124 / 129
Get So Hell?
後編7
しおりを挟む
「條徳寺の南條…朱鷺貴法師ですよね!」
うわ、それも久しぶりに呼ばれた…。
と思うあっという間に清生はすぐ目の前にいて、まるで生死を確認するかのようにガッツリと両肩から腕を撫で手を取ってくる。
…こんなに熱い人だったっけ。
互いに歳かな…?
「……お久しぶり…ですね」
「お噂は予々…というより…行方がわからないと聞いていたもので…」
尼さんの謎が解けそう。
他者にその事実を告げる人物など、最早一人しか浮かばないけど…そうだとしたらより、また違う意味で…いやもうすっげぇ違和感しかないんだが…と、清生よりも、立ち尽くす尼さんにばかり思考が行く。
かの尼さんも明らかにこちらを気にしている。
まるで涙でも浮かべるような表情の清生。しかしこちらが尼さんを気にしているのもあり、腕は掴んだまま堂へ振り向き「お茶の用意を」と命じていた。
「…南條さん、」
声色が変わった。
あぁそうか、拳銃はバレたよなと、握られた手を上げ「あ、いや私用です」と疑いを晴らしておく。
東京府に近付く度に感じていた。政府役人は歓迎されていない。
確かにこれほど街が変われば、そういう人も多いだろう。
政策だのなんだの、幕府時代より「皆平等」な分、皆平等に苦しさと楽さが同時に押し寄せている。
これが困惑の大部分であり、だからこそ本当の平等であった神社仏閣への締め付けは…間違いなく反感でしかないだろう。
「あの、まぁ、仕事で来た訳ではなく…いや、まぁその土地調査ではありますが…」
「…反幕府軍のことなら我が寺は今は…いや、」
ふふふ、と清生は笑った。
「そんな間柄でもありませんでしたね。すみません、少々警戒をしてしまいました、正直。嬉しさもあるのですがね」
「あ、いやそりゃそうだと」
「…前僧とおみよ様でしょうかね」
「はい。あ、あと…」
めっちゃ気になるんですよねそこの尼さん。「みよさん」なんじゃないかという線はたった今さり気なく切られましたけれども。
建設やら何かの手伝いと言われればそれまでではあるが…。
「…はは、顔に書いてありますよ南條さん」
「…ですよねぇ…」
「ではまず、本堂へ宜しいですか?」
「…拳銃を置かせ」
「いや構いません。そもそも、昔貴方は刀を持ってきたじゃないですか」
「確かに」
清生が本堂に振り向き、自分は着いて行く。
「お節介ですが、少しだけ」
堂の扉を開け、まずは焼香をさせてくれた。
茶を持ってきてくれたのは全く知らない、年端もいかない坊主だった。
改めて漸く、清生と面向かう。
「あの子ですよね、きっと」
「…まぁ、あの、尼さんは一体…」
「はい。
4年前の梅雨の時期でした。急に現れまして…その、賽銭箱の側です。
…昔のように明朗な雰囲気はなく、ただじっと…何も話さず座っていたのを覚えています」
…やはりか。いや、俄信じ難いく、遠目でしか見てないけれど、まぁわかる。
「何刻いたのかはわかりませんが、朝に小姓が発見しまして。始めはビクともしなかったらしく、幽霊だと思ったそうです、そのくらい暗い雰囲気で…。
あの子、ここで死ぬ気だったのかもしれません。随分とボロボロで、しかし握り飯を置いても手をつけませんでした。随分と食べていなかっただろうに。
ふと倒れた隙に部屋に連れて返り、暫く看病をしました。
未だにその時のことを…覚えているかすら………あまり話してはくれてませんね。最近漸く少しづつ、言葉少なですが喋れるように」
「…話せなくなったんですか?」
昔もそうだったと聞いたが、またそれが…?
後天的なものの大半は心の問題だと、それを機に知った。
想像の範疇だけでも、納得はするが…。それが、また?それって大丈夫じゃないよな、かなり。
「いや、魘されていたので声を発せない、という訳ではないと早期にわかりました。
私以外とは未だに…寺の者曰く返事や業務連絡くらいはするようですから、何かご病気という訳ではないみたいですよ。日常生活はそれなりに過ごせています」
清生は、少し安心したような表情をする。
まぁ、そう、ここまで来ればもうわかることだ。
「…彼にはポッカリ穴が空いてしまっているのだと思います。そういった事情なら無闇に聞きません。
小姓にして親しくしてみれば、なんとなく毎朝ね、夢の話くらいはしてくれるようになったのですが、それも所々で」
「…まぁ、昔からそういうところはありましたが…」
昔、自分達が世話になっていた頃とは違う…確かに、聞いていてもそう、悪化してそうだ。
「少しづつ前に、とは思っているのですがね…」
「一気に求めるのは少し違うような、これもお節介ですが」
わざわざ聞かせるということは、何かは求めているのかもしれないが…。
「いや、ただ単に読めないのです。寺では、私が一番一緒にいる時間が長いのですが…まぁ、その…寺の者も『そういうものだ』と慣れるのが早い分、なんだかねぇ…」
「ま、少し厄介なのと、知りたいという…貴殿が歩み寄りたいのは伝わりましたが…なんせ俺は彼を京へ置き去りにし…」
「そういう話を、一度腹を割り話せる機会があれば、互いに少しは拓ける気がします。
あの子も貴方も、互いにやはり、思うところはあるでしょうし」
うわ、それも久しぶりに呼ばれた…。
と思うあっという間に清生はすぐ目の前にいて、まるで生死を確認するかのようにガッツリと両肩から腕を撫で手を取ってくる。
…こんなに熱い人だったっけ。
互いに歳かな…?
「……お久しぶり…ですね」
「お噂は予々…というより…行方がわからないと聞いていたもので…」
尼さんの謎が解けそう。
他者にその事実を告げる人物など、最早一人しか浮かばないけど…そうだとしたらより、また違う意味で…いやもうすっげぇ違和感しかないんだが…と、清生よりも、立ち尽くす尼さんにばかり思考が行く。
かの尼さんも明らかにこちらを気にしている。
まるで涙でも浮かべるような表情の清生。しかしこちらが尼さんを気にしているのもあり、腕は掴んだまま堂へ振り向き「お茶の用意を」と命じていた。
「…南條さん、」
声色が変わった。
あぁそうか、拳銃はバレたよなと、握られた手を上げ「あ、いや私用です」と疑いを晴らしておく。
東京府に近付く度に感じていた。政府役人は歓迎されていない。
確かにこれほど街が変われば、そういう人も多いだろう。
政策だのなんだの、幕府時代より「皆平等」な分、皆平等に苦しさと楽さが同時に押し寄せている。
これが困惑の大部分であり、だからこそ本当の平等であった神社仏閣への締め付けは…間違いなく反感でしかないだろう。
「あの、まぁ、仕事で来た訳ではなく…いや、まぁその土地調査ではありますが…」
「…反幕府軍のことなら我が寺は今は…いや、」
ふふふ、と清生は笑った。
「そんな間柄でもありませんでしたね。すみません、少々警戒をしてしまいました、正直。嬉しさもあるのですがね」
「あ、いやそりゃそうだと」
「…前僧とおみよ様でしょうかね」
「はい。あ、あと…」
めっちゃ気になるんですよねそこの尼さん。「みよさん」なんじゃないかという線はたった今さり気なく切られましたけれども。
建設やら何かの手伝いと言われればそれまでではあるが…。
「…はは、顔に書いてありますよ南條さん」
「…ですよねぇ…」
「ではまず、本堂へ宜しいですか?」
「…拳銃を置かせ」
「いや構いません。そもそも、昔貴方は刀を持ってきたじゃないですか」
「確かに」
清生が本堂に振り向き、自分は着いて行く。
「お節介ですが、少しだけ」
堂の扉を開け、まずは焼香をさせてくれた。
茶を持ってきてくれたのは全く知らない、年端もいかない坊主だった。
改めて漸く、清生と面向かう。
「あの子ですよね、きっと」
「…まぁ、あの、尼さんは一体…」
「はい。
4年前の梅雨の時期でした。急に現れまして…その、賽銭箱の側です。
…昔のように明朗な雰囲気はなく、ただじっと…何も話さず座っていたのを覚えています」
…やはりか。いや、俄信じ難いく、遠目でしか見てないけれど、まぁわかる。
「何刻いたのかはわかりませんが、朝に小姓が発見しまして。始めはビクともしなかったらしく、幽霊だと思ったそうです、そのくらい暗い雰囲気で…。
あの子、ここで死ぬ気だったのかもしれません。随分とボロボロで、しかし握り飯を置いても手をつけませんでした。随分と食べていなかっただろうに。
ふと倒れた隙に部屋に連れて返り、暫く看病をしました。
未だにその時のことを…覚えているかすら………あまり話してはくれてませんね。最近漸く少しづつ、言葉少なですが喋れるように」
「…話せなくなったんですか?」
昔もそうだったと聞いたが、またそれが…?
後天的なものの大半は心の問題だと、それを機に知った。
想像の範疇だけでも、納得はするが…。それが、また?それって大丈夫じゃないよな、かなり。
「いや、魘されていたので声を発せない、という訳ではないと早期にわかりました。
私以外とは未だに…寺の者曰く返事や業務連絡くらいはするようですから、何かご病気という訳ではないみたいですよ。日常生活はそれなりに過ごせています」
清生は、少し安心したような表情をする。
まぁ、そう、ここまで来ればもうわかることだ。
「…彼にはポッカリ穴が空いてしまっているのだと思います。そういった事情なら無闇に聞きません。
小姓にして親しくしてみれば、なんとなく毎朝ね、夢の話くらいはしてくれるようになったのですが、それも所々で」
「…まぁ、昔からそういうところはありましたが…」
昔、自分達が世話になっていた頃とは違う…確かに、聞いていてもそう、悪化してそうだ。
「少しづつ前に、とは思っているのですがね…」
「一気に求めるのは少し違うような、これもお節介ですが」
わざわざ聞かせるということは、何かは求めているのかもしれないが…。
「いや、ただ単に読めないのです。寺では、私が一番一緒にいる時間が長いのですが…まぁ、その…寺の者も『そういうものだ』と慣れるのが早い分、なんだかねぇ…」
「ま、少し厄介なのと、知りたいという…貴殿が歩み寄りたいのは伝わりましたが…なんせ俺は彼を京へ置き去りにし…」
「そういう話を、一度腹を割り話せる機会があれば、互いに少しは拓ける気がします。
あの子も貴方も、互いにやはり、思うところはあるでしょうし」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
Get So Hell? 2nd!
二色燕𠀋
歴史・時代
なんちゃって幕末。
For full sound hope,Oh so sad sound.
※前編 Get So Hell?
※過去編 月影之鳥
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
【架空戦記】蒲生の忠
糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。
明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。
その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。
両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。
一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。
だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。
かくなる上は、戦うより他に道はなし。
信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
綾衣
如月
歴史・時代
舞台は文政期の江戸。柏屋の若旦那の兵次郎は、退屈しのぎに太鼓持ちの助八を使って、江戸城に男根の絵を描くという、取り返しのつかない悪戯を行った。さらには退屈しのぎに手を出した、名代の綾衣という新造は、どうやらこの世のものではないようだ。やがて悪戯が露見しそうになって、戦々恐々とした日々を送る中、兵次郎は綾衣の幻想に悩まされることになる。岡本綺堂の「川越次郎兵衛」を題材にした作品です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜
雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。
そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。
これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。
主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美
※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。
※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。
※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる