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第五章「告白は二人っきりで!」

24 クト神

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「っ~~! バカレノ! 俺がなんとも思わずに言ってるとでも思ってんのかよ! 自分ばっかり辛いって顔しかやがって。……俺が……俺がお前に何度もチューされて、それでも傍に置いてる理由を考えろ!」

 俺が叫ぶように言うとレノは驚いた顔を見せた。

「坊ちゃん……それって」
「俺だってお前が傍にいてくれた方が嬉しいに決まってんだろ! でもな、俺はお前に不利益になるようなことはもうして欲しくないんだよ! お前は、本当は俺なんかの従者をしてるのがもったいないぐらいなんだぞ。なのに小さい頃に俺の従者になっちまって……こんなところまで付き合わされて。これ以上、付き合わせられないって思う俺の気持ちはおかしいかッ!? 大事なやつの未来を考えるのは、そんなにダメだって言うのかよッ!!」

 俺が堰を切って告げれば、レノは大きく目を見開いた。でも俺はまだまだムカついてたので、感情のままにレノを罵る。

「このわからんちんのあんぽんたん!」

 むすっとした顔で俺はレノに告げたのに、レノの奴は俺の言葉を聞いて嬉しそうに顔を緩ませた。何笑ってんだ、コノヤロー。
 でも、ますますむすっとする俺をレノはぎゅっと抱き締めた。

「坊ちゃん……すみません。気持ちは嬉しいです。でも、貴方の傍にいる事こそが私にとって何よりの有益で、幸せなんです」
「……小さい頃から俺の傍にいて、刷り込みなんじゃないのか?」
「刷り込みでもなんでもいいですよ。この気持ちだけは変わらないですから」
「はぁ……お前、後悔したって知らないぞ」

 俺がため息交じりに言えば、レノはそっと体を離した。そして嬉しそうな顔で俺に微笑む。

「望むところですよ。まあ後悔なんてしませんが」

 レノはそう言うと俺の頬を片手で優しく撫でた。さっきまで怒ってたくせに、現金な奴だ。フンッ!

「坊ちゃん、好きです。だから、キスしてもいいですか?」
「な、なななっ!」

 ……今まで聞かずに勝手にキスしてただろーが! なんで急に聞いてくんだよッ!

 俺が心の中で叫べば、レノは俺の気持ちを勝手に読んだ。

「いつも聞かずにしてましたからね。やっぱり聞いた方がいいかと思いまして」

 ……だからって、なんで今聞くんだよ!!

「駄目、ですか?」

 レノはうるうると潤んだ瞳で俺を見つめて聞いてくる。

「う、そ、それは」
「坊ちゃんにキスしたいです」

 ……もー、そーいう事は自己申告すな!

「坊ちゃん、触れるだけだから」

 レノはそう言うとずいっと体を寄せてくる。

 ……う、もーもーっ!!

「坊ちゃん、キスさせて?」
「……ちょ、ちょっと……だけ、だぞ?」

 俺は顔を真っ赤にさせて何とか返事をした。
 そうすれば今までに見せた事ないぐらいの、まるで花が咲くような笑顔で俺を見た。

 ……だから、そーいう顔がズルいって言ってんだぞ!!

 俺は胸がムギュムギュッしながら思うけど、レノに「目を瞑って」と言われてドキッと心臓が鳴る。

「ちょ、ちょっとだけだかんな!?」
「わかってます」

 レノが音速の早さで返事をする。だから俺は心臓のドキドキを抑えながら、目を閉じた。

 ……うーっ、し、心臓が口から出そうぅぅっ。

 俺はぎゅうっと目を瞑って思う。でも、ゆっくりとレノが近づいてくる気配がした。ドッキドッキドッキドッキ。
 しかし、いくら待てどもレノの唇は俺に触れず、なんだか肩にずしっと重みがのしかかった。

「んん?」

 肩に重みを感じて目を開ければ、レノは俺の肩に寄りかかっている。

 ……え、レノ?? どうしたんだ? ……って、寝てるッ!?

 レノを見れば、すーすーっと健やかな寝息をたてているではないか。

 ……この状況で寝るって、どゆこと!?

「ちょ、レノ!? ……ん、この音?」

 俺は驚くが、何やら窓の外からシャンシャンッと鈴のような音が聞こえてきた。まるでサンタクロースの鈴の音のような。

 ……え、今はまだ夏の終わりだけど!? 冬はまだ先ですよ!? てかこの世界にサンタクロースはいないはずだけど!!

 そう思った矢先、部屋の窓が急に開く。

 ……さ、サンタさんかッ!?

 俺は驚きつつ窓を見る。するとそこには思いがけない姿があった。

「やぁ、こんばんは。……あ、もしかしていいとこをお邪魔しちゃった?!」

 そう言いつつ、窓からの侵入者は目に手を当てて隠すと俺に尋ねてきた。そして俺は今の自分の状況を見る。俺はベッドにいて、傍には上半身裸の男が俺にのしかかっている。誰が見ても、いいことをしようとしていた最中と思うだろう。

 ……キャアアアアッ!!

「ち、違うから!!」

 俺は恥ずかしさのあまり侵入者に告げ、眠っているレノをぺいっと横に放った。だが、放り出されてもレノはまるで深い眠りについたみたいにぐっすりだ。

 ……起きないけど、大丈夫だよな?

 俺が心配に思えば侵入者が俺に声をかけた。

「ごめんね、彼には眠って貰ったんだ。どうしてもキミと二人で話をしたくてね」
「俺に? 一体、俺に何を」
「それより、初めまして、だね。名前を言った方がいいかな?」

 問いかけられて、俺は首を横に振る。
 だって一目見て、この侵入者が誰だか俺にはわかったから。いや、この大神殿にいる者なら誰だってわかるんじゃないだろうか。
 鮮やかな赤髪に、肩に衣をまとった十歳位の美しい子供、同じ姿の銅像に毎日お祈りをしているのだから。

「クト神様、ですよね?」

 俺は窺うように尋ねる。するとクト様は胸をトンっと叩いた。

「そうです、僕が神様です!」

 エッヘンとでも言いたそうな顔でクト様は俺に言った。

 ……うわー、やっぱり神様なんだ! でも、どうして神様が俺なんかに!? 俺、なんかやっちゃった系? あ、もしかして聖人だって黙ってたことを怒られるとか!?

 俺は戦々恐々とするがクト様はくすっと笑った。

「だいじょーぶ、君を叱りにきたわけじゃないよ。むしろお礼を言いに来たんだ」

 クト様は俺の心を読んだらしく、そう告げた。でもお礼を言われるようなことは何もない。

「お礼ですか?」
「そう。エンキを助けてくれた事、お礼を言いに来たんだ」
「エンキ様の?」

 俺が尋ね返せばクト様はこくりと頷いた。

「聖女の血族だからと、重荷を彼女の一族に負わせてしまった。これは彼女に力を与えた僕の責任だ。亡くなった聖女も子孫がこんな風に翻弄されることなど望んでいなかっただろう」

 クト様は申し訳なさそうに、少しだけ眉間に皺を寄せて言った。きっと今までの事をずっと見てきたのだろう。

「でも、僕は神様として手を出せなかった。だからありがとう、キトリー」
「ッ! 俺の名前、どうして」
「僕は神様だよ? それぐらいわかるさ」

 クト様はふふんっと鼻を鳴らして言った。その人間っぽさに、なんだか親近感が沸く。

「そして、お礼代わりってわけじゃないけど、君のした事はみんなの記憶から消しておいたよ。明日起きれば、皆の記憶では雷が自然と落ちた、という事になっているだろう」
「き、記憶の改竄!?」
「やだなぁ、修正って言ってよ」

 クト様はニコニコしながら言った。恐るべし神様。

「ん? でも、俺のした事が消されてるってことは、俺が聖人だってバレてないって事?」
「そーいう事。キトリーはまたバルト帝国に戻れるってことだよ」

 クト様の言葉に俺は食いつく。

「ほ、本当に!?」
「僕は神様だよ? 嘘は吐かないさ。あと、僕は手を出せないけどちょっとした置き土産をしておいたから、継承権問題も何とかなるだろう」
「置き土産?」

 俺が首を傾げればクト様は「明日になればわかるさ」と教えてくれた。

 ……置き土産ってなんだろ? 明日になればわかるって言うけど、気になるな。

「ふふっ、しかし君は本当に面白い子だね、キトリー。あの子が君を気に入る理由がわかる気がするよ」

 クト様に言われて俺は目をぱちくりと瞬かせる。

「あの子?」

 ……あの子ってどの子だ? エンキ様……ってわけじゃないだろうし。んん?

 誰の事だろう? と考える俺の心を読んでか、クト様はヒントをくれた。

「僕の孫みたいな存在の子さ。でも、きっとすぐにわかるよ、キトリー。だから、これからもあの子のことをよろしく頼むね」
「んー、なんかよくわかんないけど、一応わかりました」

 俺は曖昧に返事をしておく。するとクト様はハハッと笑った。

「そんな風に返事をされたのは初めてだよ。全く面白い子だなぁ、キミは。……でも、彼がキミを選んでよかった。この星に連れてきたのがキミで」
「星に連れてきた? え、それってどういう意味」

 俺は尋ねようとしたが、クト様はどこからか神楽鈴を取り出してシャンシャンッと鳴らし始めた。

「おやすみ、キトリー。良い夢を」

 クト様が言うと、途端に俺は眠くなってきた。おかげで頭がぐわんぐわんっと揺れる。

 ……星に連れて来たって、どう、いうこと? 眠り、たくな、いのに、眠い。ク、ト様。

 俺は心の中で呟きながらも、結局眠気に負けてぽすっとベッドに横になるとそのまま眠りについてしまった。

「またね、キトリー」


 クト様が小さく呟く声を聞きながら―――――。


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