無くしてしまった。
 少しの間、互いの喉が鳴る音がするのだが、「南沢さん」と雨川が切り出す。

「…いつからだったんですか」
「…あぁ、」

 何がと言わずともわかる。互いに同じことを考えていた。

「…なんというか、エゴに近いものだってあるからさ、例えば何年何月何日とか」
「あ、大丈夫です。普通の方でもこういうのを聞くとき、そーゆー答えは求めてないはずなので、小学生以外は」
「…うんそっか」
「質問を変えましょうか、それが違うものだと自覚するきっかけってあったんでしょうか」
「…う~ん…。
 いや、違うものにも変化はしていないような、なんだろう、エゴも愛も混在しカオス状態と言うのでしょうかねぇ…」

 言ったあと南沢は「てか、恥ずかしいねこれ、」と照れたように続けた。

「そうですか?俺的には宇宙の現象を見ているような気分ですけど」
「あぁ、そう?え、そんな感じ?ある意味脈なし感で恥ずかしい気もするけどそう言われると広大でどーでもよくなってくるね、」
「いや、興味はある、てやつですよ。あんたの問診と変わりなくないですか」
「あー、その例えすっごく分かりやすいわ、何?じゃぁ脈拍数値低めだけど血は通ってるくらいの感じ?」
「ん~まあ……」

 今度は雨川が照れたようだ。
 冷静になってみようと試みると、一体この会話はなんなんだろうかと思える。

「…てか、なんなんすかねこの会話」
「…そこ冷静になるのダメじゃない?あとはストレートに行く以外逃げ道なくなるじゃん」
「なるほどですね、気持ち悪い」

 自分達はもしかするとわりと変なやつらなのではないか、と薄々気付きそうになってくる。

「…まぁ、なんというか俺も悪い気はしませんよ?多分。うーん、多分。まぁ正直わからないというのがお答えで、って、あれ、こういうときって大体答えが必要ですよね?」
「あ、うんそうだねありがとう」
「なんというか…宇宙くらい広大なので謎が多いんですよ。俺も自分自身がまず謎だし南沢さんなんて持っての他謎で」

 ほほ~ん。
 途端に南沢の下心が吹き上がる。

「それを研究したいのが、研究者だね。
 俺はね、ソラとも……いや、何より君と、その謎は解明したいなとずっと思っていたから」
「変態臭いですねやっぱり」

 失敗だったかもしれない。下心はどうやらバレたらしい。

「…まぁ、わからなくもないんですけどね、その気持ちは。俺も研究者なんで」
「……は?」
「いや、は?はどうかと」
「あいやごめん純粋にびっくりした。いまの流れ絶対バッサリ切られて終わりな雰囲気じゃん」
「そうですかね?」
「う~ん、多分」

 ん?

「…と、言うことは………、ま、満更でもない?」
「ん~、どうですかねぇ。まぁ悪い気はしない、と」
「え?マジで?俺なんて君から見ればゴミというかカビというかゴキブリくらいに」
「ちょっとやめてもらえません?俺基本的に汚いものは無理で」
「あーあーごめん、うん今のデリカシーゼロだね反省するわ。でも俺は汚物くらいのもんだと」
「汚物なら隣にいて欲しくないですよね、いま。あ、うんそうだな、ゴミなら側にあったら嫌だわ」
「え?なに、マジで?」

 間があって。
 顔を反らした雨川が「ゴミ以上宇宙以下で」と言う珍回答を施したのだが。

「あっそう…」

 じわじわと南沢のツボが押され、「えぇ、そう?わぁ、マジか」とにやにやにやにやし始めた。

「待って待って俺いま処理しきれないかも、わぁ、ちょっと待ってまた泣きそうかも」
「…変態的に素直ですよね、うんまぁ解釈に任せ」
「結婚しない?」
「早っ、シンプルすぎてどうかしてる」
「あ、あ、そうだね、あれだね、宇宙くらいぶっ飛んだよね、はは~ごめーん」
「第一…」

 自分が何者かわかっていない。それにすら手を出せないでいるのに想像が出来ない。

 南沢はふと「雨川くん」と呼んでから「…真冬、」と言い直す。
 にやにやでもなく優しい顔をしていた。

「…じゃぁ、手繋いでいい?」
「え、」

 ナニソレ、それ所謂童貞臭いってやつじゃないのと雨川が思っていれば返答もないままに手を絡められた。
 視線を下に落とした南沢が「手汗とか嫌だったら離すから」と言う。

 南沢が対処に、困っているなんて。

「ん、まぁ、はい…、それくらいなら」
「…ホントに?」
「まぁ、限界までは」
「…ありがとう。俺も限界まではこれで我慢する…」

 それからもう一度、「ありがとう」と言う南沢の声は震えているような気がする。
 見てやろうかと思ったら「ナツエちゃんアイスー!」とソラの元気な声とドアが開く音がした。
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