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最終章「プロポーズは指輪と共に!」
2 教えろや!
しおりを挟む『―――ええええ!? ノエルって女の子だったのぉッ!?』
俺はザックと、そしてザックと一緒に来たノエルを前に声を上げた。
『はい、騙していてごめんなさい。キトリー様』
ノエルは申し訳なさそうな顔をして謝った。でもノエルの場合、事情が事情な為、致し方ないことだっただろう。その身が皇女様の子供で、女の子だと神聖国に関わる者に知られた日には連れていかれただろうから。
『いや、それはいいんだけど。まさか女の子とは……』
俺は驚きながら呟くが、不意にレノが皇女様の絵を見た時、歯切れが悪かったことを思い出す。
『レノ、もしかして知ってた?』
『まさか、本当に気がついていないとは驚きです』
……知ってたんなら、教えろやッ!!
『レノきゅーん??』
俺は顔に怒りマークを付けてレノを見る。しかしレノはそっぽ向いた。コノヤロー、こっちを見ろ!
『キトリー様、俺も黙っていてすみません』
ザックは頭を下げて謝った。しかしザックはもう公爵家の騎士を辞めているのだし、報告義務はない。つまり謝る理由もないという事だ。
『いいよ。多分、俺だけが気がついてなかったようだし』
俺はザックに言いながら、この食堂にいたフェルナンドとヒューゴ、お爺に視線を向ける。そうすればフェルナンドとヒューゴはあからさまに視線を外し、お爺は『ほっほっほっ』と笑って誤魔化した。
……なんだよ、本当に俺だけわかってなかったやつじゃん!
『こ、コホン。という訳だから、気にしなくていいよ。むしろ、教えてくれてありがとう。ノエルは今まで大変だったね。神聖国の方はエンキ様の後、ナギさんが継ぐことになった。だからもう、身元がバレる心配はしなくていいだろう』
俺が告げるとノエルは嬉しそうな顔をするかと思いきや、逆に暗い表情を見せた。
『ノエル?』
俺が尋ねればノエルは顔を上げて答える。
『でもいいんでしょうか。僕だけ……こんな風に逃れた形になって』
ノエルの瞳に映っていたのは罪悪感だった。
『本当なら母さんが亡くなった後、僕が継がなきゃいけなかったのに。僕はこの生活を捨てられなくて、ずっとエンキ様に押しつけて』
そう言うノエルに俺は既視感を覚える。だって、俺だって聖人であることを隠し、この場所にいるから。
でも、きっとエンキ様は姉ちゃんやアシュカと同じように言ってくれるだろう。
『ノエル。エンキ様はノエルにそう思って欲しくないと思う』
『でも!』
『エンキ様は優しい方だ。その人が姪っ子にそんな風に思われているなんて知ったらどう思うかな?』
『だけど、僕はそのエンキ様に知らせもせずに!』
『それに俺の予想だけど、きっとエンキ様はノエルの事を知っていたと思うよ』
俺が教えればノエルは『え?』と驚いた顔を見せた。まあ、そうなるだろう。
でもエンキ様は皇女の娘が現れた時、俺に彼女は娘ではないとハッキリと言った。あれは今思えば、確信のある言葉だった。
きっとノエルの事をエンキ様は知っていたのだろう。恐らくは母様伝いで。
それでもエンキ様はノエルを探したり、神聖国に呼び出したりしなかった。つまりはそう言う事なのだ。
『エンキ様は、姪っ子に自由に生きていて欲しいんじゃないかな。だってノエルのお母さんを送り出したぐらいの人なんだから』
俺が言うとノエルはホッと肩の荷を下ろし、俺を見た。
『本当に?』
『本人に聞いたらいいさ、エンキ様も直に自由に動けるようになる。そうすればきっとバルト帝国へ来るだろう。その時に会いに行ったらいい。ノエルにとっては叔父さんになるんだからね』
そう言えばノエルは今度こそ嬉しそうな顔をして『はい!』と答えた。
……やれやれ。これでひと段落だな。
俺はノエルの笑顔を見て、思う。しかし不意にサウザー伯爵の捕物の時に一緒のベッドで寝た事を思い出した。
……そーいや、あの時は誘拐されてベッドが一つしかないから隣同士で寝たけど、あれって思えば女の子と寝ちゃったって事!? キャーッ、恥ずかし!
『坊ちゃん? 何か、良からぬことを考えてます?』
……だから、お前は人の心を読むんじゃない!
『べ、別にー? 良からぬことなんて、何もないしぃー?』
俺は誤魔化すがレノの視線が痛い。どーしてコイツはこういう事には敏感なのかね?!
『と、ともかく一件落着したところだし、みんなでお茶にでもしよう。なっ!?』
俺はレノにこれ以上余計なツッコミを入れられたくなくて、みんなをお茶に誘った。そうすれば、レノはため息交じりだが『そうですね。お茶を用意します』と率先して動き、ヒューゴも用意していたお菓子を出してくれる。
……ふー、危なかった。やれやれ。
俺は一息つきながらも、笑顔のノエルを見てこちらも笑顔に。
……きっとエンキ様の再会も和やかなものになるだろう。その時には従兄であるアントニオとも会う事になると思うけど……まあ、それはまだ秘密(お楽しみ)にしておくか。
俺は一人、そう思ったのだった。
◇◇◇◇
「―――そういや、あれからノエルは周囲に実は女の子だって教えたんだろう?」
「はい。でもあまり驚かれなかったようです。というより、周囲も気がついていたようで。何か事情があるのだろう、と察していたようですよ」
レノに言われ、俺は驚く。
……ナニ、みんな知ってたの!? 俺だけ気がつかなかったの!? がびーんッ!!
「でも、ノエルはいつも通りの格好で過ごしているようですよ。今まで男の子の格好をしてたので、急に女の子の格好をするのは少し恥ずかしいそうです」
「フーン、そうなのか。まあ、どんな格好をしてたってノエルはノエルだからいいんじゃね?」
俺が何気なしに答えると、レノとお爺がなにやらほのぼのとした目で俺を見てくる。
……一体、ナニヨ?
「ほっほっほっ、さすが坊ちゃんですな」
「え、何が?」
お爺の言葉に俺が首を傾げるとレノは呆れた顔を見せた。
「本当、ニブちんですね」
「おいぃぃぃ! 誰がニブちんだッ!」
「アナタですよ。ほら、みんなが待ってますから行きますよ」
レノは先に歩き始め、俺は慌ててレノを追いかける。
「おい、ちょ、待てって!」
呼び止めるがレノはずんずんと突き進む。
……待てって言ってんでしょーが! たく!!
そう思いながらも俺はレノの後を追いかけ、お爺に振り返った。
「お爺も早く!」
「ほっほっほっ、私はゆっくり参ります。どうぞ先を行かれてください」
お爺はにこやかに言い、俺は「早くねー!」とだけ言ってレノに駆け寄った。
だから俺は気がついていなかった。
お爺が目を細めて俺とレノの後姿を眺めていたなんて。
「二人とも、随分と成長しましたね……。本当、時が経つのは早いものです」
お爺はぽつりと呟き、ふふっと笑った。しかし、近くの茂みがガサガサッと揺れ、一匹の蛇が現れる。
それが、これから起こる事の始まりだった――――。
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