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最終章「プロポーズは指輪と共に!」

31 好きにしろ!

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 ―――そして、豊穣祭が終わった夜。
 使用人達も早めに休ませ、しんしんっと降る雪と闇で屋敷の中は静寂に包まれていた。だがそんな中、レノは俺に呼び出されて部屋へと訪れる。

「キトリー様、何か御用ですか?」

 何も知らないレノは部屋にやってきて、俺に尋ねた。そして俺はと言えば、すでに風呂に入って体をピッカピカに洗って、寝る準備を万端に整えていた。
 だが今日の俺はある目的を持っている。とっても大事な目的を。

「レノ……その、告白の事なんだが」
「告白……もしかしてロマンティックでスウィートな告白をしてくれるって約束の事ですか?」
「そう。その事だが……全くもって思い浮かばない。という訳で、これだ」

 俺は上着のポケットに入れていた小瓶をレノに見せる。

「それは!」

 レノは驚きの声を上げた。それもその筈、それはちょっとラブラブ・イチャイチャしたいカップルが薬局で手軽に買える、国認定の安心安全な飲み薬。その名も『愛の吐息』という媚薬だからだ。

 そして以前レノが俺に飲んだと思い込ませたものだ。まあ、あの時はそういうフリだったんだけど(※第一章・二十三話)
 でも今回は中身入りの本物だ。

「坊ちゃん、どうしてそれを?」

 レノは怪訝な顔で媚薬の入った小瓶と俺を見る。だから俺は意を決して、レノに伝えた。

「いいか。これをな、こうするんだ」

 俺はきゅぽんっと小瓶の蓋を開けると、中身をぐいーっと飲み干した。そうすればレノは「坊ちゃん!?」と驚きの声を上げて、俺の手を取る。しかし、もうすでに飲み干した後だ。

「坊ちゃん、どうして」

 レノは困惑顔で俺に尋ねたが、俺は空になった小瓶を棚に置いて、ごろんっとベッドに寝転がる。

「坊ちゃん?」
「告白も思い浮かばないし、レノの誕生日プレゼントも思い浮かばない……という訳で、お前が一番喜びそうな俺をやる! 好きにしろ!!」

 俺はででんっとベッドの上で大の字に寝て、半ばやけくそで言った。
 だって、これ以上のものを思い浮かばなかった。ヒューゴだって前にベッドで誘惑すればいいみたいな感じで言ってたし。

 ……まあ、代わりに俺の尻は今日命日を迎える訳だが。俺のおちり、四つに割れたりしないよね? ぷるるるっ。

 俺は内心、ちょっと怖さに震えながら天井を見上げる。しかし、静かな部屋に笑い声が響いた。

「プッ、プハッ、アッハッハッハ!! ほ、ホント、ハハッ、貴方って人は!!」

 顔を上げてみれば、レノが腹を抱えて笑っていた。こんなにも笑うレノを見るのは初めてかもしれない。だが、そんなに笑う事あるか? こっちは真剣に考えた結果だっていうのによぉー。

「なんだよぉ、不服かよ?」

 俺は思わずむっとして尋ねる。だが、レノは笑いながら答えた。

「いいえ、そんなわけありません。フフッ。とても嬉しいですよ? でも、私はもうロマンティックな告白もしていただきましたし、誕生日プレゼントも貰いました」
「え? 俺、告白してないじゃん。それに誕プレ、その組紐だけだし」

 俺が首を傾げるとレノはにっこりと笑った。

「いいえ、告白してくださいましたよ。それにこの組紐だけで私は十分です」
「そーなのか?」

 ……俺ってば、いつの間に告白したんだ? まあ、でもレノが告白されたってんならいいか。組紐だけじゃ、物足りないかもって思ったけどレノが良ければ。

「じゃー……イマノ、カイワハ、ナカッタコトニ」

 俺はそろりとベッドの端に逃げようとする。だが、俺の足首をレノがガシッと捕まえた。ひぇっ!

「なかったことにできるわけないでしょう?」
「い、いやー、それは。って、おい! なに、ベッドに上がってんだ!」
「今はそういう流れでしょう?」
「流れってなんだ、流れって!」
「私と坊ちゃんがもっとえっちな事をする流れです」

 レノはニコッと笑って言い、俺はボッと頬が火照る。

「ええええ、えっち!」
「坊ちゃんだって、そういうつもりだったんでしょ? だから媚薬を飲んだ。それに据え膳食わぬは男の恥とも言いますし」
「そ、それは、そうだけど!」

 ……その据え膳、オレッ!!

 だがレノは問答無用で俺に覆いかぶさってきた。

「それとも、坊ちゃんは私とえっちな事をするのは嫌ですか?」
「い、嫌って。嫌ならあんなもん飲むわけねーだろ!」
「じゃあ、いいじゃないですか」

 レノはそう言うと俺の首筋に顔を寄せて、ちゅっちゅっと吸い付いてくる。レノはやる気満々だ。まあ好きな子がいたら、男ならこうなるだろう……まあ、その相手は俺なんだが。

 ……しかしちょっと前まで、チューも拒否してたくせに。なんだ、この変わりよう。でも、そう言えば父様がどうのこうのって。

「お、おい、レノ、レノって!」

 俺はレノを押しのけて、無理やり話をしようとする。するとレノは不機嫌そうな顔を見せた。

「何です?」
「前に父様がどうのこうのって言ってただろ? あれ、何だったんだよ?」
「なんで今、そんな事を」
「だって、この前までチューするのも拒否ってたのに今じゃノリノリで、不思議に思うのも当然だろ?!」

 俺が答えるとレノは俺の言い分が一理あると思ったのか、少し考えた後「まあ、そうですね」と答えた。

「じゃ、何だったんだ? あれは」
「あれは……」

 レノはそこまで答えた後、またしばらく間を置いてから言い直した。

「ところで坊ちゃん、これからも私と一緒にいてくれますか?」

 ……いきなり何!?

「は!? いや、さっきの解答」
「これから先もずっと私と一緒にいてくれます? どうなんですか?」

 レノはずいっと俺に顔を寄せて尋ねる。こんな風に聞かれたら、一つしか答えらんねーじゃん。

「一緒にいるよ! 今までも一緒だったんだから、これからも変わるわけないだろ?!」

 俺が答えるとレノはニッコリと笑った。

「そうですか。なら、大丈夫です」

 レノはそう言うと、今度は俺の頬にキスしてきた。

「んっ、ちょ、レノ! 答えになってな」
「明日には教えてあげます。だから今はこっちに集中して」
「んむっ!」

 とうとう唇にキスされて俺は何も言えなくなってしまう。レノの舌が俺の口腔内を這いまわる。

「ん、んむーっ。ぷはっ!」
「はぁ、坊ちゃん……大好きです」

 レノは俺の眼前で、嬉しそうに笑って言う。

 ……も、も、もーっ、こんな間近で言うんじゃなぁーーい!!

 俺はポポポポポッと頬が、体が熱くなる。だが、そんな俺にレノはわざわざ問いかけた。

「坊ちゃん、優しくします。だから、今日は最後まで付き合ってください」

 煌めく赤い瞳が熱を灯しながら俺に問いかける。そして、俺が欲しいと全身で求めていた。だから俺は恥ずかしいけど、ちょっと間を置きながらもちゃんと答える。

「……優しく、だぞ。痛いのは、ヤだかんな?」
「わかってます」

 レノは微笑んで言うと、俺の頬にもう一度キスをした。




 ―――そうして俺とレノの初めての夜は深く、深く、更けていったのだった。

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