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学院での日々
学院舞踏会 (4)
しおりを挟む「皆、良く集まってくれた。 今宵は「学院舞踏会」。 第一成人の君達の為の、舞踏会である。 女子生徒は、来るべき「デヴュダント」に向け、男子生徒は家名の礎を確かなモノとする為に、今宵の舞踏会で良く学ぶ事を期待する。 ファンダリア王国の貴族としての誇りを、学んだ「礼法」によって、体現する事を望む。 教師の皆さん、そして、この場を我らが学院の舞踏会の場として使用許可を出してくださった、国王陛下と、外苑の者達へ礼を捧げよう! さぁ、舞踏会の始まりだ」
ウーノル殿下の訓示とお言葉が終わって、宮廷楽師様達の雅な音楽が流れ始めたの。 最初はワルツ。 とても美しい調べなのよ。 この雰囲気に酔いたいくらいにね。 でも、私には「お仕事」が有るの。 だから、この雰囲気に飲まれては、いけないのよ。
ウーノル殿下が手を差し出された先には、アンネテーナ様がいらっしゃるの。 まだ、婚約者ではないけれど、内々の打診はあるのではないかな。 現国王様も、望んでらっしゃると、そんな噂も聞こえてくるのよ。 きっと、お母様の事で、王家もドワイアル大公家に負い目を感じてらっしゃるのだろうと、ノリステン子爵様が「礼法の時間」にそう仰ってたもの。
でもね、ドワイアル大公閣下がね…… ちょっと、難色を示しているらしいわ。 ご婚約……すればいいのに。 お似合いなのにね。
ウーノル殿下に続くのは、同じ王族のマクシミリアン殿下。 相変わらず、少し影を背負ったキラキラ感が…… 前世では、あの感じが私と同じ感じがして…… もう、彼しか見えてなかった…… のよね。 差し出された手の先にはロマンスティカ様がいらっしゃった。 彼女、ダンスはとてもお上手なのよ。 うまく、リードされている感じで、ウーノル殿下の盾になってくれそう。
テイナイト子爵は、ベラルーシア様と踊られるのね。 あの方も相当お上手なの。 ロマンスティカ様、ベラルーシア様は、アンネテーナ様同様、ウーノル殿下のお妃候補っていわれているからね。 努力も人一倍されているわ。 あのお二人なら、きっと上手く乗り越えて下さる筈。
フルーリー様の御手を取られてたのは、ノリステン子爵様。 とても、可愛い感じの装いのフルーリー様が、キラキラした目を、ノリステン子爵様に注がれていたの。 ……御役目、忘れないでね。
さて、私の番か…… 【探索】の感度は、いいみたい。 今の所誰も、ウーノル殿下に近寄っていない。 あっ、一組のペアが…… 輝点が有るという事は…… 何かしらの行動に出るのね。 えっと、近くには…… ロマンスティカ様がいらっしゃるわ。
〈ロマンスティカ様、 殿下より、真方位180 接近してきます。 間に入ってください〉
マクシミリアン殿下のリードを上手く誘導して、殿下と相手の間に入るの。 ラペルピン……上手く気を逸らしてくれた! よかった。 効果確認できた。
「リ、リーナ…… そろそろ、私達も…… 手を」
「はい、ドワイアル子爵。 宜しくお願いします」
「リーナ…… その、なんだ」
「はい?」
「ドレス…… よく似合っているな」
「有難うございます。 グランクラブ準男爵様に感謝ですね。 さぁ、行きましょう。 徐々に対象が増えつつあります」
「う、うむ…… そうだな」
ミレニアム様、如何しちゃったの? なんだか変よ? 御顔が赤いわ…… お風邪でも召されたのかしら…… 今宵だけ、頑張ってほしい。 お願いします。
ワルツを踊りながら、ウーノル殿下に接近する人を、みんなに伝える。 マクシミリアン殿下には悪いけれど、彼のペアもその役割を負ってもらう。 使えるペアが二組増えた感じなの。 だから、余裕が生まれたわ。
三曲目が終わって、殿下が御休憩された。
タイミングを見計らって、私達もパートナーチェンジに入るの。 次は…… ノリステン子爵様がお相手になって下さるの。 殿下の壁になっているから、他の貴族の人達から凄い目で見られてるんだけど、そんな事は、気にしてられないわ。 でも、すごい視線の割には、” 意趣 ” めいたモノはそんなに無いの。
そこが不思議なのよ。 何故か多くの男子生徒さんが、私を見ているの。 視線を感じるのよ。
女生徒さん達の視線も、同じくらい感じるの。 殿下の周りに、庶民が居るなんて! って感じかなと、思っていたら、少し違うの…… 変な感じなのよ…… 彼らの視線の意味が良く判らない。
フロアーに殿下がいらっしゃらないと、途端に踊る人が少なくなるのは、ちょっとおもしろいわ。 御休憩されている殿下の周りには、厳つい護衛騎士の方達が取り囲んでいるから、なかなかに近づけないものね。 殿下を遠巻きにして、ウロウロしている人が沢山いらっしゃるけれど、それは、学院の警備の人もいるし、なかなか近づけないみたい。
よし…… これならいけるね。 貴族の人達との距離も、程よい感じだしね。
「一曲…… 踊って頂けないか? 美しいお嬢さん」
「はい?」
まだ、ウーノル殿下はあちらで休憩中。 周りには、ミレニアム様とかノリステン子爵様とかが侍っている。 それで、目の前の人…… 私に声を掛けてきた人…… 待って…… 私にはお役目があるの……
それなのに…… なんで―――
なんで、マクシミリアン殿下が手を差し出しているのよ!!!
^^^^^^
壁際で待機している私に、よりにもよって、マクシミリアン殿下が手を差し出しているの。 助けを求めるように、周囲に目を走らせるんだけど、誰も助けてくれなさそう…… 男性の皆さんは、周囲に警戒の視線を投げてるし、女性陣に至っては、手サインで ” 受けなさい ” って言ってくるし……
本当にやめてよ! 最後の頼みの綱である、スコッテス女史に視線を投げかけると、眼を瞑って首を横に振ってる始末。 ド変態に至っては、” 御相手して差し上げて ” なんて、手サインを送って来るんだもの……
仕方ないわよね…… ほんとに…… 仕方ない。
前世では夢にまで見た光景なんだけれど、今の私にはとっても迷惑なのよ。 いくらミドルヒールだって言っても、慣れない靴なのよ? それに、ウーノル殿下が踊り出したら、私は護衛の指示を出さなくちゃならないの。 魔力だってかなり使うのよ…… とても、疲れるのよ……
「おや…… 振られてしまったかな?」
「い、いえ、お受けいたします」
「貴女は私の事をご存知ですか?」
「ええ、マクシミリアン殿下。 お誘いいただいて、光栄に存じ上げます」
「よかった。 薬師リーナさんには、なかなかお逢い出来ないので、お忘れかと」
「……勿体なく」
ええい、覚えておいてね。 あとで、絶対に苦情を入れるわ。 手を取って、フロアの中に出る。 ステップが割とメンドクサイ曲が掛かっているの。 でも…… この曲は……
音楽に合わせて、ツー、スリー、ワン、ツー!
軽やかに、ステップを刻む。 ち、近い…… 近いよ…… 腰に当てられて手が、とても気に成る…… なんだか、熱くなってきた…… じっと私を見る、マクシミリアン殿下の瞳…… きっと、前世の私なら、吸い込まれそうになっていたと思う。 この熱くなった感じ…… 心のどこかで、まだ、想っているのかな、殿下の事を。
ダンスは楽しい…… そう思える時間だった。 ふわりと広がるドレスが、シャンデリアに煌めくネックレス。 踏むステップは、前世で何時かマクシミリアン殿下と踊りたいと願った、そのステップ。 前世の想いが…… 叶ったのかな?
幸せな時間は、やっぱり長くは続かない。
そういうモノなの。
この人と…… 一緒に未来を見つめる事は……
やっぱり出来ないわ。
だってね……
私の耳に届く、ラムソンさんの「 緊急報 」が、彼の低く素っ気ない声で響くんだもの。
「すまん! 一人逃した。 そっちに向っている。 速度が手に負えない。 これ以上の速さだと【隠形」が解けちまう! すまん!!」
強く明るい輝点が、急速に近寄ってくる。 輝点の軌跡は、真っすぐにウーノル殿下の元に向かう。
「まさか」と、思っている事が、起こるは……
油断なのよ。
だから……
その為に……
私が居るの。
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