Get So Hell? 3rd.

二色燕𠀋

文字の大きさ
123 / 129
Get So Hell?

後編6

しおりを挟む
 “必死に生きる”とは、随分不安定な言葉だ。必ず死ぬように生きる。確かに、そうなのだが。

 覚えているのは…檀家にはそれぞれ籍の証明として一筆を残した…筈、閉めの手続きを考えると。台帳は手元にあった。
 きっとすぐに、故人や屋号の照合の手続きが済んだ筈だ。

 数々、あったことやしてきたことは覚えているが、気付けばいつの間にか関わった人物や細かな記憶がどうにも、ごっそり抜けている期間があると…実は最近気付き始めている。

 こう、後悔する面が見つかる度より確信に変わってきていて。

 西郷も木戸も見て“わかった”。ただそれだけで、話していても沖田の顔もピンとくるような来ないような、土方の顔なんて全く覚えていないような。

 単純に年月が経ったからかもしれないけれど…北海道での開拓すらいつの間にかやっていた。

 時間がない方が却って良かったのかもしれないと、朱鷺貴はまだ迷いながらひとまずはと、進み悪く善福寺に向かう。

 …あぁ、あれ、本気でどこだ…ただ、少し先が明らかに拓けている…いや、どちらかと言えば前より…そうだ、建物の配置具合が一気に変わった。

 もしや、と思い当たったら早かった。
 寺は、坂の上にある。あぁそうか、道の整備をしたのだろうな、昔は「小山」の印象だった。

 辺りは田畑と、景観に似つかわしくないレンガ造りのお堅そうな建物がポツポツとある。

 あぁ、多分、あの寺だ。
 無心に歩くことにも、どうやら慣れていたようだ。

 石段が見え、いや、かなり疲れたぞと一度座った。流石に登るのには覚悟がいる歳になったものだ…と一息吐いてはっと周りを見渡した。

 ──白昼、記憶にある風景とは少し違う、あの空き家すらなくなったみたいだが、まるで時が止まってしまった寺の空気に、そうか、自分はかつてここにいたのかと、妙な気持ちになる。

 ……詳しくは聞いていないが確か嫁さんは…父親と住職の世話をしていた。

 …多分、そう。

 悲しい現実が待っていると思う。
 この寺にいるのだろうな。父親がここに葬られているのだから。

 死後の世界があるとする。だとしたら皆は今逢えているだろうか、だなんて…くだらないな。

 そんなものは関係がなくなってしまった事情だ。虚空とはそういうものである。だから、人は答えを求められず与えられもしない。
 “悟り”はただの折り合い、幻想だ。人により様々で乖離がある。

 そんな場所。
 急ぐことはない。

 少し散歩しよう。

『 城下の、川沿いの桜が満開だそうで。川を花が流れて行くんがええと』

 広大な池。今は薄い氷が張っている。

『わては川よりも、池の方が好きですよと言うたんですけどね』

 ……そんなようなことを言っていた。花弁が川を流れる様を、三途の川のようで嫌だとかなんだとか…。

 あの時、自分がなんと返事をしたか、全く覚えていない。しなかったような気もする。

 不思議だ。
 池は寒々と見える。まわりは白く大きな池で、春には桜が流れるような綺麗な場所…。

 こうしてゆっくり眺めたのは、どうだったかな、初めてなような気さえする。多分、本当は何気なく見ているはずなのに。

 桜の季節まで、もう少し。

 翡翠は最期、どうだったか…。
 嫁さんに逢えたのだろうか。死に目はきっと…沖田が近藤の死を知れなかったように…。

 時を忘れそうになる。
 …戻るか。

 背にしてまた石段が視界に入り気付く。
 覚悟?なんの覚悟だというのか。多分今この景色を見ようと思ったのは一瞬の心の逃げだ。

 戦争には必ず、後悔をする。いつの日だったかこう考えた道中があった。ここ数日で更に身に染みた。
 そうやって自分と戦ったのだ…あいつも、誰も彼も生者も死者も。

 実の所誰がどうなったのか、大まかにしか知らない。誰の死に目も見ていないし、北海道を発つ時の土方の石碑すら、噂でしかない、隠された真実であり、あそこが有力だと言うだけ。
 でも…天性の勘か、不思議と自分は探し当ててしまう…ことがある、ような。
 あそこにはなんとなく、死の力を感じた。

 いざ目の前にして衝撃を受けるのは、生者を目の前にした時ばかり。つまり、坊主はこじつけしかしない。本当に恐ろしいのは、一見なのだ。

 …等という迷い、柵、それは幻想…自分の産物だから。
 捨てよう。あの鉄扇のように。

 一息吐いたらうん、空気が確かに綺麗なんだな、この場所は。
 昔は“宗派”だなんだと、鉛のように体が重くなったもんだが…あぁ、歩きまくったしな、石段キツ…。

 途中で一回煙管を吸った。あぁこんな景色、あったような気がする。

 何も変わらないけれど、変わるとしたら。
 …考えてなかった。やはり今“必死で生きている”。

 しかし、どうして重く感じるのだろう。ただ、挨拶し損ねてるというだけなのに。歳だ、そう。変に考えるな。

 これが終わればまた政府に戻る。
 考えれば「仕方なし」とまた数段登ると───。

 賽銭箱の向こう、本堂の側に…尼さんが見える。

 あれ?
 ちょっと待て、曹洞宗、いくらなんでもそんなに自由じゃ…。

 尼さんの側で歩く…あぁ、あれ、文のやり取りをしていた…確か“清生”さんだっけ、うわぁ、年数を感じるけど側にいるその尼さんって……。

「…南條…さん?でしょうか!?」

 やっぱりか。

「…ト」

 ん?

 清生は一度その尼さんの方へ振り向く。
 それに尼さんはふと目を伏せ、去るように見せ掛けるが、清生がこちらに来るのを見て去るのをやめたらしい。

 立ち尽くしてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...