その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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第四軍での「薬師錬金術士リーナ」

思いの果て 憂いと、決意と、現実と

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 本当に今日は、色々とあったわ。 王城外苑、第四軍の屯所に行ってからの数々の事。 たった一日で、とてつもなく疲れたの。

 明日からは、しばらく、「王城外苑」へは行かない。 魔法草とか、お薬の材料になる物を採取しに行くの。 シャルロット様にも 御了承頂いたわ。 イグバール様から、魔法草が届くまでには、少なくとも二週間の時間が必要だもの。

 だから、その間、出来る事をするの。 シャルロット様にも協力を願い出たわ。 第四軍で必要なポーション類以外の常備薬品の一覧を作ってもらう事にしたの。 必要でしょ? 「解毒薬」とか、「予防薬」とか。 全く備蓄が無いんだもの。 


 とても、喜んで下さったわ。


 だから、ラムソンさんとシルフィーと一緒に、王都周辺の森へ出かけるの。 迷宮ダンジョンなんかも潜るつもり。 出来るだけたくさんの魔法草やら、魔獣、魔物、野獣の素材を集めて、お薬を錬成するわ。 そのつもり。

 イグバール様からの薬草箱に、何が入っているかは、その時までのお楽しみ。 だけど、南方辺境領で動き回っていた時に、採取し続けていたから、何となくだけど予想が付くわ。 色々と、考えなくちゃね。




 ^^^^^




 第十三号棟に帰って来て、自室のベッドの潜り込んで、今日一日の反省を考えてみるの。


 なんにも出てこなかった。


 前を見詰め、そして進む。 ただそれだけ。 後ろや横を見ている暇はないわ。 私が出会った人、そこに起こった事。 そして、何より、「薬師錬金術士」として、精霊様に誓った誓約を護る事。 私に出来る事はほんの少し。 それは、とても小さく、大勢には影響なんて起こせないもの。


 だけど……


 だけどね。 少しでも、ほんの少しでもいいから…… 傷付き疲れ果てた人を癒し、平穏な毎日に戻してあげたい。 王国の民…… その安寧を護りたい。 不穏とも思える、様々な出来事は、眼に見えない坂道を転がり落ちる様に感じるの。

 その歯止めになるのならば。

 私は私の身を、転がり落ちる、ファンダリア王国と云う大きな岩の下に投げ出すわ。 




 誰からの「称賛」も「賛美」もいらない。




 ただ、ただ、民が平穏に、その一生を終えるような、そんな国が……  お母様が夢想し、そして、歴代の国王陛下が夢想した…… そんな王国が…… 私は欲しい。 みんなが笑顔で暮らせるそんな王国が。

 お隣の国が不穏な動きをしているのは、前世の記憶からも明らか。 そして、現世の現状を鑑みても…… もう間違いは無い。 だから、それを阻止するの。



 でも、問題は山積。



 解決する手は…… あまりにも少ないわ。 ファンダリア王国の中にも、彼の国に賛同する者が多々いる。 特に、聖堂教会の上層部はその傾向が強い。 と云うよりも、あちらを手本に策謀を重ねている。 神官長様のこれからの巻き返しが、どの程度なのか…… それも、気になるわ。

 堂女アコライトの記章も頂いたのだけれど…… 使う場面がどうしても思い浮かばないの。 だって、わたし、本格的に聖堂教会とは敵対し始めているんだもの。 あの錬金場の神官…… アレは無いわよね。 本当に、アレが、神官薬師長の右腕なのだとすれば……

「聖堂教会」の内部は腐り果てているとしか…… 言いようが無いもの。

 自浄作用は、もはや期待できない。 自身の野望をどこまでも追い求める、そんな者が神官だと云うの? 神と精霊様に対する冒涜よ。 きっと、報いを受けるわ。 はかりごとが深く、大きく、そして、神のご意志に背くなら…… 

 その対価は…… 一体何になるのでしょうか。


 毛布にくるまり、寝返りを打ちながら、そんな事を考えていたの。 目が冴えて眠れない。 耳が痛くなく程の静寂が私を包み込んでいるの。 体を曲げて、小さくなる。 思考はぐるぐると廻り、とめどもなく、大海原の渦潮に巻き込まれる様に、深く沈んでいくの……


 私は…… 恐怖を感じる。 そんな光亡き世界を欲する者達を重用するのが、この国の国王陛下なんですもの。 ガングータス国王陛下に他ならないんだもの。 何を見、何を聴き、何を思い、そして…… 何をなさろうとしているのか。 私には、見えてこない。



 民の安寧も、王国存続の為の施政も、なにより、未来への想いが……



 ―――全く感じられないの。



 ただ、ただ、今を謳歌し、いたずらに、その権を振るい、王国周辺に争いの種を撒き散らしているとしか、思えないのよ。 それが…… お母様が愛した、国王陛下……

 私は…… そんな方に愛を捧げる事は出来ない。

 今なら言えるかもしれない……




 ” 貴方なんて、「お父様」などと呼びたくない。 王国の国権を弄び、民を軽んじ、未来への光を消し去る様な方を、「お父様」などと、呼べはしない”




 ってね。 口に出したら、間違いなく首が飛ぶ、この想い。 お母様が愛を抱かれ、それを異界の魔物に利用され、そして、私が生まれた。 なんとも…… なんとも言えない気持ち。



 私は…… 私は、生まれるべきでは無かった。



 両親の感情の汚濁の果てに…… 欲望の果てに…… 異界の魔物の契約の元…… この世界の贄《にえ》にしかならない様な…… 




 そんな私。




 だったら……

 だったら、暗黒の混沌に飲み込まれる、光亡き世界へ、転がり落ちるこの世界を止める……

 そんな、一石になるのは……




 ―――― 必定 ――――




 私の未来は…… 

 光ある道へ向かう為に…… 

 投げ捨てられる様な運命を刻まれて居たのかもしれない。




 だから…… だからこそ、足掻くの。

 トコトン迄…… 足掻くのよ。 




 私の名は、『エスカリーナ』。

 たとえ、我が名は歴史に刻まれぬとも……

 絶対に、世界を暗闇に落とす何て事は、

 させはしないわ。





 ベッドの中で、身体を丸め、両手で自分を強く抱きしめる。 カッと見開いた両目。 食い縛る口。 強く意思を保つの。




 光への、「細く頼りない道筋」を……

 私は、歩き出したことを、理解したの。





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